ハイテク企業でなぜ文化人類学者が活躍できるのか
新型コロナ禍でも、ビジネスの世界では明けても暮れても成長のための組織論やリーダーシップ論、マーケティング論が語られ続けています。むしろ危機対応が待ったなしの今の方が真剣かもしれません。
しかし実際に成功するために最も大切なことはなんでしょうか。それは働く人間の姿勢や思考、そして顧客のニーズをいかに的確に分析できるかどうかです。当たり前のようですが、ではどうすれば人間の行動や思考を把握できるのでしょうか。
欧米の企業では、その答えを意外な分野の研究者に求めています。文化人類学者です。
えっと思われたかもしれません。
文化人類学者といえば、ひと昔前まではサファリルックに古びた帽子姿でアマゾンなどの未開の奥地に住む先住民族を観察することが主な仕事のように思われていました。ビジネスとはまったく縁遠い存在だったのです。
文化人類学者といってもピンとこない方は80年代の第1作から大ヒットを続けている映画『インディ・ジョーンズ』シリーズを思い浮かべていただければいいでしょう。牛追いムチを手にフェドラ帽と革ジャケットがトレードマークのハリソン・フォードが演じる考古学者が息を飲むアクションとアドベンチャーを繰り広げる作品です。厳密には文化人類学者とは違いますが未開の地に分け入るイメージは感じ取っていただけると思います。
日本では未だに文化人類学なんてビジネスの役には立たないと思っている経営者が多いようですが、じつは欧米ではIT企業をはじめ大手広告会社、ホテルチェーン、ヘルスケア、レンタカー会社までかなり以前から大企業が文化人類学者を高給で雇って業績を上げているのです。
理由は簡単。これまでの心理学的な紋切り型の分析・手法では従業員や消費者が本当は何を考えているかなかなか把握できませんでしたが、代わって登場した文化人類学者は、彼らの真骨頂である"現地観察“の手法を使って人間行動や思考の謎を解き明かすことが可能だからです。
私の知る限り最初に文化人類学者を採用したのは印刷機器の製造販売企業ゼロックスだと思います。しかし最も有名なのはスタンフォード大学で教鞭を執っていたオーストラリア生まれの文化人類学者ジェヌビエーブ・ベル博士でしょう。
彼女は1998年に世界的な半導体メーカー・インテルにヘッドハンティングされ、技術者の行動や思考を分析することによって技術開発で著しい成果をもたらしました。これまでに13の特許も取得しています。その功績によってインテルの副社長兼研究者に抜てきされました。
幼少時代に文化人類学者の母親ダイアンさんとオーストラリアの文化も言語も違う先住民が住む地域で過ごした経験が彼女の輝かしい人生の原点となったのかもしれません。
私がもっとも分かりやすい事例だと思うのは90年代のニュージャージー州に拠点を持つレンタカー大手「エイビス」のケースです。当時、事業が低迷していたに同社は、顧客満足度を向上させるためにアンケート調査を行ないました。その結果に従って以前よりも綺麗なレンタル車を導入し、サービスのスピードも向上させました。「もっと綺麗な車を借りたい」「手続きを早くして欲しい」というユーザーの声が圧倒的に多かったからです。
ところが顧客満足度も業績もいっこうに上向きませんでした。
そこで、今度は
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