中高年層における所定内賃金の抑制・引き下げと、若年層における生涯所得の見通しの低下
2022年12月5日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利
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平均消費性向の大幅な低下
総務省統計局「全国家計構造調査(2014年までは全国消費実態調査)」によれば、2009年から2019年にかけての10年間において、平均消費性向(可処分所得に占める消費支出の割合)は、12.4%ポイントも低下しています。
世帯主の年齢層別に見ると、とりわけ35歳未満の若年層において、年齢計を上回る15.2%ポイントも低下しています。
消費は、
・恒常所得、すなわち安定的に得られる所得
・生涯所得の見通し
に依存します。
恒常所得に近い「世帯主の定期収入」が実収入に占める割合を見ると、この10年間に、年齢計で6.9%ポイント低下しており、これが平均消費性向の低下に影響している可能性があります。
35歳未満の若年層における「実収入に占める世帯主の定期収入の割合」の低下幅は、6.5%ポイントと年齢計よりもやや小さく、この点からは、若年層の平均消費性向の低下幅が全年齢平均より大きいことを説明できません。
ちなみに、「実収入に占める配偶者の収入の割合」の上昇が、「実収入に占める世帯主の定期収入の割合」の低下要因の約4割を占めていますが、若年層における「実収入に占める配偶者の収入の割合」の上昇幅も、年齢計よりやや小さくなっています。
若年層における悩みや不安と将来への備え
若年層における平均消費性向の低下の大きさを恒常所得の観点から説明できないとすれば、あとは、生涯所得の見通しということになります。
2021年の内閣府「国民生活に関する世論調査」において、「日常生活での悩みや不安」の内容を年齢層別に見ると、20代後半、30代前半、30代後半では、「今後の収入や資産の見通し」が他の項目を大きく引き離して1位となっており、「老後の生活設計」が「今後の収入や資産の見通し」を上回るのは、50代となってからとなります。
また、「将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか」という設問に対しては、20代後半、30代前半において、「毎日の生活を充実させて楽しむ」という回答が少なく、「貯蓄や投資など将来に備える」が多くなっている傾向が顕著となっています。
中高年層における所定内賃金の抑制・引き下げ傾向
1995年に旧・日経連がとりまとめた『新時代の「日本的経営」』報告書では、人件費の抑制・変動費化をめざし「ラッパ型の賃金管理」が打ち出され、その具体化として、成果主義賃金制度が導入されてきました。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」において、1990年代後半以降の中高年層の賃金水準の変化を見ると、
・高卒については、1990年代後半から中高年層の賃金水準が継続的に低下してきたが、2012年の景気回復以降も、ほぼ横ばいに止まっている。
・大卒については、1990年代後半以降に賃金水準が低下したのち、とくに40代(40代前半、40代後半)については、2012年の景気回復以降も低下傾向が続いている。
という状況が見られ、生涯所得の見通しの低下を通じて、消費抑制を招いているものと見られます。
日本の賃金制度は「年功に偏重した制度」(経団連『2022年版経営労働政策特別委員会報告』)との批判がありますが、国際的に見て、わが国の中高年層の賃金水準が若年層に比べて特別に高いという傾向は見られません。年齢を経るに従って増大する生計費を賄うに足る賃金を確保することが、中高年層の生活の安定だけでなく、若年層の将来不安解消のためにも不可欠となっています。