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(浅井茂利著作集)ふるさと納税をどう使うか

株式会社労働開発研究会『労働と経済』
NO.1632(2018年11月25日)掲載
金属労協政策企画局主査 浅井茂利

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 ふるさと納税の利用が拡大していますが、その原動力となった返礼品がクローズアップされています。2017年に総務省より、返礼品はふるさと納税額の3割以下という通知が出され、今年4月には、地場産品に限るという通知が出されています。返礼品など禁止すべき、礼状だけでよい、という人もいるようですが、筆者はむしろ返礼品こそ、地元の産業振興に直接効果のあるすぐれた使い方のひとつだと思っています。本稿では、
*ふるさと納税は、大都市圏の自治体財政に打撃を与えているのか。
*返礼品は間違った使い方なのか。
*返礼品以外にどのような使途があるか。
について、考えてみたいと思います。

ふるさと納税は、大都市圏の自治体財政に打撃を与えているのか

 ふるさと納税は、「多くの国民が、地方のふるさとで生まれ、教育を受け、育ち、進学や就職を機に都会に出て、そこで納税をする。その結果、都会の地方団体は税収を得るが、彼らを育んだ『ふるさと』の地方団体には税収はない。そこで、今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた『ふるさと』に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか、という問題提起」から始まったものです(総務省「ふるさと納税研究会報告書」2007年10月)。
 もともと大都市圏の自治体と地方の自治体との税収格差が背景としてあり、ふるさと納税は直接的にはその是正を謳っていないものの、大都市圏から地方への税収の移転をめざしたものであることは間違いありません。そうしたことからすれば、大都市圏の自治体財政に一定の影響を与えることは否定できません。
 しかしながら、ラフな計算ですが、2018年度課税において、東京都および東京都の区市町村のふるさと納税による減収額は646億円ですが、東京都および東京都の区市町村の普通会計の歳出総額は約12兆円(2016年度)なので、ふるさと納税の影響は、普通会計歳出の0.5%強ということになります。社会福祉にも悪影響が出ている、などという話を耳にしますが、どれほどの根拠があるのだろうか、と思います。もし打撃が大きいのであれば、超高層 マンションを誘致するために、何十億円という補助金を出している余裕はないはずです。

返礼品は試供品である

 次の論点としては、ふるさと納税の納税者に対する返礼品の問題です。総務省は2017年4月、「ふるさと納税の返礼品に関する有識者の意見の概要」を発表しましたが、この中には、「返礼品は本来不要であり、首長からふるさと納税を行ってくれた人への感謝の言葉などに止めるべき。返礼品が当たり前になることは寄附文化をゆがめる要因ともなりかねない」という意見がある一方、
*地方の特産品事業者等の創意工夫(アントレプレナーシップ)を喚起し、企業力の向上に繋がっている。
*地方の特産品事業者は、返礼品の提供を通じて、マーケティング能力を磨くとともに、デザインや商品説明の工夫を行うなど商品力の向上に努めている。返礼品の提供は功罪あるが、間接的に地方における中小地場産業の育成に繋がっている面も重要。
*返礼品は、地域で頑張っている農家、漁師の方一人一人が直接、消費者と向き合う契機となっている。そこから意識改革とやる気が生まれ、地場産業の発展に寄与している。また、そうした農家の方々などをとりまとめる地域商社的な取組が生まれ、ネットワーク化が進んでいる。
*人の循環を促すような返礼品は、地域の魅力を再発見し、移住定住の足掛かりになるため、金銭類似性を排除する考慮の上、自治体のアイデア次第で進めてもよい。
*返礼品がなければ、制度がここまで定着し、活用されることは無かったと思われ、また地方の特産品のPRや振興に資している効果も無視すべきではない。一方で、派生したポータルサイトは、ふるさと納税を実質的に通販化しており、またポイント制度は経済的利益化を引き起こしている。ただし、ポータルサイトは、災害時等におけるふるさと納税のインフラとしても機能していることには留意が必要。
*返礼品を通じて、ブランド化されていない特産品を知るきっかけとなるとともに、地域や生産者とのつながりを実感できる効果がある。ただし、特産品生産者は、ふるさと納税はきっかけでしかないことをよく認識し、返礼品に頼るのではなく、販路拡大等に取り組む姿勢が重要。
などという意見が紹介されています。ふるさと納税は、返礼品という仕組みによって、当初の意図とは大きく異なってきていますが、当初の意図を超えて、地域活性化に大きな成果をあげていることがわかります。
 そもそも返礼品をふるさと納税に対する「御礼」と考えるので、使途として違和感が生じるのであって、たとえば地元産品の「試供品」と考えてみたらよいのではないかと思います。いかにインターネット通販が発達しているにしても、大都市圏から離れた地方の自治体が、大都市圏の住民に地場産品を知ってもらう、試してもらう、それによって魅力を伝えるということはきわめて困難です。しかしながら、地場産品の試供品を配布すれば、本当に優れた商品であれば、その宣伝効果は絶大です。もちろん、商品でなくてもよいわけで、地元に招待し、地元の魅力を体験してもらう、というようなことで、魅力を感じて再訪する人も少なくないと思います。
 そもそもふるさと納税による収入は、きわめて不安定ですから、社会福祉のような、自治体の収入が減っても給付を削減できない支出に用いることはできません。案外、使途は限られると思います。
 たとえば、ふるさと納税で公共施設を作った場合と、試供品を配布した場合とで効果を比べてみましょう。
 公共施設を作った場合、地元業者がこれを建設すれば、建設費は地元業者に支払われるので、地元業者の振興にはなりますが、これは一回限りのことであって、公共施設の建設によって新たな需要が生まれるというわけではありません。
 建物が評判になってその業者に新たな発注が来る、という可能性もないわけではありませんが、その業者はそれまでも事業を行っていたわけですから、そのような突然変異は考えにくいでしょう。公共施設が地元住民のニーズに沿ったものではないかもしれませんし、維持費が捻出できず、荒廃して無残な姿をさらし、地元にとって負の遺産となる可能性もあります。道路の補修などは、継続性が見込まれないとしても、やらないよりはやったほうがよいので、ふるさと納税の使途として有効だと思いますが、これも本当に住民が必要とする補修に限られます。予算があるから補修ありきで、傷んでいない道路のアスファルトを敷き直したり、ほとんど通行量のない道路の補修を行ったりするのは論外です。
 これに対して試供品の場合、自治体が試供品を地元業者から購入し、ふるさと納税者に対して配布するということは、地元の業者にとって売り上げが立つだけでなく、ふるさと納税のリピートも期待できますし、さらに業者の新規顧客の開拓につながれば、きわめて費用対効果の高い産業振興策となります。
 返礼品に反対の人々は、ふるさと納税制度が自治体に対する寄付金控除であることを理由に、ふるさと納税は「利他的動機」による行動を尊重するものであり、返礼品はそれを阻害し、「利己的動機」を高めている、と批判しています。
 しかしながら、経済政策によって「利他的動機」を後押しするという考え方は危険です。「利他」の内容がどのようなものであるかが、為政者によって決められてしまうのは好ましくありません。寄付金控除の仕組みも、政府や役所に無駄に使われるくらいなら、自分で使途を決めたい、という「利己的動機」を実現するもの、と考えるべきです。
 国民がそれぞれ自己の利益を追求した結果、それが国民の分断、格差の拡大を招くのではなく、国民全体の福祉の向上につながる、そうした仕組みを作っていくことこそ、経済政策のあるべき姿です。

