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バイデンの台湾発言は失言か本音か?

 失言癖で有名なバイデン大統領がまた中国を刺激する発言で物議を醸している。思わず舌がすべったのか、それとも米国の対中強硬戦略を示唆する発言なのだろうか。
 23日、日米首脳会談後の記者会見で記者からこんな質問が出た。
 「あなた(バイデン)はウクライナ戦争に軍事的に関与したくないというのには明らかな理由があるが、中国が台湾に侵攻した場合に軍事介入するつもりはあるのか」

 バイデンの答えは単純明快だった。
 「イエス。それが我々の約束だ。(That’s the commitment we made)」

 しかし問題はそれほど単純でも明快でもない。
 米政府は1979年に毛沢東主席率いる共産党政権を「中国の唯一の合法政府として承認」し、共産党との内戦に敗れ台湾に移動した蒋介石総統の国民党政権と断交しているからだ。

 以来、米国は「ひとつの中国」政策の下、台湾は中国の一部であるという中国の主張を認知(acknowledge)する一方で、台湾と経済関係を維持して武器も輸出するという「曖昧戦略(strategic ambiguity)」と取っている。

 米国は台湾が自力で防衛する援助はするとしているが。台湾を守ると言う約束をしていないのだ。

「認知」という言葉は外交的なレトリックだ。日本の多くのメディアが台湾は中国の一部だと米国が「認めた」としているが、じつは台湾が中国の一部であると言う中国の主張を認識したと79年の米中共同コミュニケには書かれている。

 国務省報道官は米国の台湾政策に変更はないと火消しに回った。だが、だからといってバイデン発言が失言かといえば必ずしもそうとは言えない。なぜなら大統領が台湾が攻撃されたら米国は台湾を守ると発言したのはここ数ヶ月で3回目だからだ。米政権内の対中国政策がより厳しくなっているシグナルともとれる。

 政治的経済的デカップリング(分断)が進む中、台湾戦略を「曖昧」から「明確(ひとつの中国、ひとつの台湾)」にシフトさせていると指摘する米専門家もいる。

 しかしそれは短絡的すぎるだろう。むしろ「曖昧戦略」を維持しながら中国にさりげなく警告を発している程度とみたほうが妥当なのではないか。

 中国はもちろん黙ってはいない。外務省の汪文斌副報道局長はさっそくバイデン発言に「強烈な不満と断固とした反対を表明する」と反発。「台湾は中国領土の不可分の一部で、台湾問題は中国の内政だ。いかなる外部勢力の干渉の許さない」とけんもほろろだった。
 「米日は冷戦思考に固執し、徒党の組、軍事同盟や経済デカップリングの小サークルをつくっている」と付け加えている。

 いかにも戦闘的だ。ウクライナ戦争のどさくさに紛れて台湾へ侵攻するのではと危惧するもいる識者がいるが、それは浅慮というものだろう。今年は秋に習近平主席が5年に一度の党大会で異例の3期目に突入し、終身支配を目論んでいる。そんなときに波風は立てない。台湾が独立を宣言しないかぎり、むしろ中長期的に台湾の経済界を巻き込んで親中政権をつくり「平和統一」を目指すのではないか。

 それにしてもウクライナ戦争の渦中にバイデン大統領もわざわざ物騒な発言をしなくてもいいのではないと思うが、その背景には中国の国力が急速に強くなり、台湾に対する脅威も大きくなっているという認識が米政権内にあるのだろう。中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入したという報告が増えているることにも苛立っている。

 加えて、バイデン大統領は大丈夫かという懸念もある。見た目は温厚そうにみえるが短気でキレやすい性格だ。例えば、2020年にデトロイトの自動車工場を訪問した際に従業員から批判的発言が出たときには「だまれ!」と一喝していた。
 失言も多い。先の大統領選中には州の名前を間違えたり、ドナルド・トランプをジョージと呼んだり、20万人だったコロナの死者数を2億人と言い間違えたこともあった。「バイデンに投票しないなんて黒人じゃない」と口走って、て謝罪に追い込まれたこともある。

 今回の来日前に訪れた韓国では、演説の最後で尹悦悦大統領を文在寅大統領と呼ぶポカをやった。
 まあ2017年の自叙伝で自分のことを自虐的に「失言マシーン」と書いていたから「認知」はしているのだろうが。
 
 

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