11月5日公開決定! 女王アリーサから直々に託された大役。『Respect(原題)』主演、ジェニファー・ハドソンの軌跡
劇場公開が延期になっていたソウルの女王、アリーサ・フランクリンの伝記映画『Respect』。多くの音楽ファンが待ち望んだ新作がようやく2021年8月13日、全米公開となります。本作品で主役を演じたのは、ジェニファー・ハドソン。日本での早期公開に期待を込めて、真の「アメリカン・アイドル」となったジェニファーの軌跡を追います。お話を聞くのはいつもの音楽評論家:藤田正さんです。 ※トップ画像はオフィシャルトレイラーより
追記:11月5日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他全国公開になりました!やったー!!
ビヨンセを食った?『ドリームガールズ』での鮮烈デビュー
――丸1年、公開が延期されていた『Respect』の公開で、いまアメリカが盛り上がっています。
藤田 いやあ、ぼくもはやく観たいよ、これは!
――ジェニファーといえば、私が彼女を知ったのは映画『ドリームガールズ』(2006年全米公開)でした。
藤田 1950年代から70年代にかけて活躍したモータウンの黒人女性グループ、スプリームス(The Supremes)をモデルにした作品だね。ビヨンセがダイアナ・ロスをモデルとしたディーナを主演。ジェニファーは映画ではドリームズとなっているメンバーのひとり、エフィ・ホワイトに扮し、上映当初からその演技と歌唱力が話題になった。ぼくも彼女のパワフルな声が好きなんだ。正統派のソウル・シンガーって感じがするよね。
ディーナとエフィは仲間であると同時に恋敵でもあった。(意中の相手、カーティスを演じるのはジェイミー・フォックス)
――そして、デビュー作にもかかわらず、アカデミー賞助演女優賞まで取ってしまいました!
藤田 そう。デビュー前の映像を見つけたんだけど、彼女はアメリカの大人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』 (American Idol)から出てきた人。オーディション時にはディズニーのクルーズシップで歌い終えてきたばかり、なんて話してる。残念ながら優勝は逃してしまうけど、多くの視聴者に強烈な印象を残したようだ。奇しくもこのときジェニファーは、アリーサの「Share Your Love With Me」をうたっています。
――どうも、アリーサは早くからジェニファーを自身の役に、と目論んでいたようです。
藤田 映画の公開に合わせて、アメリカでは今プロモーションが盛んに行われているけれど、やっぱりオープラ・ウィンフリーによる取材がピカイチ。ジェニファーはオープラとの打ち解けた対話で、『ドリームガールズ』のあとすぐにアリーサに食事に誘われ、自伝映画への出演を打診されたって告白してる! それは、15年も前のことなんだ。You are going to win an Oscar for playing me, right? (私を演じて、オスカーを取るのよね?)って言われたそうだよ!
――クイーンに呼び出されて、さぞ、緊張したようすが話から伝わってきます。※オープラによるインタビューは記事の最後に添付
藤田 そして、インタビューでも話されているけど、2014年2月、ワシントンDCのワーナー・シアターで行われた「BET Honors」で、チンチラのコートを着たアリーサがステージ前最前列に座るなか、ジェニファーがアリーサ・メドレーを披露。このパフォーマンスがアリーサ役の決定打になった、とも言われています。
――アリーサがオーケーのサインを出して、応えていますね。デビュー当時、ぽっちゃりとしてかわいかったジェニファーは、いまやスッキリ、スレンダー美人。
藤田 デビュー早々に大成功を収めたジェニファーだけれど、実はアカデミー賞受賞の翌年に、悲劇に見舞われている。母と兄、そして甥っ子が殺されるんだ。犯人はジェニファーの姉の元夫だった。
――そうだったんですか、辛い時期があったんですね。義理の家族に母親が殺されるという事件は日本では安室奈美恵さんの件がありますね…
藤田 想像を絶する過酷な経験も、映画『Respect』でアリーサが母を亡くすという事実に重ねて演じたと語っているね。
――そもそも「Respect(リスペクト)」はアリーサの代表曲でもあり、note でも紹介したデイヴィッド・リッツによる自伝のタイトルでもあります。
藤田 楽曲としての「リスペクト」のオリジナルは、1965年、オーティス・レディングが発表したもの。作詞・作曲もオーティスです。アリーサは2年後の1967年にカヴァーした。
オーティス・レディングは人気絶頂の1967年に若干26歳で飛行機事故で亡くなったソウルシンガー。
――同じ曲?と思えるぐらいにふたりの歌唱はまったく異なっていますね。
藤田 これは前にも言ったことだけど、アリーサのヴォーカルにおいては「私自身を語る」「私の言葉を聞いて」という積極性が、明確に表現されているってこと。1960年代の公民権運動の真っただ中、なんの権利も与えられていない、ましてや同じ黒人男性からも虐げられる黒人女性が自らの声を高らかにうたいあげた。その力強い歌声に多くの人が励まされ、共鳴したのでしょう。ジェニファーがオープラのインタビューで話しているけど、当時の女性には発言権なんてなく、アリーサでさえ、ぐっと言葉を飲み込んでいた、内向きに振舞っていたんだ、と。
――忍耐に甘んじるだけでない先人女性の闘いがあってこそ、ジェニファーのような世代は個を確立し、不自由なく発信が可能になりました。黒人の女性アーティストたちは先人に対する「リスペクト」を忘れてはいない。だから、こうした映画が今、続々とつくられているんでしょうね。
藤田 映画製作のためにジェニファーとアリーサは、文字通り毎週電話でやり取りをしていた。アリーサは2018年8月16日に亡くなりました。電話は亡くなる8日前、8月8日まで続いたそうです。
――うわー、そんな話を聞くだけで感動します! 早く観たい~!
オープラ・ウィンフリーによるジェニファーへのインタビュー:Full Episode: Oprah and Jennifer Hudson | OWN Spotlight | Oprah Winfrey Network
アリーサについてはこちらのnoteにも詳しく ↓