小説書きの為に『ムーミン』を紐解くその3.1
昨日以下の記事を書きましたが、その後に気付いた事がありますので短い続編を書きます。
この記事での解析を基にスタディで1本短い物語を書いてみようと考えました。しかし、考えれば考えるほど困難に感じました。いくつか理由があります。思い付いた順に簡単にまとめておきます。
マイナスをプラスにする動機付けが無い
もう一度よく読んでみますと、ムーミンのお話にはマイナスをプラスに持って行くようなドラマになるものがありません。
怪獣が現れて街を破壊し始める、宇宙人が地球を侵略するからウルトラマンが出てくる物語ができます。大切な人を殺されたりさらわれたりするのもマイナスからプラスへの動機付けです。
ムーミンのお話では自然現象で困難な状況は発生しますが、それとて解決すべきマイナスではありません。人間関係で多少問題が無いとは言えませんがそれも解決すべきものではありません。例えばスニフがムーミンに対して不満を漏らしますがそれはそれで放って置きますし、学園ドラマ風に解決してスッキリというところが無いのです。ムーミントロールはそうした事に鈍感でやり過ごしますし、スナフキンなどはそれはそれとして受け入れ、ミムラ姉さんはミイに対して怒っていてもそれが自分の役割であって解決すべき事ではないのです。
結局、他の小説でドラマになるネタをネタとして全く捉えていません。これはマネして書きにくい理由の大きなものだと考えます。
推奨される行動とは
上記のドラマの代わりにあるのが、前の記事でも書きましたが、「行動」です。行動には3パターンあるように読めます。
1つは、子供であるムーミントロールやスニフの行動です。これは積極性のある冒険のような行動です。『彗星』でしたように新しい道に入ってみるようなタイプです。
2つ目は、パパやママのように役割を果たすタイプの行動です。この行動にはあまり抑揚がありません。パパが夏の終わりにランプに火を灯す日を決めたり、ママがみんなのために食事を用意するのがそれです。
3つ目は、他人のための行動です。ムーミントロールがママやすのーくのおじょうさんの鼻に自分の鼻をこすりつけて安心させるような行動です。ただ、いつでもこうするわけではなくて、相手の気持ちを無視して話が進行してしまう事もあります。
このうち1番目だけはなんとなくドラマチックですが、その他はそうではありません。そしてこれは子供向けであって、大人向けではないようです。と言うのは、大人の場合、結果なしに冒険や挑戦する事があるとしたらそれはスポーツです。仕事でも人生の事でも結果や利益が得られないのがわかっていて冒険や挑戦はスポーツやレジャー以外で考え難いです。その点、子供であれば、成長の糧となり大人になるためのトレーニングになります。
2つ目の役割を果たす行動については、親が子供を成長させる役割を果たす姿を描くような場合であれば、それにも結果が付いてきてしまいます。災害から家族を守るのであれば、マイナスからリカバリする行動になります。これは、トム・クルーズの出ていた宇宙戦争のような映画作品のようになりますが、そでれはムーミンのお話のようである必要はありません。
という事で、結果の無い行動、そして主人公が大人だった場合の物語を作るのはとても困難に感じます。
例えば、『ムーミン谷の冬』でスナフキンは誰にも会わないようにして手紙を置くのすら忘れてどんどんと歩いて森へ入ってしまいます。誰にも会わずにそのまま春まで一人でキャンプを続けたという事が物語として面白く、少なくとも読めるように書けるものでしょうか? 途中で事件に巻き込まれると『木枯し紋次郎』になりますが、『ムーミン谷の仲間たち』の冒頭程度でしょう。それも面白いものですが。
ムーミンの書き方を参考にスタディで1本書いてみたいのですが、このような感じでとても悩みます。
(追記) ここからは公開後に追記しました。
行動の裏の意味
いろいろ考えたのですが、行動だけに注目しますと困難ですし、行動の裏にはそうする意味があるわけですから、その意味の方に注目して考えるべきなのかなと思い直しました。
最も分かり易いのはスナフキンです。旅するという行動の裏には「自由」があります。自由という事でしたら、お話に出てくるかなり多くの行動がカバーされます。ムーミンとスニフの道をたどる行動や決定がそうです。そして自由の延長線上には他人への「許容」があります。自分の自由と他人の自由の許容というペアです。
もし、個々に好きに生きられる自由をテーマにするのであればマイナスからプラスに持って行くドラマ無しに書けるでしょうか? ちょっと漠然としすぎますがまた考えてみましょう。