小説 鳩胸出っ尻ヴィーナス(3)
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袖すり合うも多生の縁とか。今生で偶然のように思える微かな出会いも、過去からの深いつながりによるものだと教えは説いている。広い世間で相方一人と知り合う〝えにし〟である。健次郎がたった一度、袖より少し長い邂逅で心が動き芙蓉の虜になったという奇縁ともいえる縁の不思議さである。理性では如何ともし難い男の〝性〟が薄く絡み、彼女への思いが募る身になってしまった。その健次郎に愛しい彼女の容貌が思い出せない。
久しぶりの猛稽古で疲れている筈の土曜の夜だが頭が冴え眠れない。でも想う心より稽