見出し画像

自分のペースで考えて表現する楽しさを知った初等学校

今回の成城学園初等学校卒業生は・・・

幼稚園から高等学校まで成城学園で過ごした石井千智(いしいちさと) さんは、高等学校を卒業後、2023年に多摩美術大学に入学しました。
石井さんにとって進路選択の土台となった、初等学校での学びや経験について、3年生からの担任である保坂弘之先生(通称ほっちゃん)と一緒に、当時を振り返りながらお話をお聞きしました。

保坂先生と石井さん

初等学校時代に好きだった授業は何ですか?

石井さん:
『遊び』の時間が好きでした。男の子と一緒にドッジボールやキックベースで活発に遊んでいました。
友人と、パルクール(フランス発祥の都市や自然環境を走る・跳ぶ・登るといった自分の身体能力だけで鍛錬する運動方法)のような遊びもしていましたね。
毎回どこまで行けるか目標を決めて、どうしたら達成できるかを分析しながら遊ぶような、ちょっと変わった子どもだったかもしれません。

ノルマを決めて1人で懸垂をしていたという鉄棒

初等学校時代に苦手だった授業はありましたか?

石井さん:
実は低学年では美術が苦手でした。なぜ苦手だったのか思い返すと、自分の理想を形にする方法や知識が不足していて、うまく絵が描けないとか作品がつくれないというネガティブな感情があったからだと思います。

工芸室の道具をなつかしそうに眺めながら話す石井さん

苦手だった美術を好きになったきっかけはあったのでしょうか?

石井さん:
絵が得意だった親友の影響が大きいです。一緒に美術室にこもっていた時期があって、親友はよく絵を描いていたのですが、私は絵を描くわけでも工作をするわけでもなく、美術室にあった図鑑や本を読んで過ごしていました。でもある日、読むものが尽きて時間を持て余してしまったんです。そこで、親友が描いている絵を模写してみることに…。
はじめはうまく描けなかったのですが、真似していくうちに少しずつ上達して、家でも試行錯誤して描くようになりました。
そうしていくうちに、「自分が思い描いたものを少しだけ表現できた」と実感できる瞬間があったんです。わずかでも成長できた気がして、絵を描くことが好きになりました。
方法を知れば表現できるとわかってからは、美術の授業も楽しみになっていきました。

初等学校時代に作ったなつかしの“びゅんびゅんごま”

初等学校の学びが進路の選択に与えた影響を教えてください。

石井さん:
初等学校では、先生方が子どもたちをいい距離感で見守ってくれたので、自分で考えて挑戦する力を養えたと思います。
自分で発見して、考えて、行動して、ときに間違えて……また少し戻ってやり直して。
時間をかけて答えを見つける、その過程からしか得られないものがあると思います。
大人は知識や経験があるから、最善・最短のルートを知っているかもしれませんが、それを押し付けてしまっては、子どもの学びにはならないですよね。
初等学校の先生は、失敗しても口を出さずに見守ってくれました。
得意や苦手も人それぞれなので、答えの出し方も人それぞれ。選択肢や考え方のアドバイスはくれても「こうやった方がいい」と決めつける大人がいなかったことで、自分なりの方法を見つけられたと思います。

表現のチャンスの場面が多くあったことも良い経験でした。劇では創作や発表、さまざまな体験ができましたし、もちろん、授業中にも小さな表現の場面がたくさんありました。そこでうまくいかなくても、自分なりに工夫して次に生かせたのは、クラスにもチャレンジしやすい雰囲気があったからだと思います。失敗を責めたり、考えを押し付けるような友達もいなかったです。

保坂先生はクラスの雰囲気作りで意識されていたことはあったのでしょうか?

保坂先生:
私が意識的につくったわけではなく、子どもたちがお互いを尊重し、自然にそうなっていったと思います。
運動会でうちのクラスはなかなか勝てなかったけれど、子どもたちが「次がんばろう!」という空気をつくってくれて、最後の年にはとても強くなっていました。

石井さん:
そうでしたね。弱くてもみんな前向きで、6年生ではリレーも勝ったし、すごく達成感がありました。

石井さんの成長ぶりに感心する保坂先生

子どもが中心となって行動するために取り組んでいることはあるのでしょうか?

保坂先生:
個性尊重は初等学校のビジョンでも掲げていますが、個性を大事にして、子どもたちに大人の意見を押し付けないということが、自主性につながっているのではないでしょうか。
先生たちも個性的な人ばかりですが、それぞれが尊重されている環境だからこそ、いい循環が生まれていると感じます。大人の気持ちはダイレクトに子どもに伝わりますからね。

あとはもちろん、カリキュラムでも子どもが主体的に学ぶことを大切にしています。
自分の好きや得意が見つかるように、学習指導要領にある教科だけでなく、『遊び』や『散歩』、『つながり』の時間であったり、『劇』や『映像』があるのも成城の特徴です。
美術は絵・彫塑・工芸の3分野に分かれていて、それぞれ専門の先生が担当しています。
押し並べて全ての教科が得意な子はいないので、さまざまな経験から自分で得意を発見し、得意なことから自分の土台や自信を築いていってほしいと思っています。

初等学校での一番の思い出を教えてください。

石井さん:
4年生からのスキー学校はとても良い思い出です。
卒業生がコーチとして参加してくれたことが印象的でした。自分もいつかコーチとして参加したいと思っていたところ、今年その夢が叶いました!

 保坂先生:
そのことを、6年時の卒業文集にも書いていましたよ。実は今日印刷してきました。
初等学校のスキー学校では、卒業生や成城大学生がコーチとして参加してくれます。
なつかしい顔に会えるのも、楽しみのひとつです。

6年生の作文を読みながらなつかしむ2人

石井さん:
作文に書いたことは自分自身まったく憶えていませんでしたが、当時、本当に楽しかった記憶は残っています。大学生のコーチもおもしろくて、ずっとコーチで参加したいと思い続けてたほどです。卒業してもこうして、役に立てる機会があるのはうれしいことです。

幼稚園から高等学校まで成城学園で過ごしてきて、別の大学に入った時にギャップは感じましたか?

石井さん:
ギャップは感じませんでした。というよりはむしろ、最終的に多摩美を受験する決め手となったのは、初等学校に似ている雰囲気を感じたからです。
プロダクトデザインに興味を持って、美大に進もうと決意してからは、学校選びにも時間を使いました。そんな中、多摩美は学生が主体となって活動していることが多く、先輩後輩が分け隔てなくあだ名で呼び合っている校風もあり、初等学校に似ている印象を受けました。
実際に入学してからも、充実した日々を送れています。

初等学校時代によく遊んだ遊具に腰掛ける石井さん

今振り返ると、初等学校での個性を尊重し、子どもに余白を持たせてくれた学びの期間は大切なインプットの時間でした。子ども時代ならではの素直な感動や疑問をたくさん内面に蓄積してきた、かけがえのない時間です。

今はデザインの力でさまざまな社会問題も解決できる時代。自分が明確にやりたいことにも道筋が見えてきました。これからは、たくさんアウトプットをして、誰かのためになるものをつくっていきたいです。