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十倉経団連会長、改めて「物価動向を特に重視」した「ベースアップ」を求めるとともに、満額回答の拡大に期待を表明

2023年3月1日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利

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 経営側の春闘方針である経団連『2023年版経営労働政策特別委員会報告』では、一部で全体のトーンとは異なる消極的な表現、誤解を招く表現が残っていましたが、十倉経団連会長は定例記者会見などを通じて、事実上、そうした部分の修正を行い、「物価動向を特に重視」した「ベースアップ」を求めるとともに、満額回答の拡大に期待を表明しました。
 2023年春闘では、連合、経団連をはじめとする「大転換」を強く意識し、これに対応する労使と、デフレマインドから抜け出せない従来型の発想とのせめぎあいということになります。

十倉経団連会長、『経労委報告』の中でトーンの異なる部分を修正

*経営側の春闘方針である経団連『2023年版経営労働政策特別委員会報告』では、
・「物価上昇への対応」が社会的に求められていることは、経団連も十分認識しており、消費者物価が上昇していることから、要求水準を昨年より引き上げること自体について労働運動としては理解できる。
としつつも、
・(連合の)引上げ要求は、指標や目安とはいえ、賃金引上げのモメンタムが始まったとされる2014年以降の賃金引上げ結果と比べて大きく乖離している。
と批判していました。

*しかしながら、2023年については『経労委報告』自身も、「大きな転換点」、「長らくわが国社会に染みついたデフレマインド」の払拭、「約30年ぶりの物価上昇という特別な状況」などという認識を示しています。連合の賃金要求方針が「2014年以降の賃金引上げ結果と比べて大きく乖離している」のは当然であり、『経労委報告』の中で連合の要求方針を批判する部分は、全体のトーンとは大きく異なる、きわめて違和感のある記述でした。

*これに対し、十倉経団連会長は定例記者会見において、以下のような見解を示し、『経労委報告』における連合の要求方針批判の部分を事実上、修正しました。経団連として一律の数値目標を掲げるのは適切ではないとしつつも、連合の5%(定昇相当分を含む)の賃金要求方針を支持したことは、きわめて重要な発言と言えます。
・「2023年版経営労働政策特別委員会報告」には、賃金引上げの目標値こそ明記していないが、賃金引上げを企業の社会的責務とまで位置づけ、その実現を力強く訴えている。連合が、今年の春季労使交渉の運動目標として5%の賃上げ指標を掲げたことは理解できるが、日本の企業数・従業員数の大部分を中小企業が占めているうえ、業績が業種・業界・個社により様々でもあることから、経団連が一律の数値目標を掲げるのは適切ではない。(2月6日)

*また、十倉会長は同じく定例記者会見において、マスコミで相次いで報道されている、物価上昇率を上回る大幅なベースアップ実施、満額回答の動きを支持し、他の企業がこれに続くことに期待を表明しています。
・今年は、近年ベアを行っていなかった企業が実施を表明したり、大幅な賃金引上げを宣言したりする企業が出るなど、嬉しい知らせが続いており、賃金引上げのモメンタムにこれまで以上の力強さを感じている。たとえ小さなことであっても、一つひとつの行いが大きなうねりとなって、大きな行動変容に至るという「バタフライ効果」という現象がある。このような連鎖反応が起きることを期待している。今年を大きな変化の起点の年としたい。
(2月6日)
・賃金引上げのモメンタム維持・強化に向けた心強い発表が相次いでいる。トヨタやホンダが労働組合の要求に満額回答したのは、できるだけ早く多くの層に賃金引上げのモメンタムを広げようという配慮があったからではないか。こうした動きの拡大を大いに期待したい。
(2月27日)

十倉会長、物価動向を特に重視した賃金引上げとして、「ベースアップ」を求める

*『経労委報告』では、
・近年に経験のない物価上昇を考慮した基本給の引上げにあたっては、制度昇給(定期昇給、賃金体系・カーブ維持分の昇給)に加え、ベースアップ(賃金水準自体の引上げ、賃金表の書き換え)の目的・役割を再確認しながら、前向きに検討することが望まれる。
という記載があります。これは、「物価上昇を考慮」することが「ベースアップの目的・役割」のひとつである、という趣旨と理解することができますが、一方で、「制度昇給+ベースアップ」で物価上昇率をカバーすればよい、との誤解を招く危険性がありました。制度昇給は習熟昇給であるとともに、従業員の年齢の上昇に伴う、教育費など生計費の増加に対応するものですから、制度昇給を含まない、ベースアップだけで物価上昇率をカバーすることができなければ、職務遂行能力の実質価格の切り下げ、実質生計費の減少、生活水準の低下を招くことになります。

*これに対し、十倉経団連会長は2月17日、東海地域経済懇談会後の共同記者会見において、以下のような発言を行い、改めて、「物価動向を特に重視」した賃金引上げは、「ベースアップ」で行うことが基本であることを訴えました。
・今年は物価動向を特に重視し、できればベースアップ(ベア)、ベアが難しい企業はその他の手段による賃金引上げを強く呼びかけている。

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