1.7 積分(Riemann積分)
後藤憲一『現代科学における数学概説』(共立出版、1981)の勉強ノート。
前回
[1] 積分(Riemann積分)
定積分を前提として、Riemann積分は最初に有限区間で定義された有界関数に対し定義し、その次に無限区間や有界でない点を含む関数に対する拡張(広義積分、変格積分)を考えるものとする。その後、積分区間の端点を変数$${x}$$とすることで不定積分を定め、1変数の積分が完成する。線積分やStieltjes積分が発展として存在する。
Riemann積分を定義するのに必要な概念と記号を列挙すると、以下のようになる。
$${I \coloneqq [a,b]}$$ 定積分を行う区間
$${\Delta \coloneqq \{ a=x_0 < x_1 < \cdots < x_n = b \}}$$
これは$${n-1}$$個の点$${x_1, \cdots , x_{n-1}}$$によって区間が$${n}$$個の細区間に分割されていることを表す$${\delta_i = x_i - x_{i-1}}$$ 左から$${i}$$番目の細区間の長さ、細区間そのものを区間$${\delta_i}$$と略記する
$${\Delta \prec \Delta'}$$ $${\Delta'}$$は$${\Delta}$$の細分(新たな分割点を付け加えて出来る分割)
$${|\Delta| = \max \delta_i}$$ 分割$${\Delta}$$に対する細区間の最大幅
$${\Xi = \{ \xi_1, \xi_2, \cdots, \xi_n | \xi_i \in [x_{i-1}, x_i] \}}$$ 各細区間の代表点の集合
$${M_i = \sup\limits_{x \in \delta_i} f(x), m_i = \inf\limits_{x \in \delta_i} f(x)}$$ 各細区間における関数$${f}$$の上限、下限
$${M = \sup\limits_{x \in I} f(x), m = \inf\limits_{x \in I} f(x)}$$ 区間$${I}$$全域における関数$${f}$$の上限、下限
$${\Sigma_{\Delta, \Xi} (f) = \sum\limits_{i=1}^n f(\xi_i) \delta_i}$$ Riemann和
$${S_{\Delta} (f) = \sum\limits_{i=1}^n M_i \delta_i, s_{\Delta} (f) = \sum\limits_{i=1}^n m_i \delta_i}$$ 過剰和、不足和
Riemann積分の定義は細分の極限によるものと細区間の最大幅の極限によるものの2種類がある(これが明示的に書かれているのが工学教程・微積分[1])。
有界関数$${f}$$の区間$${I}$$での定積分$${J = \int_a^b f(x) dx}$$の定義は以下の2つであり、この2つの定義は同値である。
$${{}^\exist J, {}^\forall \varepsilon>0, {}^\exist \Delta s.t. \Delta \prec \Delta' \Longrightarrow {}^\forall \Xi, |\Sigma_{\Delta', \Xi} (f) - J| < \varepsilon}$$
$${{}^\exist J, {}^\forall \varepsilon>0, {}^\exist \delta>0 s.t. |\Delta| < \delta \Longrightarrow {}^\forall \Xi, |\Sigma_{\Delta, \Xi} (f) - J| < \varepsilon}$$
同値であることの証明は次のように行われる。
2→1の証明 $${|\Delta| < \delta}$$となる分割$${\Delta}$$を1つ任意に取ると、その細分$${\Delta'}$$は当然$${|\Delta'| < \delta}$$を満たすので、$${J}$$に収束するのは明らか。
1→2の証明 $${|\Sigma_{\Delta, \Xi} (f) - J| < \varepsilon' < \varepsilon}$$となるような分割$${\Delta}$$の細区間$${\delta_i}$$の中で、最も短いもの$${\min \delta_i}$$とする。最大の細区間の長さがそれ以下となるような分割$${\Delta' ( |\Delta'| = \delta' < \min \delta_i )}$$を任意に1つ取り、$${\Delta}$$と$${\Delta'}$$の合併(2つの分割の分割点両方を分割点とする分割)を$${\Delta''}$$とする。この時、$${\Delta'' \prec \Delta}$$である為、$${|\Sigma_{\Delta'', \Xi} (f) - J| < \varepsilon'}$$である。$${\Delta'}$$は$${\Delta''}$$より分割点が少ない為$${J}$$との差が$${\Delta''}$$の場合より大きくなってしまうのだが、それが$${\varepsilon - \varepsilon'}$$以下に抑えられることを示せば良い。
