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(浅井茂利著作集)金属労協「第3次賃金・労働政策」をご紹介します

株式会社労働開発研究会『労働と経済』
NO.1607(2016年10月25日)掲載
金属労協政策企画局長 浅井茂利

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 金属労協は2016年8月、「第3次賃金・労働政策」を策定しました。
 最初の「賃金・労働政策」は1997年、バブル経済の崩壊やグローバルな大競争時代突入により、人件費コスト引き下げ圧力が高まり、非正規労働の拡大と成果主義賃金制度の導入が進む中で、長期安定雇用を基本としつつ、雇用移動が勤労者にとって不利にならない「ヒューマンな長期安定雇用」を掲げたものでした。
 また、2004年策定の「第2次賃金・労働政策」では、戦後最長の景気拡大の真只中で、収益が大幅に改善する一方、総額人件費抑制・変動費化の流れは変わらず、労働分配率が急激に低下、実感なき景気回復と言われる状況の下で、働き方の選択肢の拡大、仕事・社会・家庭生活の調和を主張してきました。
 今回の「第3次賃金・労働政策」は、新しい成長分野が拡大し、第4次産業革命が進展する中では「現場力」が決定的に重要、勤労者への配分の強化による「経済の好循環」が最重要課題、多様を人材が活躍できる環境整備と「人への投資」が不可欠、との認識に立って、ものづくり産業を組織する労働組合として、それらへの対応を具体的に示したものと言えます。

「第3次賃金・労働政策」の3つの柱

 わが国の基幹産業であるものづくり産業は、
*長期的な観点に立った経営が必要。
*人材(人的資産)が決定的に重要であり、チームワークで成果をあげる仕事である。
*グローバル経済を生き抜いていくための独創性が不可欠。
*バリューチェーン、サプライチェーン全体として強みを発揮する産業である。
といった特徴があります。長期にわたる経験によって蓄積された現場の従業員の技術・技能やノウハウ、判断力と創意工夫、それらを発揮することによる技術開発力、製品開発力、生産管理力などの「現場力」が日本のものづくり産業の「強み」となっています。
 インダストリー4.0、インダストリアル・インターネット、第4次産業革命といった動きが急速に進展していますが、新しい技術、新しい仕事、新しい仕組みが次々と生まれてくる中にあっても、「現場力」が「強み」であり続けることは間違いありません。
 また、1990年代以降の旧共産圏諸国の市場経済化と発展途上国・新興国の台頭によるグローバル競争の激化、国内における長期にわたるデフレと低成長を背景に、日本企業では、総額人件費の抑制・変動費化が図られ、非正規労働の拡大や、いわゆる成果主義賃金制度の導入が行われてきましたが、現在では、
*金属産業の新しい成長分野において研究開発、技術開発、製品開発が急速に進展し、また第4次産業革命が進展する中で、総額人件費の抑制・変動費化に主眼を置いた雇用・賃金・処遇で国際競争力が確保できるとは到底考えられない。
*勤労者への配分の強化によるデフレ脱却、「経済の好循環」こそが、わが国経済における最重要課題となっている。
*わが国経済の持続的な成長、社会保障制度の維持のためには、多様な人材が活躍できる環境整備が不可欠である。
*生産年齢人口が急激に減少し、人材獲得競争はより激しいものとなっている。
などといった環境変化の中で、労働組合が従来から主張してきた「人への投資」重視が、経営側も含め、社会的な理解を得るようになってきました。
 金属労協は従来より、
*長期安定雇用を基本的に維持しつつ、勤労者を企業に拘束するのではなく、雇用移動が勤労者にとって不利にならない「ヒューマンな長期安定雇用」。
*ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の水準を超えて、戦後70年以上にわたって築き上げてきたわが国の経済力、先進国としての日本、世界市場をリードする技術・技能、これらにふさわしい賃金・労働諸条件、働き方を確立しようする「良質な雇用」の確立。
を主張、「労働CSR」の推進にも取り組んできましたが、これらは、金属産業の健全な発展と金属産業に働く者の生活向上にとって、引き続き重要な課題となっています。
 金属労協「第3次賃金・労働政策」では、2020年代前半までの経済・産業・企業の状況を念頭におき、
1. 雇用の安定を基盤とした多様な人材の活躍推進
2. 「同一価値労働同一賃金」を基本とした均等・均衡待遇の確立
3. ワーク・ライフ・バランスの実現
を3本柱として考え方を整理し、労働組合として取り組むべき具体的課題を提示していくことにしました。

雇用の安定のための具体的な施策

 「雇用の安定を基盤とした多様な人材の活躍推進」の具体的施策としては、
○企業において、雇用の安定を基盤とした人事政策が確立されるよう、労働組合として関与していく。
○出産・育児、看護・介護、病気治療などによる離職を可能な限り防止するため、両立支援制度の充実と職場環境の整備に取り組む。
○短時間正社員、勤務地や職種を限定する正社員の働き方を設ける場合には、一般的な正社員への転換を可能とする。
○非正規労働者は、積極的に正社員への転換を図る。労働契約法に基づき有期雇用者を無期雇用に転換する場合も、正社員への転換を基本とする。
○派遣労働者は、派遣元と無期雇用の正社員として契約しているのを基本とし、登録型の派遣労働者に関しては、派遣元から直接雇用の申し入れがあった場合や、派遣元と派遣労働者との雇用契約が終了した場合に、派遣先は、正社員としての直接雇用を積極的に検討する。
ことなどを掲げています。
 また、60歳以降の雇用に関しては、
○将来的にエイジフリーの構築をめざし、研究・検討を進めていく。
○当面は、定年延長など、 60歳以降の雇用の安定を確保する。
○職務や働き方は、 60歳以前の豊富な経験に基づく技術・技能を発揮できる仕事を基本としつつ、健康・体力面での個人差の拡大や、ワーク・ライフ・バランスの観点を踏まえ、選択肢を拡大する。
○特別支給の老齢厚生年金や高年齢雇用継続給付を前提とした賃金から、労働の価値にふさわしい賃金へ見直す。
ことなどを主張しています。