ふるさと納税は実質的には減税である

 現在、ふるさと納税を受けた自治体は、ふるさと納税額全額を使えるのに対し、住民がふるさと納税を行った自治体の減収は、ふるさと納税額の7割程度です(その差である3割の大部分は、所得税控除のため国の負担)。
 返礼品はふるさと納税額の3割以下という規制がありますので、とりあえず3割とすると、住民がふるさと納税を行った自治体では、その7割が減収となるものの、3割は返礼品として住民の懐に戻ってくることになります。実質的な減税です。県庁・役所・役場ということでなく、住民を含めた行政区画としての自治体として見れば、負担はふるさと納税額の4割(-7割+3割)です。
 もし、返礼品の3割規制を撤廃し、ふるさと納税の7割の返礼品を配布したとすると、住民がふるさと納税を行った自治体では、行政区画としての自治体としてみれば、プラス・マイナスゼロということになります(-7割+7割)。
 ふるさと納税を受けた自治体のほうはどうかというと、7割は地元業者の売り上げとなるだけでなく、その新規顧客開拓につながり、3割は返礼品以外の事業に使えるわけで、3割以上のプラスとなります。
 住民がふるさと納税を行った自治体がプラス・マイナスゼロ、受けた自治体がプラスとなっている分は、おおむね所得税控除として国の負担となっているわけですが、そもそも地方振興策として、国は巨額の予算をつぎ込んでいます。たとえば、その一部である「まち・ひと・しごと創生関連事業」は、2018年度予算において1兆7,844億円となっています。
 ふるさと納税に伴う国の負担は、その6%程度にすぎません。仮に「まち・ひと・しごと創生関連事業」のほとんどが、ふるさと納税より政策効果が高いというのであれば、ふるさと納税は無駄な施策で、そちらに予算を使ったほうがよい、ということになりますが、なかなかそれは考えにくいと思います。
 なお、この計算は返礼品を7割にするとこうなる、というだけで、7割にすべきだ、と言っているわけではありません。返礼品の割合は規制せずに、ふるさと納税を受ける自治体が適切に判断すればよいと思います。

専門高校の設備などにふるさと納税の活用を

 返礼品=試供品以外のふるさと納税の使い方としては、専門高校の設備予算に用いることを提唱したいと思います。
 専門高校は都道府県立が多いですが、機械設備などの購入、更新、修繕に十分な予算が確保できていません。地方では、優秀な専門高校ほど卒業生が大都市圏に流出してしまうので、首長が専門高校の予算は無駄だと考えているような場合もあるようです。
 ふるさと納税は前述のように、「地方のふるさとで生まれ、教育を受け、育ち、進学や就職を機に都会に出て、そこで納税をする」のを、地方に還元する仕組みですから、専門高校の機械設備をふるさと納税で整備するというのは、まさに理想的な使い方です。区市町村に対するふるさと納税を都道府県立高校に使えるのかという点では、問題ないという回答を総務省から得ています。区市町村の役所・役場としては、抵抗感があるかもしれませんが、設置者がどこであれ、住民の子弟の通う学校の教育の充実は、区市町村にとって重要であると思います。

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