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中小企業における物価上昇を上回るベースアップの実現に向けて

2024年10月30日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利

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<概要>

*日本で産み出される付加価値の半分は、資本金1億円未満の企業によるものである。マクロ経済の状況には、大企業だけでなく中小企業の経済活動も反映されており、中小企業においても、マクロ経済の状況に即して形成される世間相場の幅の中で、ベースアップを行っていく必要がある。

*連合の集計によれば、2024年には全体として物価上昇を上回るベースアップを獲得しているものの、2023年、2024年の2年間で見ると、大手を含めて2年間の物価上昇をカバーするベースアップが確保できていない。2023年の交渉結果は、労使ともに時代の転換への迅速な対応ができていなかったことによるものであり、その分を追加で補正することは、交渉の「蒸し返し」や信義則違反にはあたらない。

*厚生労働省「毎月勤労統計」によれば、製造業、卸売業・小売業の事業所規模30人以上の集計では、所定内給与が実質でプラス傾向となっている。「実質賃金が維持できていないのが一般的な傾向である」と判断することは誤りである。

*帝国データバンクが実施した「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」によれば、「人手が不足していない」企業のうち、51.7%の企業がその要因として「賃金や賞与の引き上げ」を挙げており、少なくとも賃上げによって適切な賃金水準を確保しなければ、人手不足が解消しないのは明らかである。

*一般論として、中小企業では、賃金の「支払い能力」が大企業に比べ劣っているとしても、財務省の「法人企業統計」において売上高経常利益率の長期的な推移を見ると、中小企業の水準は大企業に比べ低くなっているものの、時系列でみれば、大企業と同様、1970年代の第1次石油危機以降の最高水準に達している。

*帝国データバンクが2024年3月に発表した「企業の『潜在賃上げ力』分析調査(2024年度)」では、約6万社のデータから、当期純利益の3割を人件費に投下した場合、全体で6.31%、大企業で18.93%、中小企業で5.90%の人件費の増加に充てることができると分析している。

*東京商工リサーチが2024年8月に実施した「2024年『最低賃金引き上げに関するアンケート』調査」によれば、中小企業の64.2%で、来年度(2025年度)においても50円以上の法定最低賃金引き上げが許容できると回答しており、27.2%が100円以上、10.6%が200円以上と回答している。

*賃金水準の明記された賃金表を確立することなくして、企業規模間格差是正は困難である。また、定期昇給は、
・それぞれの年齢における職務遂行能力の向上に見合った購買力の引き上げ
・それぞれの年齢における労働力の再生産費用の増加を踏まえた購買力の引き上げ
であり、企業の規模、新旧を問わず、また職能給中心、職務給中心の如何を問わず、これを組み込んで賃金表を作成し、実施していく必要がある。

*労使対等の交渉によって賃金・労働諸条件を決定していくためには、労働組合の組織化が絶対条件であるが、会社側に経営権、とりわけ指揮命令権、人事権がある中で、企業別組合(単組)が労使対等の交渉を行っていくためには、産別労働運動、具体的には、
・交渉における産別指導(要求内容、交渉日程、交渉対策)
・産別内の情報共有(経済情勢や産業動向、各社における賃金・労働諸条件の制度や実態、交渉状況など)
が重要となる。

*賃金水準の企業規模間格差是正実現のための第三の要件は、労使による経営情報の共有化である。労使交渉・協議の場において、企業業績の状況に関しデータに基づいて検討していくことが不可欠である。

*中小企業庁の集計によれば、中小企業では、大企業よりも実質(物的)生産性の向上率が高いにも関わらず、それに見合った名目(付加価値)生産性の向上が見られない状況にある。賃金水準の企業規模間格差是正実現のための第四の要件は、適正な価格設定、価格転嫁など公正取引を実現し、サプライチェーン内において付加価値が適正に配分されるようにすることである。

*「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に基づき、受注企業は、発注企業がとるべき行動をとっているか、「優越的地位の濫用」または「買いたたき」にあたるおそれのある行動をとっていないか、チェックしていく必要がある。

*下請事業者でカイゼン活動を推進している企業は、製造業でも2割程度に止まっているものと見られる。DX投資をより効率的・効果的に進めるためにも、製造業・非製造業を問わず本格的なカイゼン活動に取り組み、一層の実質(物的)生産性向上を図っていく必要がある。

*中小企業庁の「中小企業実態基本調査」において、「人件費・地代家賃・減価償却費・租税公課を除く販管費」について見ると、企業規模が小さくなるほど、売上高に対する比率が高くなる傾向となっており、利益率や付加価値を圧迫している。従業員6~20人の企業で、「人件費・地代家賃・減価償却費・租税公課を除く販管費」の売上高に対する比率(10.4%)を51人以上の中小企業並み(6.6%)に抑制すると、その節減額は労務費・人件費の16.3%に相当する。

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