勝手に桃太郎 1
本校の「表現プログラム」のエッセイクラスの生徒の作品です。桃太郎をベースにした創作小説を、全4回の連載形式でお届けします。(作:E子)
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ザクッ
身体を切り裂く音と共に、今まで感じたことの無い痛みが突如首もとを襲った。力の入らなくなった身体が、地面に倒れ込む。
なんだ、何が起こった?
あまりにも突然の出来事に、頭が混乱する。 首元からドクドクと流れる血が、地面に拡がっていく。
つい数秒前まで、みんなと酒を飲んでいたはずなのに。 まさか、この鬼ヶ島に敵が攻め込んできたのか? 人間どもが俺たちを恨んでいることは風の噂で聞いていたが、まさか、それが原因か?
遠のく意識のなか、必死に視界を動かす。 すると、鬼たちを次々と襲う3匹の動物と、1人の人間の姿がうっすらと見えた。 人間の手には刀が握られており、赤い血がべっとりとこびり付いている。 俺が何者に襲われたのかを悟るのに、そう時間はかからなかった。
「桃太郎!そっちの鬼は頼んだ!」
俺の仲間の目ん玉を傷つけながら、猿がキーキーと叫ぶ。 俺を切りつけたあの人間は、桃太郎とか言う名前らしい。 まったく、ふざけた名前だ。 俺は、こんな奴にやられたのか。 こんな奴に、殺されるのか。
すると、痛みを打ち消すほどの腹立たしい感情がふつふつと湧いてきた。俺の仲間を、俺の家族を、そしてこの俺をこれほど痛みつけておいて、無傷で帰してやるものか。 このまま終わらせてたまるか!!
俺は最後の力を振り絞り、桃太郎の額に向かって、腕を大きく振り上げた。
――これが俺の最後の記憶。
最後の記憶? なんだお前、この後死んだんじゃないのかって?
そう、俺はこの後確かに死んだ。 だが、今も確かに生きている。 ただし、鬼ではなく、人間として。
(つづく)
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