$${\Delta'}$$の細区間には2種類がある。その細区間内に$${\Delta}$$の分割点を含まない場合と1つだけ含む場合である(2つ以上含むことは$${\min \delta_i}$$以下の長さで分割していることから起こり得ない)。
$${\Delta}$$の分割点を含まない細区間の場合、その細区間は$${\Delta'}$$と$${\Delta''}$$で変わらないので、Riemann和に対して影響を与えない。
$${\Delta}$$の分割点を1つ含む細区間の場合、$${\Delta''}$$ではその細区間は2つの細区間$${\delta_l, \delta_r}$$に分割される。その2つの細区間での関数$${f}$$の上限をそれぞれ$${M_l, M_r}$$、下限を$${m_l, m_r}$$と置く。この時、この範囲での過剰和、不足和には$${(\delta_l + \delta_r) \min (m_l, m_r) \leq \delta_l m_l + \delta_r m_r \leq \delta_l M_l + \delta_r M_r \leq (\delta_l + \delta_r) \max(M_l, M_r)}$$の関係があり、$${\Delta''}$$より$${\Delta'}$$の方が過剰和が大きく不足和は小さいことが分かる。その差は過剰和の場合、$${\delta_l (M_r - M_l)}$$や$${\delta_r (M_l - M_r)}$$のように表される。ここで、$${\delta_l + \delta_r < \delta'}$$だから$${\delta_l < \delta'}$$かつ$${\delta_r < \delta'}$$であり、$${|M_l - M_r| < M - m}$$が成り立つことも当然であるから、区間$${\delta_l, \delta_r}$$でのRiemann和の$${J}$$からの解離への寄与は$${\delta' (M-m)}$$以下になる。この議論は不足和についても成り立つ。
$${\Delta'}$$の細区間のうち、その細区間内に$${\Delta}$$の分割点を1つ含むものの数は、高々$${\Delta}$$の分割点の個数$${n}$$以下である。よって、Riemann和と$${J}$$の差は、$${\Delta''}$$に対して$${\Delta'}$$では最大でも$${n \delta' (M-m)}$$しか大きくならない。$${n}$$及び$${M-m}$$は$${\Delta'}$$に依存せず決まる量であるから、$${\delta' < \frac{\varepsilon - \varepsilon'}{n (M-m)}}$$と取れば$${n \delta' (M-m) < \varepsilon - \varepsilon'}$$となり、最終的に$${{}^\forall \Xi, |\Sigma_{\Delta', \Xi} (f) - J| < \varepsilon}$$とすることが出来、命題は証明された。■
上の証明からRiemann和は過剰和と不足和の間にあり、その挟まれた範囲が分割を細かくすると狭くなるということが理解されたと思うが、それを詳細に書くと次に示すDarbouxの定理となる。その証明は上と全く同じである。
Darbouxの定理
過剰和、不足和は、分割を細分化していくとその下限、上限に収束し、それぞれ(Riemann)上積分、下積分と呼ばれる。
$${\lim\limits_{|\Delta| \to 0} S_{\Delta} = \inf\limits_{\Delta} S_{\Delta} = S}$$
$${\lim\limits_{|\Delta| \to 0} s_{\Delta} = \sup\limits_{\Delta} s_{\Delta} = s}$$
Riemann上積分と下積分が一致することとRiemann可積分であることは同値である。
有限区間で有界関数に対して定義された積分を本義積分と言う。被積分関数や積分区間が有界でない場合にも積分を拡張したものを広義積分(変格積分)と言い、次のように定義する。
区間の端で有界でない場合
$${x=a}$$で有界でないなら$${\int_a^b f(x) dx \coloneqq \lim\limits_{\varepsilon \to +0} \int_{a+\varepsilon}^b f(x)dx}$$
