「ブラック・ライヴズ・マター」運動を、歌と映像で語るワケ/書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』vol.1
2020年11月26日に、企画編集を担当した書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』(藤田正著/シンコーミュージック・エンターテイメント刊)が発売になります。
本の発売に合わせて、これから数回にわたり著者の藤田正さんに製作過程のことや裏話を、私、森聖加との対談形式で公開してまいります!
【藤田正さんプロフィール】
音楽評論家、音楽プロデューサー。『ミュージック・マガジン』編集部員、『Bad News』の編集長を経て、現在はフリーランス。著作・監修に『ブルースの百年』『モダン・ジャズ革命』(以上、シンコーミュージック・エンターテイメント)、『竹田の子守唄 名曲に隠された真実』(解放出版社)、『ボブ・マーリー よみがえるレゲエ・レジェンド』(写真・菅原光博/Pヴァイン)、『沖縄 島唄紀行』(小学館)ほか。音楽制作者としては沖縄島唄、ブルースやレゲエ~サルサなど多数手掛ける。1993年、日本で唯一の「MALCOLM X展」を企画監修(渋谷&心斎橋PARCO)
あなたはマーヴィン・ゲイを聴いて泣いたことがあるか?
――2020年5月25日にジョージ・フロイドさん事件が起き、その後、全世界へBLM運動が広がりました。アメリカン・ブラックのことは藤田さんに書いてもらうしかない、と企画を相談しました。
藤田さん(以下、藤田):アメリカで起こったBLM運動という市民運動は、海の向こうの出来事ではなく、ぼくらと決して無関係じゃないことを知って欲しいと思って書きました。「BLM」は、2012年にトレイヴォン・マーティン君という若者が殺されたことをきっかけに、キーワードとして生まれたわけだけど、彼の殺害はまさしく最悪のヘイト・クライムだった。しかし、黒人への偏見と根拠もない憎しみによって命まで奪ってもなお、平然としている悪魔のような奴がいる。「ヘイト」って、現在の日本社会の主要キーワードでもあるでしょ? それは何故なのか。アメリカの黒人たち、それを支援するたくさんの人たちが、これまで何をしてきて、これから何をしようとしているのかを、とにかく分かりやすく書きたかった。
――2020年のBLM運動は、特に際立ちましたね。
藤田:歴史って不思議だよね。民主主義、人権問題の先頭を行くはずのアメリカに、真逆の大統領が生まれた。そのドナルド・トランプ氏が、2期目を目指した選挙戦でデマや人種対立を煽る言動を繰り返している時に、ジョージ・フロイドさんという黒人が警察官によって殺されたわけです。衝撃的な殺害現場の一部始終がスマホで録画されて世界へ拡散された。もしかしたらアメリカって、民主主義や人権意識から一番遠い国だったんじゃないの?とすら思わせたのが、2020年。しかもトランプという国家のリーダーのミスリードによって、新型コロナウイルスの感染拡大が世界最悪となったまさにその年に、究極の「命は大切だ」の運動が起こったわけです。実はコロナ禍と人種問題は関連しているんです。ジョージ・フロイドさんもコロナ禍で仕事を奪われ苦しんだ黒人だった。
――BLM運動は黒人の権利要求運動であり、同時に広くマイノリティの運動でもある。この側面も大事ですね。
藤田:そうです。黒人への人種偏見と暴力が端緒ではあるものの、運動の主軸は多様であり、白人、学生、お母さんたち……特筆すべきはLGBTQとされるマイノリティが大きなウネリの中核となっている。「BLM」という言葉を発信したのも黒人女性のクィアの人たちですからね(主要3人のうち2人がカミングアウト)。日本では、こういった点が広く一般メディアでは知らされていません。
――アメリカ黒人の歴史を解説する本はこれまでも多く出版されています。しかし、さまざまな事件があったことは理解できるものの、実感がいま一つ伴いませんでした。
藤田:理由は簡単ですよ。肌感覚。あなたはマーヴィン・ゲイを聴いて泣いたことがあるか?ってことです。マイケル・ジャクソンの歌に、彼が子どもの頃から受けた虐待や、大人になってからの心身をむしばんだ人種差別に(歌とリズムに接するだけで)ピンときたことがあるか?ということです。難しいことではないんです。歌とリズムに触れて、みんな真の解放への道を模索しているんだと感じること……この肉体的認知がものすごく大事です。「お勉強」じゃない。
別の言い方をすれば、世界的な、ダイナミックな動きを、日本国内の「普通」や「常識」に照らし併せて考えると、実のところ世界は「何でこうなるの?」という事象ばかり。世界のポップ・ミュージックから多大な楽しみを得て、学んできたぼくにとっては、気楽な音楽や映像文化こそが世界への扉です。名唱、名画は、偶然にできたものではありません。優れた人たちの知性とエナジーが結集しているのが歴史的名品とされるものたちです。特に、ブラック・カルチャーはその傾向が顕著であり……その何故や本質は本書に書きましたけど……歌や踊り、映像をじっくりと体験することによってこそ、実感することができる。同時に近道でもある。それを、BLM運動を軸として体系化したのが本書です。
――アメリカン・ポップ・カルチャーの特質はどんな点にあるのでしょう?
藤田:奴隷制です。白人文化であれ黒人文化であれ、奴隷制です。
vol.2へ続きます!