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『世界時々フィクション(No.8)』コロナウイルスはどこから来たの!?

コロナウイルスはどこからやってきたのか?世界を騒がせたこのウイルスの出どころは何だったのか。陰謀論がニューヨークタイムズを賑わせている。

大統領が諜報機関に調査を命令する、それが新聞記事になっている。さて、どんなチームが組まれて、どんな調査結果が出てくることやら。このチームのキャスティングで、出てくる調査結果も変わることだろう。資料を作成する者は、常に、どんな回答を出せば、読者が喜ぶか。これを考えてしまうものだ。そこには、希望的観測も入るだろう。まさか、この調査チームに中国人は入っていないだろう。

東横線に乗って渋谷へ移動する。若い顔ぶれが街を埋め尽くしている。ハチ公前もスクランブル交差点も人の往来が戻ってきている。人がいないスクランブル交差点というのは、シュールだ。まるで世界が終わったみたいな雰囲気になる。ビルだけ、交差点だけ、店のロゴだけ目立つ。人がいない。シュールレアリズムだ。いかに、都市が人の喧騒に支えられているかということを考えさせられる。

「この前はありがと。助かったわ」

長澤がそう言って、私にスタバの差し入れをくれた。マグカップもプレゼントされたこともある。長澤とは微妙な関係が続いている。相手が私に好意を寄せているのは間違いないが、それを男として行為を寄せていると勘違いすると、間違いなく大火傷する。

「いや、良かったです。無事に解決して」

「また、宜しく」

そういった長澤はサラッとした髪をなびかせて去って行った。代官山にある長澤の部屋が脳裏に浮かぶ。確かに、過ごしやすい部屋だ。長澤と私の関係はいったい何なのだろうか。

午前中、エクセルでの作業を終えてから、ランチへと繰り出した。ニューヨークタイムズ紙をチェックした。

果たして、コロナは研究所から流出して流行したのか、それとも動物が人間に移したのだろうか。そもそも、そんなこと誰がわかるというのだ。科学の力でも仮説は出せるかもしれないが、真相はわからないだろう。所詮、全ては仮説なのだ。期限は90日以内らしい。何日与えられても同じことだ。

「あれは公安の仕業なのよ!」
「CIAがやった」
「MI6の妨害工作で」
「中国の覇権主義で」
「ロシアのスパイ行為だ」

さて、世の中には陰謀論が溢れている。これは、人間に畏怖の念を抱かせるという政治的手法なわけだが、すべての人間は権威や秘密や、何か後ろ暗い雰囲気を持つ、神秘的なものに弱い。古くは呪術や陰陽師もそうだろう。要するに、人は何かあるかもしれないというものに弱いのだ。

多くの人は動物から人間に感染したのだという話をもっともらしい話だと信じていると記事は言う。英単語が目に入る。spillover、これは名詞で流出という意味のようだ。

その日は、私に一本の電話が入った。どうやら、働かないオジサンがいるらしい。昔は活躍していたのだが、今じゃ若いメンバーから煙たがられている。彼らの話はこうだ。

「最近、奇行が目立つんです」
「YouTube見てる」
「公園で寝てる」

話を聞いていてため息をつきたくなったが、そんな大人はたくさんいるのだろう。私の目の前の仕事は世界的なレベルではない、日本の会社で起こる、そんな働かないオジサンにやる気を出させる仕事だ。

さて、記事に戻ろう。武漢にあった研究所がコロナウイルス発生の中心だったことから疑惑が出ている。その後の調査でその研究所から発生したものではないと結論づけられている。しかし、世界保健機関の調査は中国の科学者の手によって行われた。そのことに対してのアメリカ内での批判が噴出しているようだ。当然、自国有利の調査内容になっているはずだというわけである。たが、ウイルスの出所の根拠なんて、どんなに客観性や論理性を突き詰めても証明出来ないのではないか。みんなそれを知っているのだ。

中国が世界保健機関のさらなる調査を嫌がったらしい。それも疑惑をさらに強めた。何か後ろ暗いことがあるのではないのか。これは中国側からしたら、ありもしない証拠をでっち上げられるのが怖いということかもしれない。そうだ、いずれにせよ、見えないウイルスの出所の根拠なんて、どうやって証明するというのか。

この世の中に生物化学兵器があるという、この事実が恐ろしいことだ。20世紀以降の戦争が恐ろしいのは、闘うための覚悟を持つ訓練を受けた武人相手ではなく、なんの覚悟もない市民を無差別に機械で攻撃するようになったことだ。そこには武士の情けも誇りもない。生物化学兵器は、国の経済をストップさせ、人命を大量に奪う。これが意図的だとしたら、一体全体どんな感覚の人間なのだろうか。

中国側も当然、アメリカの調査を信用しない。こういった場合、利害関係のない第三者が適任だろうが、その第三者に金か脅しが入りそうだ。いずれにせよ、ダーティーゲームだ。中国側は自分たち主導でアメリカに入って調査させよと求めている。この応酬は終わらない。

仕事を終えた。夜が始まった。夜は別の顔だ。通知人としての仕事が始まる。私のミッションは、社内のゴタゴタを解決することだ。主に恋愛や不倫、そこからくる業務の停滞。こういったものを無くすのが私の仕事だ。

私は北川に会釈して席に座るように促した。横浜、ホテルラウンジの個室は豪勢だ。誰だってここに呼ばれれば、何か特別なことがあると感じる。

「今日はお時間いただきましてありがとうございます」

「いえ、どうされたんですか?驚きました。急に呼び出しなんて、何か悪い話ですか?」

「そうかもしれません。心当たりはありますか?」

「さあ?」

「上田さんから人事に連絡が入ったんです」

すると、綺麗な北川の顔が一気に曇った。

(続く)

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『世界時々フィクション(No.8)』コロナウイルスはどこから来たの!?

参考記事:
By Michael D. Shear, Julian E. Barnes, Carl Zimmer and Benjamin Mueller, "‘Biden Orders Intelligence Inquiry Into Origins of Virus’:  “The New York Times”, Published May 26, 2021
Updated May 27, 2021

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