THE SOLO ECONOMY:お一人暮しは案外楽しい?
私が大学生だった1970年頃、20年も前に出版された米社会学者デビッド・リースマンの名著『孤独な群衆(Lonely Crowd)』に出会い、その分析の鋭さに感銘を受けたことがありました。
リースマンは「社会的性格」に注目しました。そして私たちの性格や志向は個々それぞれの性格よりも社会環境に由来すると結論づけたのです。
といってもそんなに難しい話しではありません。社会的性格は、伝統指向型、内部指向型そして他人指向型の順に変化し、近代工業社会では多数派の意見や他人の価値観に同調しようとして自分自身の信念や判断を持たない他人指向型の人間が多いと分析したのです。
つまり、表向きは社交的にふるまっていますが心の中では孤独な人々が群れている社会です。
ちなみに伝統指向型は、中世ヨーロッパのようにほとんどの人が農業など第1次産業に従事していて、価値体系が慣習や宗教で固定化された社会です。家族や血縁が重視されました。内部志向型はルネッサンス後の人口成長期で、古い慣習から解放された人々は自分の羅針盤を持っていて自分の判断で行動していました。
日本では何年か前から「2020/30年問題」が取りざたされています。
2020年問題とは団塊世代の「多死時代」のことです。2020年代に私のような団塊世代がいわゆる後期高齢者になり、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、毎年の死亡数は150万人台に達して出生数の2倍になります。人口の高齢化率(65歳以上の割合)も30%を超えます。
もう一方の2030年問題とは、未婚や離別、死別によって単身世代が急激に増えるという問題です。2030年代に、なかなか結婚できない団塊ジュニア世代が中高年となって単身化が進み、男女合わせた全世帯で一人暮らしが40%に迫ります。この人たちは将来にこれといった展望がなく、孤独死を選択したに等しいというのです。
リースマンの分析とは別の「孤独な群衆」が登場するのです。そう思うと何ともやりきれませんね。こんなことは日本だけかと思っていたら、アメリカにもTHE SOLO ECONOMY”(おひとり様経済)という言葉がすでに定着していました。
ひと言でいえば、アメリカでも一人暮らしが記録的に増えているということです。人口動態調査によると、米国の婚姻率は2018年に6%低下し、新規の結婚は1000人中6.5組。国立衛生統計センターが統計の収集を始めた1967年以降で最低の水準だそうです。全世帯の28%が一人暮らし。これは1960年と比べると倍の数字です。
しかし日本とはどうも様子が違うようです。アメリカでは一人暮らしを積極的に選択し、豊かな人生を歩んでいると思っている人が多いのです。独身者たちは結婚したカップルよりも外食や買い物を楽しみ、ジムで汗を流し、絵画教室など様々なイベントに顔を出し、ボランティ活動にも積極的に参加している。
しかも、旺盛な消費によって彼らは米国経済の成長にも寄与しています。もちろんこれはある程度の経済力が前提でしょうが、彼らは明らかに日本型「孤独な群衆」ではありません。
なぜなら、一人で部屋に閉じこもっているのではなく、同じ価値観を持った人たちが集まって積極的に本音を語り合っているからです。フェイスブックなどのソーシャルネットワークも頻繁に利用している。ある60歳代の女性の次のコメントが象徴的でした。
「うまくいかない結婚関係を続けるぐらい孤独に苛まれることはないわ」
うーん、なんとも考えさせられる言葉です。とにかく一人人暮らしが幸せそうなのです。だがそれで本当にいいのか。そう考えてしまう私は時代遅れの伝統指向型でしょうか。
(写真はphotohito.com)
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