短歌人2018年4月号 同人1欄(1)
漱石の齢を越えて黒板に今日も「こころ」と書きて振り向く
「こころ」/岩下静香
南低く天づたふ日に向きて歩む眩しよ真直ぐなる道の果てまで
「雪後」/酒井佑子
薄氷のかすかな鳴りは水の声、氷の声のどちらだろうか
「潜る」/猪幸絵
断面は台形である川土手の土の塊量、草枯れの脚(きゃく)
「砂の感触」/大室ゆらぎ
ミルク飲み人形のごとき一本の管なりわれは白湯を飲む
「蝕の月」/有沢螢
期末試験近づくたびにピアノ弾く子が居りしころ早蕨のころ
「雪折れ」/大森浄子
キャラメルのあまさが口にひろがって泣いた理由をしばし忘れる
「黄色いアヒル」/魚住めぐむ
しろたへの庭にこころの緩びゐて松より落つる雪に驚く
「兼六園から玉泉庵へ」/本多稜
虹を見たしとせつに思ひぬしあはせといひつつ虹を見し日のありき
「窓」/蒔田さくら子
立春と雨水の間に降る雪にけふの視界は閉ざされにけり
「立春」/三井ゆき