私はもしかしたら自らをデジモン世代だと思い込んでいる世代なのかもしれない
私はバチバチのデジモン世代であると思っていた。
同じ歳の人間が集まってカラオケに行こうものなら最初の一巡以内に必ずバタフライが出てくる。これはもう絶対だ。
アニソンはNGみたいな集まりでも何故かこの曲だけは許される風潮がある。おかげで、決死の表情でテイルモンが空中ブランコするシーンを何百回見たのか覚えていない。私たちの世代にとってデジモンは義務教育のようなものである。
だが、本編の話をし出すと途端に皆食いつきが悪くなる。それはもうびっくりするほど話に乗ってこない。えっ、急にどうしたんだ。ウォーグレイモンに八つ裂きにされたメタルシードラモンの話しようよ。
「いや~俺実はアニメはあんまり見てないんだよね~」
最近わかってきたのだが、私の世代はデジモンの認知率は100%近いのに、本編を見たという人があまりにも少ない。バタフライの歌詞は全て出てくるのにメタルガルルモンの名前は出てこない。何でだよ。
私の体感では
本編を見ていた:20%
本編を見ていたが内容は覚えていない:40%
本編を見たことがない:40%
の内訳となっている。
驚きなのが内容を知らない、覚えていない人たちが大多数なのにも関らず、「俺たちはデジモン世代だ!」という認識はしっかりとあるところだ。私たちの記憶にあるはずのデジモンとは一体何なのだろうか?デジモンという集団幻覚を見せられているのだろうか?
どうしてこのようなことが起こるのか。それは恐らく真のデジモン世代が1年または2年くらい上にいるからではないだろうか。
本編当時私たちは恐らく自我が芽生える一歩手前であったため、本編を見ていない、もしくはその内容をほとんど覚えてはいないが、デジモン世代と一緒にグッズを買い、誰もルールを知らないカードゲームを買いあさった結果、"自らをデジモン世代と思い込んでいる世代"になってしまったのではないかと思っている。実際私自身も本編をリアルタイムで見ていた記憶はほとんどない。私の中の無印の思い出は中学生時代に一気見して出来たものだ。同世代が「デジモン!懐かしい!」と新作映画を引用リツイートするだけで見に行っていない理由もここにある気がしている。
だが、例え私が幻のデジモン世代であったとしても、デジモンを好きな気持ちは幻ではない。
というわけで公開されたばかりの「デジモンアドベンチャーラストエボリューション絆」を見に行ってきた。
Triは1章だけ劇場で見て「う~~ん」となってしまい、最近の品のない無印ごり押しにもちょっとうんざりしていたため、このエヴォリューションについてもスルーを決め込むつもりだったのだが、予告のボレロとエックスレーザーを街中でぶちかますエクスブイモンを見て「わーーーー!!!」となってしまった。「わーーーー!!!」となってしまったものはしょうがない。ということでいってきた。
久しぶりのデジモンがあの懐かしきボレロと共に始まった。
十数年ぶりのメロディが静かに私の心に火を灯していく。全ての始まりである「劇場版デジモンアドベンチャー」、セリフを暗記してしまうほど見た「僕らのウォーゲーム」、どちらも始まりにはこの曲があった。私の中でボレロは、いつだって戦いの幕開けを告げる曲である。
現実世界の異変と共に姿を現したパロットモン。迎え撃つは選ばれし子供たち。やがて始まるグレイモンVSパロットモンの大怪獣バトルは昔見た劇場版での戦いそのものである。懐かしさが脳をじんわり温めていく。
それだけではない。新たな敵を倒すため電脳世界に潜り、見るからに弱そうなソイツをよってたかってリンチし、「やったか?」のお約束の後に進化されて逆にリンチされるという流れも懐かしすぎてニヤニヤしてしまう。とりあえず成熟期で舐めプするのも変わっていないね。
他にも無印のBGMが流れたり、よく聞くと02のOPやウォーゲームのEDのアレンジが流れていたり、02の劇場版のあのキャラの姿があったりととにかくめちゃめちゃにもてなされているのを感じた。デジモン世代への製作陣から熱いサービス精神を感じることができた。
バトルシーンもいい。グリングリンに動く。エンジェモンみたいなスタイリッシュなデジモンは俊敏に宙を舞い、グレイモンのようなストロングスタイルのデジモンは体重が伝わってくるようなド迫力で。それぞれの個性が画面の中をところ狭しと暴れまわる。
特にオメガモンはかなり優遇されていて戦闘シーンもかなり多かった。オメガモンといえば単騎無双、圧倒的強者のイメージもある一方で、『ディアボロモンの逆襲』で強敵の攻撃を受け腕が取れてしまったというショッキングな印象もある。今回、終盤でピンチに陥ったオメガモンは腕が取れるなんてレベルじゃないほどに全身をバラバラにされてしまうのだが、それでも尚敵に切りかかる姿はかなり痺れた。ストーリーはつっこみどころはチラホラあったもののオメガモンの戦闘シーンだけでだけでお釣りがくるんじゃないだろうか。
帰り道、何気なく『Butter-Fly』を聞いていた。
"無限大な夢のあとの何もない世の中じゃ"
ああ、なんで見ている時に気づかなかったんだろう。私のことじゃないか。
大学院入学と共に闇雲に見ていた夢を諦め、会社に入り仕事にも慣れて「たぶん人生あと40年くらいこんな感じが続いていくのか」と分かり出してきた。何もない世の中って正に今のことじゃないか。
まさかこの歳になってButter-Flyが沁みてくるとは思わなかったな。