人件費と労働分配率の国際比較
2022年11月8日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利
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<ポイント>
*OECDの主な加盟国における2020年の労働時間あたり人件費を、直近の購買力平価でドル換算して国際比較してみると、全産業計で、日本は28.32ドルとなっており、主要先進国の中で最低、韓国をやや下回り、チェコ、スロバキアを若干上回る水準となっている。
*主要先進国+韓国で労働分配率を比較すると、日本の労働分配率はアメリカに次ぐ低い水準となっている。米国は、労働時間あたり名目GDPが他の国々に比べ高いにも関わらず、労働時間あたり人件費がドイツ、フランス並みに止まっているため、労働分配率が低くなっているのに対し、日本は、生産性が低いけれども、それ以上に人件費が低いために労働分配率が低い、「低賃金・低生産性」の状況となっていることがわかる。
日本の時間あたり人件費は主要先進国の中で最低、先進国の中でも低い水準となっている
OECDの主な加盟国における2020年の労働時間あたり人件費(GDP統計における名目雇用者報酬)を、直近の購買力平価(2021年・・・1ドル=100.41円)でドル換算して国際比較してみると、全産業計で、日本は主要先進国の中で最低となっており、韓国をやや下回り、チェコ、スロバキアを若干上回る水準となっています。
なお、欧米諸国では賃金が高いものの、物価水準も高い、ということがよく言われます。しかしながらこの国際比較では、購買力平価でドル換算しているため、物価水準の違いを考慮した実質的な賃金水準という点からしても、日本の賃金が低いということがわかります。
購買力平価:米国と各国との物価水準がイコールになる理論的な為替レート。日米の直近(2021年)の購買力平価1ドル=100.41円は、米国で1ドルで買えるものが、日本では100.41円であることを示している。
主要先進国
フランス 49.48ドル
ドイツ 47.49ドル
米国 46.93ドル
英国 38.79ドル
イタリア 37.65ドル
日本 28.32ドル
北欧
デンマーク 49.41ドル
ノルウェー 48.71ドル
フィンランド 37.30ドル
スウェーデン 35.97ドル
西欧
オランダ 49.50ドル
スペイン 34.20ドル
中欧
チェコ 26.84ドル
スロバキア 24.37ドル
東アジア
韓国 28.51ドル
なお、製造業、非製造業は、それぞれ次のようになっています。
製造業 非製造業
日本 30.03ドル 27.94ドル
米国 48.73ドル 46.74ドル
ドイツ 55.78ドル 45.51ドル
日本の付加価値生産性は低いが、労働時間あたり人件費はそれ以上に低いため、労働分配率が低いという状況にある
主要先進国+韓国の労働分配率(労働時間あたり人件費 ÷ 労働時間あたり名目GDP)を比較すると、全産業計で、
韓国 69.9%
フランス 69.1%
ドイツ 68.6%
英国 66.9%
イタリア 63.2%
日本 59.7%
米国 59.1%
となっており、日本は、米国に次いで低い状況となっています。
労働分配率の分母(労働時間あたり名目GDP)と分子(労働時間あたり人件費)を見てみると、
*韓国は、労働時間あたり名目GDPが日本より低いにも関わらず、人件費は日本をやや上回るため、労働分配率は7カ国中で最も高くなっている。
*米国は、労働時間あたり名目GDPが他の国々に比べ高いにも関わらず、労働時間あたり人件費はドイツ、フランス並みに止まっており、このため、労働分配率が7カ国中で最も低くなっている。
*日本は、労働時間あたり名目GDPは7カ国中6位であるが、労働時間あたり人件費は7カ国中の最低となっており、生産性が低いけれども、それ以上に人件費が低いために労働分配率が低い、「低賃金・低生産性」の状況となっていることがわかる。
*労働分配率の高低は産業構造の違いの影響を受けるが、製造業、非製造業それぞれについて見ても、おおむね同様の傾向となっている。
わが国経済の持続的な成長、産業の健全な発展、勤労者生活の向上に向けて、「高賃金・高生産性」への転換が不可欠と言えるのではないでしょうか。
日本では、現金給与以外の人件費の割合は決して大きくない
経団連『2022年版経営労働政策特別委員会報告』では、
*所定内給与の引き上げによる他の費用項目への波及などにより総額人件費が増大する。
*法定福利費の増大は、賃金引き上げの効果を相殺し、可処分所得拡大の足かせとなっている。
などと主張しています。
しかしながら、人件費に占める現金給与以外の人件費の割合(製造業)は19.2%(2020年)に止まっており、フランス(35.4%)、ドイツ(22.8%)、韓国(22.4%)などよりも低い状況にあります。
資料出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2022』
厚生労働省の「就労条件総合調査」を見ると、2002年の調査から2021年の調査にかけて、人件費に占める法定福利費の割合は9.3%から13.0%に3.7%ポイント上昇していますが、法定外福利費は10.4%から6.2%に4.2%ポイント低下しており、企業は、法定福利費の増加を法定外福利費の削減で賄っていることがわかります。
また同じく『2022年版経営労働政策特別委員会報告』では、
*年功に偏重した賃金制度から、働き手が担っている仕事や役割、貢献度を基軸とした制度への見直しの流れをさらに強める必要がある。
と指摘していますが、各年齢層の賃金水準(産業計・労働者の種類計・男・2018年)を国際比較してみると、日本の中高年層の賃金水準が高いわけではけっしてない、ということがわかります。
30歳未満 39~49歳 50歳以上
ドイツ 100.0 161.6 173.7
フランス 100.0 143.3 170.0
日本 100.0 144.6 151.2
資料出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2022』
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