僕らの旅路9 落ち着いた日々

この地に腰を落ち着けてはや一ヶ月。この間僕らは平日の昼間を狙って水族館や植物園で過ごしたり、図書館で本を読んだりしていた。僕らは二人ともこの生活スタイルが気に入って、しばらくそんな風に日々を過ごしていた。

(いっその事しばらくこのままでもいいかもしれないな)

ブログも綾が美少女なお陰か、綾の写真をUPしただけでも結構アクセスがあった。この頃の僕は自分の事よりも綾の成長を見守るほうが大事なような気がしていたのだった。

そんな綾は思っていた以上に読書家だった。一日に2,3冊のペースで読破していた。最早学校に行ってないから学力が心配などというレベルではなかった。まだまだ子供の綾だけど将来の事を考えたりもするのだろうか?気になってその日の晩御飯の時にそれとなく聞いてみた。

「ねえ、綾は何かなりたいものはないの?」

少し考える間を置いてから綾は答えた。

「別に。今の所ないかな」

「そっか」

まあまだ12歳だものな。

「空は何になりたいの?」

「僕?僕は元々作家になりたくて。昔は賞に応募したりしていたんだけどね。でも最近はしばらく書いてないな。」

「ふうん」

今はしばらく休んでしまっているが、この旅の体験を下に新たに小説を書いてみるのもいいかもしれない。

「ねえ、綾。実はここにしばらく落ち着いてさ、綾の勉強とか見てくれる家庭教師さんを探そうかなと思っていたんだけど・・・」

「この土地は嫌いじゃないけど、家庭教師は必要ない。勉強なら自分でできるから」

「そう言うだろうなとは思ったけど、でも本当にいいのかな・・・」

「大丈夫。なんとかなるよ」

まあ綾がそういうならしばらく二人きりでもいいかな。僕自身、子供の頃学校に通っていた御蔭で立派な大人になれたとは微塵も思わない。むしろその逆だろう。綾も同じだ。学校よりもずっと大切なものが僕らにはある。

綾は毎日楽しそうにしていた。家で本を読んでいる時も、植物園や動物園に行った時も。元々は色んな所に行く予定だったけど、いきなりこんなに心地のいい場所に出会えるとは思わなかったから。ともかく、何にせよ綾の心配より自分の方を心配したほうが良いのではないかという気になっていた。今の僕は綾を中心とした日常をブログで発信することくらいしか出来ていない。もうひとつくらい何か欲しかった。

その日図書館から借りてきた村上春樹の本を読みながら、何となくやっぱり小説でも書こうかなという気になった。

しかしながら、いざパソコンに向かってみても一向にお話は浮かんで来なかった。・・・そうだな、詩なら書けるかも。試しに少しずつ最近の楽しい毎日のことを綴ってみた。

僕たちは行く

どこまでも僕たちの道を

どこに行くのかも分からないその道を

ありがとう神様

僕たちをここに導いてくれて

ありがとう天使よ

僕らに出会いという祝福をくれたことを

今日までの苦しみ、辛かったこと、悲しかったこと

無駄ではなく今に繋がっている

そう信じたいよ

ここまで書いてその後何も思いつかなくなった。ネットに上げる程の物でもないかなと、プリントアウトして綾にだけ見せてみた。

「どう?」

「空には才能があるね。短いけど私は結構好きだな。もっと書いてよ」

そう言われると現金なもので、もっともっと書いてやりたくなった。

僕はしばらく詩を書くことに没頭した。大体は今の日常から湧いてくる詩ばかりだったが、一つ気になったのは綾の事だ。綾は僕にとってどういう存在だ?対等な友達と言える?それとも家族のような子だろうか?まさか恋人ではないだろうし・・・。そう思って、ちらりと外で遊んでいる綾を眺めていた。まさかこのままお互いに成長していって、綾が大人になったら夫婦になるとか、ないよね?源氏物語の紫の君じゃあるまいし。

「空?ご飯出来たよ」

料理は大体綾が作ってくれる。綾は独りで生きてきただけあって年の割に結構料理が得意だった。僕も独りでずっと生きてきたけど、弁当とかに頼って料理の腕はさっぱりだった。僕は綾には難しい力仕事とかを代わりにやっていた。

「詩書けた?」

僕は何枚かのプリントアウトした紙を渡す。食事もそっちのけで綾は僕の詩を読んでいた。僕は綾の作ってくれた味噌汁に舌鼓を打っていた。

「やっぱり好きだな。空の詩」

「ありがとう」

しばらく二人無言で食事していたが、ふと綾は言った。

「ねぇ、どこか賞に応募してみたら?今書いてたあの作品達でもいいし」

「さすがにそこまでは無理じゃないかな。受賞するとは思えないし」

「じゃ、私達のブログにアップしよ。きっと誰かの目に留まるよ!」

珍しく綾が強硬に主張するので、その晩僕は気が進まないながらも、自分が書いた詩をブログに載せた。








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