僕らの旅路17
「空、朝だよ」
気づくと、どうやら、綾が起こしてくれたようだった。シャっと綾がカーテンを開けてくれたので、僕は伸びをして朝陽を浴びる。
「朝ごはん出来てるよ」
「うん。ありがとう」
綾は13になってますますしっかりしてきたようだ。今日から旅に出ることにしたんだった。顔を洗って考える。どこに行こうかなと。
綾が作ってくれた今日の朝食はスクランブルエッグとトマトのサラダとトーストだった。むしゃむしゃと食べながら、綾を見つめる。
「綾はどっか行きたいところある?」
「うーん・・・」
綾はしばらく考えていたが
「分からないかな。行ったことの無い場所だから」
成る程。確かにその通りだ。朝ご飯を食べ終えて、ネットで色々調べてみた。ここから北に向かうということで、東北にいきなり行くのは少し遠いと思った。関東も都会すぎてあまり好きな場所ではない。どうするか。
結局結論の出ないまま、図書館で借りてきた本を読んでいた。まあいい、急ぐ旅でもないしな。そのまま昼過ぎまで本を読んでゴロゴロしていた。
昼ご飯を作ろうと思って、リビングに来てみると、綾が熱心にパソコンを使っていた。僕は僕で昼食を作る。炊飯器にご飯が残っていたので、チャーハンを作ることにした。フライパンでエビを炒めていると、綾は調べものが終わったらしく、ソファで大人しく本を読んでいた。
二人でチャーハンを食べる。綾は黙々と食べている。さっき何を調べてたんだろう?
「あのさ、空。長野県とかどうかな?」
「長野?」
「調べてみたんだけどね。涼しいし、山とか公園とかあって、自然豊かだし、空の好みなんじゃないかなって」
「そうか。じゃあ、そこにしようか」
「うん」
僕の好みに合うなら、綾も好みだろう。だけど僕の好みに合わせてくれた事が嬉しかった。綾はいつも僕の事を考えてくれる。
僕はアパートの貸主に解約の連絡をした。それから荷物を出来るだけ整理して、レンタカーを予約した。これでいつでも出発することができる。
後は愛衣先生に別れを告げなければならない。これが一番の難題だった。僕は愛衣先生のメールアドレスにメールを送った。すぐに返事がきた。幸い今日空いているということだったので、来てくれることになった。
「そうですか。とうとう旅立たれるのですね」
愛衣先生は予想していたかのような表情であまり驚いた風ではなかった。
「どちらに行かれるか伺ってもいいですか?」
「とりあえず、長野辺りを目指そうって決めました」
「成る程。分かりました。お二人が決めたのなら、私は構いません」
「ありがとうございます」
そして、僕達はお別れ会ではないが、3人で食事をすることにした。鍋を作って皆で食べた。愛衣先生は餞別に綾に本を渡していた。本当にこの不思議な家庭教師の先生には色々と世話になったものだ。これから離れてしまうことになるが、愛衣先生の幸福を祈っているよ、と胸の中で思っていた。
出発の日。珍しく綾に起こされるより早く起きた。顔を洗って、リビングで朝食を作っていると、綾は既に起きていたらしく、こちらに顔を出した。
「このマンションともお別れだね」
「そうだな。と言っても、向こうでも同じように仮住まいだろうけど」
「一軒家に住むのはどうなの?」
「向こうが気に入ったら、そういう選択肢もあるね」
二人で朝食を摂りながら、車に積むべく用意した荷物を眺める。本が結構多いが、それ以外にも綾の服とか色々ある。僕にもっと収入があったら、家を借りてそこに荷物を置いておいて、身軽に旅をするという事も出来るのだけど、今のところ家を借りるのにも難儀している。最近は綾も絵を描いている。僕は詩を書いている。二人の作品がもっと世に受け入れられることになったら、暮らしも楽になってもっと自由に生きられるのだけどな。
食後僕らはすぐにでも発つことにした。鍵を不動産屋に返して、戻ってきた。いよいよ出発だ。
「行こうか」
「うん」
そして僕らはまだ見ない土地へと旅立った。二人目を交わさずとも通じ合えていた。僕らの旅路は続いてゆく。
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