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文化人類学の見方、考え方-「複数性」の社会と文化をしなやかに生きる

社会や文化を比較検討し、探っていく

世界のさまざまな人びとの社会や文化を比較検討し、私たちがより生きやすい社会や文化のあり方を探ろうとする学問分野を文化人類学といいます。ここでは、近年ますます注目を浴びるようになってきている社会や文化の「複数性」を例として、文化人類学の見方や考え方を紹介してみましょう。

「多様性」から「複数性」へ

言うまでないことですが、私たちは今、さまざまな身体的特徴(人種など)や文化的特徴(民族など)を持った人とともに生きています。その意味では、私たちは社会的・文化的な「多様性」を生きているといえるでしょう。そうした多様な人びとの一人ひとりをさらに詳しく見てみると、私たちは「多様性」を越えて、あるいはそれとともに「複数性」を生きていることに気づきます。

ウッズが発信した「カブリネイジアン」

少し古い話になりますが、1997年4月、アメリカのマスターズ・トーナメントゴルフ大会で、タイガー・ウッズという若者が史上最年少の21歳で優勝しました。ウッズは、白人が独占していたゴルフのメジャー大会で黒人(アフリカ系アメリカ人)として初めて優勝したことでも注目を浴びました。優勝後、自らの人種/民族について聞かれたウッズは、「私はカブリネイジアン(Cablinasian)だ」と答えて世界の人びとをびっくりさせました。ウッズは母と父を通して、白人(Caucasian)と黒人(Black)、Indian(インディアン:ネイティブ・アメリカン)、それにアジア人(Asian:タイ人と中国人)の血を引いていました。そこで、それらすべての要素(頭文字:下線を引いた部分)を盛り込んでカブリネイジアンと名乗ったというわけです。タイガー・ウッズは、多様な人種・民族を体現する者というよりも、複数の人種/民族をあわせ持つ者だと言えるでしょう。

しなやかに生きることを考えるべき時代に

近年、社会や文化の多様性(ダイバーシティ)に注目が集まっています。その一方で、現実の社会や文化は多様性を越えて、あるいはそれとともに複数性の段階に進みつつあります。人種や民族についてはもちろん、「性」についても、今や一人の人間が複数の「性」を生きていること(LGBTIQなど)が広く認められています。また、国籍についても、一人の人間が複数の国籍を持つこと(重国籍)が多くの国で容認されています。私たちは今や多様性を越えて、あるいはそれとともに複数性の社会や文化をいかにしなやかに生きるかということを考える段階に来ていると言えるでしょう。

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この記事を担当したのは・・・
文芸学部 文化史学科 上杉 富之 教授

【教員からのメッセージ】
デジタルネイティブ世代の皆さんは、TwitterやInstagramなどのSNSで、時や場所、気分に応じて複数のアカウント(名)を使い分けていると思います。皆さんはすでに複数性の真っただ中を生きている「デジタル先住民」と言えるでしょう。

※本記事は成城大学入試情報サイト「成城ブリッジ」より転載しています。

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