Fire In Little Africa! アメリカ史上最悪の人種虐殺から1世紀/1年目の「ジョージ・フロイドさん事件」と100年目の「タルサ人種虐殺」 Part.2
1921年5月31日から6月1日にかけて、米国史上最悪の黒人虐殺事件として知られる「タルサ人種虐殺」が起こりました。その悪夢の日から、今日(2021年5月31日)は100年目になります。アメリカ黒人史に大きく刻まれる2つの事件を読み解くシリーズの2回目も『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』の著者、藤田正さんに話を聞きました。
※トップ画像=焼き尽くされたタルサ(Ruins of the Tulsa Race Riot 6-1-21)/Collection of the Smithsonian National Museum of African American History and Culture
ファイアー・イン・リトル・アフリカ
――今回、話題にするのはタルサという町で、ちょうど100年前に起こった事件です。ここって、去年、2020年の大統領選挙の際に、当時のトランプ大統領が集会を開いて……
藤田 あいつが、大失敗をこいた町です。タルサはアメリカ南部、オクラホマ州の第2の都市。トランプの集会は当初、満員になると思われていたんだけど、蓋を開けてみたら空席だらけ。ジョージ・フロイドさんの死によって再燃したブラック・ライヴズ・マター運動のまっただなかに、3カ月ぶりの集会開催地としてタルサを選んだことも批判された……そのタルサ、です。1世紀前から人種問題ではいわくつきの場所です。
――「タルサ人種虐殺 Tulsa Race Massacre」ですね。アメリカ史上最悪といわれる虐殺事件。私は『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』で藤田さんが触れるまでその史実を知りませんでした。アメリカ国内でも多くの人が知らない、あるいは語りたがらない出来事のようです。
藤田 ジェノサイド(大量殺戮)だったからですよ。書籍では攻撃の中心となった地区の名前をとって「グリーンウッドの虐殺」と紹介しています。地元の白人たちが、あまりにも惨たらしい攻撃を黒人コミュニティにしかけたから、事件後、タルサの恥として多くの人が口を閉じた。しかし現在のブラック・ライヴズ・マター運動の中で、歴史としてはっきりと事実を伝えようじゃないかという動きになったわけです。トランプ集会の大失敗の背景にはこの気運があったし、つい先日(2021年5月28日)には、地元の若い黒人ミュージシャンが中心になった祈念アルバムがアメリカで発売された。それが『Fire In Little Africa!』(モータウン傘下のBlack Forumから)です。
Fire in Little Africa - Shining feat. Steph Simon, Dialtone, Ayilla, Jerica (Official Video)
――空爆まで行われた、と本に出てきますね。
藤田 ありえないですよ! 事件のきっかけは、ある黒人青年が商業ビルで働くエレベーターガールの白人女性にエレベーター内で触れたこと、といわれています。そこで、黒人青年の身柄をオレたちに引き渡せと、白人たちが拘置所に押しかけて、ここから銃撃戦になったそうです。
リンチ殺人が日常の当時の南部にあって、この「事件?」は、今からすれば、優越性を傷つけられた白人層にとってのかっこうの「火種」です。怒り狂ったバカ者たちは自家用飛行機まで繰り出して、グリーンウッド地区に焼夷弾を落とし、空から銃撃したそうです。もちろん地上における攻撃もあって、地区の住居や学校、病院などことごとくが焼け落ちた。同地区の35ブロックが灰燼に帰し、数千の黒人たちが路頭に迷い、殺された。
――女性に触れただけで? なぜそこまでする必要があったんですか?
藤田 触れたかどうかははっきりしない。でも、攻撃する側、あるいは、異様なほどに逆上する白人の心理については、ぜひ『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』を読んでいただければと思います。ブラック・ピープルに向けられた激しい差別って、結局は差別者の腐りきった心の問題です。
――グリーンウッド地区が集中的に攻撃された、というのは?
藤田 そこです! 奴らは町をつぶす「きっかけ」を待っていたんじゃないの? 今回のアルバムの題名が示唆的だよね、「もう一つの、小さな、アフリカ」って。当時のタルサ市グリーンウッドって、「黒人のウォール街」とまで呼ばれていて、アメリカ資本主義社会で富を蓄えたブラックによって栄えた町だった。しかしこの大事件によって、地域全体が潰され、地域黒人の富とインテリジェンスが消失させられたことにより、アメリカン・ブラック社会全体は、またまた「ゼロからの出発」を余儀なくされたとも言えるんですよ。
――ここに載せたABCニュースのYouTubeにも登場しますが、先日、この虐殺事件の3人の生存者のひとりで、107歳になる女性が議会証言をしていました。100年前ってことは当時7歳ということですね。
ABCニュース TULSA’S BURIED TRUTH
藤田 尊いことですね。日本の部落解放運動における古老の方々の聞き取りと同じです。しかし殺されたたくさんの黒人が埋葬された場所もわかっていないとは……虐殺の実際はもっとひどかっただろうということです。さらに驚くのは、今回のアルバムを企画した中心人物は、スティーヴィ・ジョンソンという若い黒人の博士だけど、24歳だった2013年、彼が大学生だった時に初めて、実家のすぐそばでこんな大事件が起きたことを知ったと語っていることです。教育者として自分は何をすべきかを考えて、『Fire In Little Africa!』へとつながる行動を取った(ジョンソン博士は、来年オープンするタルサ市ボブ・ディラン・センターに所属)。
ボブ・ディラン・センターは2022年5月10日にオープン予定。楽曲の手書き歌詞原稿、未発表のレコーディング音源、未公開のパフォーマンス・フィルムなど、ディランにまつわる10万点以上の品々にアクセスし、触れられる
――隠され続けたことがたくさんあるわけですね。
藤田 オクラホマ州政府によって「タルサ人種暴動調査委員会」の設置が決まったのが1996年。その調査報告書は2001年に公開。どれだけ秘められていたか、です。
――アメリカではドキュメンタリー映画も今年後半に公開されるみたいですね。
藤田 積年の思い! こういった表現は、これからどんどん出てきますよ。
◆タルサ人種虐殺に関する5つのドキュメンタリーと2つのフィクションの制作が進んでいる。↓