賃上げの参考書(4)どのような経路によって人件費が引き下げられていったのか②
2024年5月8日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利
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<概要>
*日本の人件費が引き下げられ、低賃金構造が定着してしまった、その経路のふたつ目が、「同一価値労働同一賃金」が確立されないまま、非正規雇用が拡大してしまった、ということになる。総務省統計局「労働力調査」によれば、役員を除く雇用者に占める非正規雇用者の割合は、1990年代前半には20%前後だったが、2019年には38.2%に達している。
*非正規雇用拡大の契機となったのは、1995年に旧日経連が発表した『新時代の「日本的経営」』という報告書である。この報告書では、一部の幹部社員以外の専門職、一般職、技能職などを非正規雇用とする雇用ポートフォリオ、職務内容や職務階層に応じた複線型の賃金管理を行い、成果・業績によって格差を拡大させるラッパ型賃金管理が打ち出され、その後、正社員の職の非正規雇用への置き換えと成果主義賃金制度の導入が進んだ。グローバル経済化による途上国、新興国そして移行国を含めた熾烈な国際競争によって、日本企業では国内人件費の割高感が強まり、おりからのデフレ経済により、経営側では、人件費の削減・変動費化を図りたいという意向が高まったが、それにお墨付きを与えたのが『新時代の「日本的経営」』報告書だった。
*正社員の職が非正規雇用に置き換わったとしても、「同一価値労働同一賃金」が確保されていれば、理屈としては働く者の賃金水準を全体として引き下げることにはならなかったはずであるが、2018年に政府が「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」をとりまとめるまでは、正社員と非正規雇用の賃金格差縮小はなかなか進まず、非正規雇用の拡大は、日本の賃金水準を全体として低下させることになった。
*厚生労働省の『令和5年版労働経済白書』によれば、正社員の時給に対する非正規雇用の時給の比率は、勤続0~4年の場合では、販売・サービス関係が7割、事務関係が9割、製造関係が9~10割、勤続10~19年の場合では、販売・サービス、事務、製造とも6~7割という状況になっている。近年の人手不足、政府による「同一労働同一賃金」の取り組み、法定最低賃金の引き上げなどにより、いわゆる入口賃金の賃金格差は縮小しているが、勤続が進むにつれて、賃金格差は依然として大きなままとなっている。
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