海坊主
高校から大学を卒業するまでの8年間、頭の中が潮焼けになるくらい海に浸かっていました。
大学卒業と同時に本山へ修行に上がり、海に浸かることはほとんどなくなりましたが、今でも海は自分の核の一つ。なにかあると海に行き、海を眺め、やっぱり海に入り、海を走り、海に潜り、海に漂いたくなります。
大学時代、無我夢中で練習していたのはジェットスキーでした。
当時、これほど不安定で面倒な乗り物はありませんでした。
「この面倒な乗り物を孫悟空の筋斗雲のように自由自在に操りたい」
こうして練習に練習を重ね、競技にも参加するようになりました。
エキスパートクラス440ccスーパーストック。
年間シリーズ最終戦は琵琶湖の全日本選手権。
ここまでの総合ポイントは２位。１位は実力者の原選手でした。
原選手は強豪チーム所属、僕はほぼ学生の集まり、Fräulein AEROジェットスキーチーム。力の差は歴然としていました。
どちらも予選を勝ち上がり、決勝は原選手との一騎討ちとなりました。
当時のジェットスキーのレースは年間約１０戦。積み重ねてきた総合ポイントで年間チャンピオンが決まります。
僕がここで勝てば逆転優勝。原選手が勝てば僕は総合ポイントで２位のままです。
決勝、最終周まで２位でした。約１０周ほど走るのですが、体力は限界に達していて、一瞬「仕方ない。もういいかな。」と思いました。
しかし、忘れもしない最終回のバックストレート。原選手が腰を伸ばしたのです。
腰を伸ばすということは原選手の体力も限界に達しているということ。
「疲れているのは同じだ」
そう思い直すと、全身に力が漲りました！
そして、最終コーナー、フラッと空いたインサイドに迷わず飛び込みました。
サイド・バイ・サイド。
最終コーナーから２台が立ち上がり、ホームストレートへ。
そして、少しだけ僕のマシンが先にゴールラインを越え、チェッカーフラッグを受けたのです。
逆転優勝。
クローズドとスラロームの年間総合チャンピオンのタイトルとアマチュアのフリースタイルという競技でも年間チャンピオンのタイトルを獲得することが出来ました。
本当に劇的で、最幸の思い出です。1989年のことでした。
翌年、沖縄のJALカップ、同じく沖縄で開催されたワールドカップに出場させていただいたり、大学生としてはなかなか体験できない貴重な機会に恵まれました。
多くの仲間、友人、先輩と出会えたのは、このスポーツのおかげです。
それだけではなく、今に至る全ての原点がここにあったと思います。
ジェットスキーをしていたから、X GAMESがあり、ESPNがありました。
時代の最先端を走る方々がたくさんいて、インターネット、ホームページ、ドメイン、DTP編集、動画編集など、様々なことを学ばせていただきました。
すべて、今のご奉公に生かすことができています。
本当に、感謝しかありません。
気がつけばSASやPARIS、PERSON’Sからスポンサードしていただき、プロとして２年間、充実した競技生活をさせていただきました。
江ノ島、富津、猪苗代、津、今治、千里浜、沖縄、久米島、琵琶湖。
最高の仲間たちと転戦して巡った思い出は忘れられません。
初めてジェットスキーに乗った時、全く立てずに悪戦苦闘しました。本当に面倒な乗り物でした。
しかし、いつしか最初に描いた夢のとおり、孫悟空が筋斗雲を自由自在に操るように、僕も自由自在にジェットスキーを操れるようになっていました。
大学は１年留年してしまいましたが無事に卒業し、ずっと決めていたとおり本山へ修行に入らせていただきました。
本当に、変わった人生を歩み、変わった人生のままお坊さんとして生きていますが、今回の人生で体験させていただいた全てを、仏教ルネサンスのために使わせていただきたいと思っています。
これからも海坊主だろうと、空飛ぶお坊さんだろうと、全身全霊、粉骨砕身、志を失わず、精進してゆきます。
ありがとうございます。
長松清潤拝、
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