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昔の楽譜のレイアウトに、「自ら楽しむ音楽」の姿を見出してみましょう

1600年ごろの「ヒット曲」の楽譜

上の図版は、イギリスの音楽家ジョン・ダウランド(1563-1626)が出版した《ラクリメ、あるいは7つの涙》という合奏曲集に収録されている〈昔の涙〉の楽譜です(1604年刊)。この曲は当時様々な形で演奏された「ヒット曲」で、現代でも高く評価されています。この楽譜はヴィオラ・ダ・ガンバやリュートで演奏される形のものですが、これらの楽器の名前を聞くのは初めてかもしれませんね。いずれも当時大変に人気のあった楽器で、今ではネットを検索すると音や演奏姿を確認することができるでしょう。

皆でテーブルを囲んで演奏するためのレイアウト

この楽譜は当時出版されたそのままの姿なので、音符などが見慣れない形をしているかもしれません。ここでは、楽譜のレイアウトが不思議な形になっている点に注目してください。この曲は6つのパートからなる合奏曲ですが、各パートを矢印の方向から見るようにレイアウトされています。なぜ向きがバラバラなのかというと、見開きの楽譜をテーブルに置いて、それを皆で囲んで演奏したためです。とても実用的なアイディアだと思いませんか?

内輪で演奏して楽しむ音楽

さらにこのレイアウトから、この曲が内輪で演奏して楽しむものだったことがわかります。ステージ上でテーブルを囲んだら、お客さんに背中を向けてしまいますし、音の響きもこもってしまいますね。しかし仲間と楽しむのであれば、互いの音や表情を確認しながら音楽をより深く味わえたでしょう。つまり、当時を代表するこの優れた「ヒット曲」は、聴くもの・聴かせるものである以上に、自分たちで演奏して楽しむものだったのです。

思い込みを打ち砕いてくれる音楽史の学び

音楽史上の名曲は大演奏家がステージ上で演奏するものであり、お客さんはそれに身じろぎもせずに耳を傾ける。そんな先入観があるかもしれません。しかしこの楽譜のレイアウトは、そんな思い込みを打ち砕いてくれます。古今東西の文化において、音楽とはしばしば自ら楽しむものであり、そこに現代のカラオケ文化やバンド文化に通じるものを見出すことができるのです。音楽史を学ぶと、実践を楽しんだ過去の人々に共感しつつ、音楽のあり方を見直す視点が得られるでしょう。

参考:https://www.youtube.com/results?search_query=dowland+lachrimae+antiquae(冒頭図版の曲について、作曲者名と曲名を原語でYouTube検索)

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社会や文化と音楽のつながりを考える「音楽学一般講義」
いわゆる西洋音楽史の授業ですが、音楽家や楽曲に目を向けるだけでなく、政治や宗教・経済などと音楽との関係も重視し、各時代の楽器や楽譜の様子も視聴覚資料で確認しながら進めます。それにより、社会や文化全般と音楽とのつながりについて考える力を養います。

この記事を担当したのは・・・
文芸学部 芸術学科 赤塚 健太郎 准教授
【教員からのメッセージ】
芸術学科では、様々な芸術分野の理論や歴史を幅広く学ぶことができます。というと頭デッカチになるように思われるかもしれませんが、理論や歴史を踏まえると感性が磨かれ、芸術をより豊かに味わうことができるようになります。

※本記事は成城大学入試情報サイト「成城ブリッジ」より転載しています。

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