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54時間も寝ないで元気でいられるものとは

  ひとは人生のおよそ3分の1を寝て過ごす。つまり90歳まで生きたとすると、30年は寝ていたことに成。生物学的に眠りは必要であるが、忙しい現代人はなんとか睡魔に打ち勝て1分でも長く働いたり遊んでいたいと思っている。

 そこで登場したのがコーヒーである。豊かなアロマが気持ちをゆったりと落ちすかせてくれるとともに、含まれたカフェインがしばし眠気を吹き飛ばしてくれる。私は無類のコーヒー好きだ。

 じつは、コーヒーの起源にはふたつの説がある。

 ひとつは、その昔アラビアのモカ(現在のイエメン)で王の娘に恋をして追放された祈祷師が山中で元気のでる木の実を見つけたという伝説。

 もうひとつはアビシニア(現在のエチオピア)起源説。山羊が灌木の実を食べると騒がしく興奮状態になることを不思議に思った山羊使いが、近くの修道院の院長にこのことを知らせた。弟子たちの居眠りに困っていた院長がさっそくこの実を茹でて飲ませたところ、ひとりも居眠りをしなくなったという。

 どちらも真偽のほどは不明だが、お陰で私たちは香り高いコーヒーを楽しめるようになったのだから文句をいう筋合いはない。

 じつは2000年代初頭、米国でもっと手っ取り早く眠気を吹っ飛ばす薬がブームになったことがる。Madafinilという薬物で、一般的にはProvigilという名前で知られている。この薬を飲むと54時間寝なくても普通に元気よく仕事がこなせるという臨床実験結果がでて話題になった。

 Provigilは1998年に睡眠発作(narcolepsy:日中に強烈な眠気に襲われ眠り込んでしまう症状)の治療薬として認可されたれ、お医者さんがoff-label(薬品名不使用)で疲労回復剤として航空会社のパイロットやトラック運転手などに気軽に処方されているという。

 これに目をつけたのが国防省。陸軍や海軍ではこの薬をヘリコプターや戦闘機のパイロットに試しているらしい。覚醒剤のように常習性が少なく副作用がほとんどないというふれこみだったが、今では注意書きには薬物依存の可能性や内臓の機能障害などの副作用が明記されている。

 アメリカ人はやたら頭痛薬や睡眠薬を飲んでいるイメージが私にはあるが、覚醒薬も仲間入りしているようである。しかし睡眠発作の治療以外に本当にこんな薬を飲み続けて大丈夫なのだろうか。

 そういえば、ずいぶん前だがパリで置きなわれた世界陸上で女子100メートルと200メートルで優勝した米国のケリー・ホワイト選手の血液からProvigilが検出されたことがあった。本人は睡眠発作の治療に使っていたと主張したが、ドーピングと判断された。この薬を飲んだからといって早く走れるようになるわけではないのだが、主催者からルール違反の興奮剤だと判断されたわけである。

 病気の治療であれば仕方がないが、健康が人の眠気覚ましはこんな薬よりかつて歌手の西田佐知子さんの大ヒット曲『コーヒー・ルンバ』で「素敵な飲みもの」と歌ったコーヒーぐらいにしておいた方がよいだろう。(ちょっと古かったかな)

  

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