「同一価値労働同一賃金」を基本とした均等・均衡待遇実現に向けて

 「同一価値労働同一賃金」については、性別、年齢、雇用形態、グループ企業内などあらゆる勤労者の間で適用され、不合理な格差が解消されなくてはなりません。とくに、非正規労働者と正社員の同一価値労働同一賃金実現に向け、次のような具体的な進め方を提案しています。
○有期雇用者など直接雇用の非正規労働者に関しても、賃金制度を整備し、賃金表の作成、賃金の決定基準の明確化を行うとともに、習熟による職務遂行能力の向上を賃金に反映させる。
○高卒直入の正社員の初任給と、未経験の非正規労働者の入口賃金を同水準とし、その後の賃金水準が、知識・技能、負担、責任、ワーキング・コンディションを反映した合理的なものとなっているかどうか、つねにチェックを行っていく。
○賃金・一時金だけでなく、退職金、労災補償、福利厚生、教育訓練など労働諸条件全般にわたって、均等・均衡を確立していく。同一の基準で給付すべきものについて、不当な差別的取り扱いがないようにチェックしていく。
 政府は「同一労働同一賃金」の検討を進めており、
*職務内容が同一または同等の労働者に対し同一の賃金を支払うことを原則とし、労働の質、勤続年数、キャリアコースなどの違いは同原則の例外として考慮する欧州型同一労働同一賃金。
*職務内容や、仕事・役割・貢献度の発揮期待(人材活用の仕方)など、さまざまな要素を総合的に勘案し、自社にとって同一労働と評価される場合に、同じ賃金を支払う日本型同一労働同一賃金。
などについて議論となっていますが、
*ものづくり産業では、職務遂行能力の向上を賃金に反映する職能給が主流であり、これを前提とする仕組みであるべき。
*職務内容以外の「さまざまな要素」に関しては、あくまでも職務遂行能力の判断基準であり、格差の存在を肯定するための理由づけに用いられてはならない。
*「さまざまな要素」は、「総合的に勘案」されるのではなく、具体的・客観的な基準が明らかにされるべきである。
などといった考え方に立って、金属労協は「同一価値労働同一賃金」の組み立てを行っています。もちろん、
○労使対等の下で、交渉による賃金・労働諸条件の決定を行っていくため、非正規労働者の労働組合加入の取り組みをさらに強化する。
○非正規労働者が組合未加入の場合であっても、労働組合として、労使交渉や労使協議などを通じて、賃金・労働諸条件の改善に取り組む。
○企業内最低賃金協定の取り組みの成果を特定最低賃金に波及させ、金属産業全体の賃金の底上げ・格差是正を図る。
といった取り組みについても、引き続き強化していかなくてはなりません。

働き方改革と年間総実労働時間1,800時間台の実現

 「ワーク・ライフ・バランスの実現」に向けた「働き方改革」としては、所定労働時間の短縮とともに、
○年次有給休暇の完全取得をめざし、年休切捨ゼロ(年休カットゼロ)を実現する。取得状況を労使で確認し、計画取得など年休取得促進策の導入や職場の意識・風土の改革、要員確保に取り組む。
○36協定を締結する労働組合の責任の重みを認識し、過重な所定外労働をなくすため、36協定限度時間の引き下げ、特別条項の限度時間の引き下げや厳格な運用などに取り組む。
○恒常的所定外労働が根絶されるよう、労使で所定外労働の現状を分析し、仕事の進め方や働き方の見直し、要員確保を行うとともに、長時間労働を認めない職場風土の醸成に取り組む。
などを提案しています。

賃上げ、配分における課題

 「第3次賃金・労働政策」では、賃金制度や賃上げ、配分に関しても、
○従業員の生活の安心・安定を確保し、職場全体のモチベーションの向上、技術・技能の育成や生産性の向上による「現場力」の強化を図るため、勤続年数の増加による職務遂行能力の向上を反映し、かつ増加する生計費に対応して昇給する仕組みである定期昇給制度など賃金構造維持分は、引き続き維持していく。
〇一定程度の賃金水準に達すると、昇給する者が極端に少なくなるような制度ではなく、職務遂行能力の向上を適切に反映する賃金制度としていく。
○賃上げにより、賃金表を書き換える。
○各産別における規模別の個別(銘柄別)賃金水準の共有化を図り、基幹労働者の賃金水準形成をめざす。
○バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の考え方の浸透を図り、バリューチェーンの各プロセス・分野の企業において、適正に付加価値が確保されているかチェックしていく。
○雇用の維持拡大、労使の協力と協議、成果の公正配分を労使で確認した「生産性3原則」を堅持し、国民生活の向上、産業・企業の健全な発展、持続的な成長を実現していく。
といった考え方を示しています。
 「第3次賃金・労働政策」はもちろん絵に描いた餅で終わってしまってはなりません。どのように実現していくか、まずは2017年闘争がその第一歩となります。

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