オランダで出会った「真珠の耳飾りの少女」で気づいたこと
或る1人の女性に会いたくて、年明け早々にオランダへ飛んだことがありした。凍てつくような寒さの中、到着したアムステルダム空港から急行列車で南西へ40分ほど行くとデン・ハーグの街に着きました。お目当ての女性がいるはずの場所です。
思ったよりこじんまりとした2階建て建物の入り口を通り抜けて右手の階段を上がると、いかにも愛想のよさそうな初老の女性がふたり座っているのが見えました。私は思い切って尋ねてみました。
「この女性を探しているのですが、どこで会えますか」
するとひとりが「ああ、この人ね。どこだったかしら」と恥ずかしそうに横を向きました。すると、お隣にいたもうひとりは申し訳なさそうに首を横に振りました。
「わからないわ。なにしろ私たち今日からここに座り始めたのだから」
オランダ通の方からもうお分かりかもしれない。このふたりは美術館内の不慣れな案内役だったのだ。私のお目当ては、オランダの巨匠フェルメールの肖像画『真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)』でした。
旅のきっかけは、米小説家トレイシー・シュヴァリエがその絵から着想を得て書いた同名の小説を読んで感動したことでした。その後に見たフェルメールとこの代表作のモデルとなった少女の淡い恋の思いを描いたイギリス映画がまた見事な秀作。これはもう原画をこの眼でみるしかないと決意したのです。
気がつけばマウリッツハウス美術館の前に立っていました。航空運賃やホテル代などを考えると、なんたる酔狂と友人たちから謗られることは百も承知のうえでした。
入口で出会った高齢の新米案内人にはちょっと驚かされましたが、片思いの「少女」とは2階のギャラリーで無事に体面することができた。思ったより小さな作品でしたが期待どおりの名作でした。少女が肩越しに投げかける親密なまなざし。独特の神秘的な光と陰の表現。どれも期待以上でした。
しかし、私がもっとも心を動かされたのは先述の案内係のご婦人たちの姿だったのです。美術館の運営予算が限られているため、地元の住民がボランティアで勤めているとのことでしたが、終始笑顔でじつに幸せそうだったからです。
日本でボランティア活動というとまだまだ肩に力が入っている気がしますが、欧米ではすっかり生活の一部になっていたのです。災害などに対する寄付に関しても同じことがいえる。記録的な犠牲者を出した自然災害の被災者に対して、欧米では著名人や裕福な人ばかりでなく子供や年金生活をしているお年寄りまでもが躊躇なく寄付をしている。
その背景には二つの要素があります。ひとつは人々の心に深く根付いたキリスト教の博愛主義。情けは人の為ならず、ですね。もうひとつの理由はチャリティに対する税制優遇制度の存在です。個人も企業もチャリティに寄付をすれば課税控除を受けられるため、政府に納税するよりは目的のはっきりしているチャリティに寄付するほうを選ぶのです。
もちろん、寄付の受け皿となる民間非営利団体に対しても税制優遇制度が適用されています。日本ではNPOに対する税制優遇措置などはまだまだ不十分。被災者の幅広いニーズに柔軟に応えられるボランティア団体やそれを支援する市民の寄付に対する手厚い税制優遇措置を実現する必要があります。
そのためには、マスコミも被災地の状況や救援活動を伝えるだけの一過性の報道に終わるのではないく、継続的に寄付に対する課税優遇措置を求めていくべきでしょう。それが社会にボランティア活動を根付かせる大切な一歩となります。デン・ハーグの美術館で出会った案内係のふたりの生き生きとした姿がそのことを物語っていました。
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