マ・レイニー、ベッシー・スミスはクィアの嚆矢! 黒人のオンナたちは、こうして闘ってきた/『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』
毎年2月はアメリカの黒人歴史月間(Black History Month)。ただ、ビヨンセがよく言葉にするように、これまで多くが語られてきた彼らの歴史(History)だけじゃなく、彼女たちの歴史(Herstory)がたくさんの映画で語られだしている。今回は、黒人であり、女ということでさらに過酷な差別のなかにあって、堂々と自らを貫き生き抜いた、オンナたちの物語を紹介します。
――2020年の暮れに『マ・レイニーのブラックボトム』がネットフリックスで配信開始され、私はそのあと、ベッシー・スミスの半生を描く『ブルースの女王』(2015年)をアマゾン・プライム・ビデオの配信で見たんですが、どちらもいわゆるクィアであることを知って驚きました。
藤田正さん(以下、藤田) マ・レイニー、その後輩のシンガーだったベッシー・スミスの実像ですね。白人主導の歴史評価が解体され出したことは、この二人のブルース系女性シンガーが劇映画にもなったことでもわかります。映画は「ブルース=嘆きの歌」みたいな紋切り型を否定して、当人たちの性生活にまで触れて「その人自身」に肉薄しようとしています。
――書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』では、マ・レイニーの映画のことは、公開の前からしっかり解説していましたね。
藤田 そうです。ぼくはブルースには詳しいけど、こういう視点は欠けていました。だからなおのこと画期的だとピンときた。女性で、性生活までうたい、しかも自立している存在。ブラック・ライヴズ・マター世代の黒人表現者たちは、はるか昔の大先輩に、自分らの原点を見ているわけです。ちなみにマ・レイニーは1939年に亡くなった黒人芸人。ベッシー・スミスは、マ師匠よりも早く1937年に交通事故で亡くなった。ベッシーの死因は人種差別です。大けがを負っても、黒人ゆえにちゃんと手当てしてもらえなかったんだから。ちなみに今(2021年2月)は、アメリカでは「黒人歴史月間」なんだけど、抑圧されてきた黒人たちを顕彰する1ヵ月。でも、単に過去を振り返るんじゃなくて、歴史を積極的に捉えなおしていることが、こういう作品に繋がっている。
『マ・レイニーのブラックボトム』(ネットフリックスで配信中)
――ベッシー・スミスは大歌手だったと言われていますが。
藤田 堂々たるシンガーです。マイクロフォン(拡声器)に頼ることのないストロング・ヴォイスの持ち主で、この時代の黒人女性歌手のトップだった。ビジネス・マーケットとしての「ジャズ」と「ブルース」の、そのどちらにも位置していた大スター……でも厳しい差別の中に生きていた。そしてここでいう差別って、女性蔑視も含んでのことです。だから『マ・レイニー・のブラックボトム』でも、ベッシーを描いた『ブルースの女王』でも、オトコ社会に対する怒りは物語の基調にある。
――彼女を演じたのがクイーン・ラティファ。文字通り体を張った演技がすごかったですね。
藤田 おっぱい丸出し。彼女はラップがいよいよアメリカン・ポップの主軸となった時に、女性ラッパーとして筆頭だった人です。ぼくはその頃、ニューヨークで会ったことあるけど、人気はあっても男が圧倒的優位のラップ社会でラティファ(ラティーファ)って、さてどうなるのかな~と思っていたけど、『ブルースの女王』で見事にベッシーを演じていた。難しいベッシーの歌もうたっているんだよね。感動しました。
――『ブルースの女王』には、マ・レイニー役でモニークが出てきます。
藤田 そう! モニークはお笑い出身の女性で、ラティーファが1970年生まれ、モニークは1967年。衝撃的な名作『プレシャス』(2009年)で、スラム街の最低の母親役をこなした名優です。もちろんこういう説明って、まだ日本では、何のこと?と思っている方も多いかと思うけど、アメリカにおける女性(~LGBTQ)の文化的活躍って、しばらくして日本にも大きな影響となって出現するとぼくは思っています。絶対的価値観の変革です。
『ブルースの女王』(アマゾン・プライム・ビデオで配信中)
ベッシー・スミス「ダウン・ハーテッド・ブルース」
――もうひとつ、これは奴隷解放直後の話で、こんなたくましい女性がいたのかと驚いたのですが、ネットフリックスのオリジナルドラマ『セルフメイドウーマン~マダム・C.J .ウォーカーの場合』。これがめちゃくちゃ面白い!!!
藤田 だっからよ~!
――それ、ウチナー口じゃないですか(笑)。
藤田 マダム・C.J.ウォーカー。本名はサラ・ブリードラヴという、事業を起こして、大成功を果たした黒人女性の実録もの。1867年生まれの黒人女性だよ! 彼女も厳しい差別を背負いながら、黒人女性のための美容ビジネスで莫大な富を築いた。こういう黒人の、女性が、歴史に埋もれていた。不勉強を恥じ入ります。
『セルフメイドウーマン』(ネットフリックスで配信中)
――『セルフメイドウーマン…』の主人公の娘も途中で自分は女性が好きなんだと自覚する。
藤田 示唆的だよね~。
――BLM運動の発起人である3人のうちふたりもクィアを自認しています。
藤田 そうです。このBLM運動における「地下水脈」をしっかり捉える必要があります。
――『セルフメイドウーマン…』はエグゼクティブ・プロデューサーに米プロバスケットボール(NBA)のトップスター、レブロン・ジェームスが名を連ねています。クイーン・ラティファもそうですが、黒人の力のある人たちが、次々と自分たちの歴史を発信していますね。
藤田 そこです。レブロンは大坂なおみと並ぶ、現代アメリカを担う偉人の一人です。社会への積極的な貢献を忘れない。歴史に学び、今、自分は何をすべきかをしっかりと行動する。現代ブラックは、とにかくポジティヴだと思います。
大坂なおみ選手とレブロン・ジェームス選手はともにAP通信の2020年の年間最優秀アスリート賞を受賞。
※トップ画像はオフィシャルYOUTUBE をキャプチャしました。