$${x=b}$$で有界でないなら$${\int_a^b f(x) dx \coloneqq \lim\limits_{\varepsilon \to +0} \int_a^{b - \varepsilon} f(x)dx}$$
このような積分が存在すれば、積分が$${x=a (,b)}$$で収束すると言う区間内の点$${c \in (a,b)}$$で有界でない場合
積分区間を2つに分け、1.の議論を適用する
$${\int_a^b f(x) dx \coloneqq \lim\limits_{\varepsilon \to +0} \int_a^{c-\varepsilon} f(x) dx + \lim\limits_{\varepsilon' \to +0} \int_{c + \varepsilon'}^b f(x) dx}$$
有界でない点が$${c_1, \cdots, c_n}$$という風に有限個に増えた場合も同様Cauchyの主値
2.の積分が定義出来ない時でも、$${\varepsilon = \varepsilon'}$$とすれば極限が定義出来ることがある(P.V.以外にも表記が多々存在)
$${\mathrm{P.V.} \int_a^b f(x) dx \coloneqq \lim\limits_{\varepsilon \to +0} (\int_a^{c-\varepsilon} f(x) dx + \int_{c + \varepsilon}^b f(x) dx)}$$無限積分
$${\int_a^{\infty} f(x) dx \coloneqq \lim\limits_{b \to \infty} \int_a^b f(x) dx}$$
$${\int_{- \infty}^b f(x) dx \coloneqq \lim\limits_{a \to -\infty} \int_a^b f(x) dx}$$
$${\int_{- \infty}^{\infty} f(x) dx \coloneqq \int_{- \infty}^c f(x) dx + \int_c^{\infty} f(x) dx}$$無限積分の主値
$${(- \infty, \infty)}$$で4.の積分が定義されなくても、無限積分の主値は定義出来ることがある
$${\mathrm{P.V.} \int_{- \infty}^{\infty} f(x) dx = \lim\limits_{a \to \infty} \int_{-a}^a f(x) dx}$$
広義積分においては収束が問題となるが、それに関して幾つか定理がある。
$${a}$$が$${f(x)}$$の特異点である時、$${\int_a^b f(x) dx}$$が収束する必要十分条件は、任意の$${\varepsilon > 0}$$に対し、$${c (>a)}$$を十分に小さく取れば、$${a < \xi < \eta < c}$$なる任意の$${\xi, \eta}$$について$${\left| \int_\xi^\eta f(x) dx \right| < \varepsilon}$$
$${a}$$が$${f(x)}$$の特異点である時、関数$${f(x)}$$が$${(a,b]}$$で連続で$${|f(x)| \leq K(x-a)^{-\lambda}}$$となる定数$${0<\lambda<1, K>0}$$が存在すれば、$${x=a}$$で積分が収束する
$${\int_a^b \left| f(x) \right| dx}$$が収束すれば$${\int_a^b f(x) dx}$$も収束する
$${\int_a^\infty f(x) dx}$$が収束する為の必要十分条件は、任意の$${\varepsilon > 0}$$に対し、十分に大きい$${x_0}$$を取れば、$${x_0 < \xi < \eta}$$なる任意の$${\xi, \eta}$$に対して$${\left| \int_\xi^\eta f(x) dx \right| < \varepsilon}$$と出来ることである
関数$${f(x)}$$が$${a \leq x}$$で連続で、$${\left| f(x) \right| \leq Kx^{-\lambda}}$$となる定数$${K}$$と$${\lambda > 1}$$が存在すれば、$${\int_a^\infty f(x) dx}$$は絶対収束する
平均値の定理
区間$${[a,b]}$$で連続な関数$${f(x)}$$について次の式を満たす$${\xi (a< \xi < b)}$$が存在する
$${\int_a^b f(x) dx = (b - a) f(\xi)}$$
第1平均値定理
区間$${[a,b]}$$で$${f(x)}$$は連続で、$${\varphi(x)}$$が可積分かつ定符号であれば、次の式を満たす$${\xi (a < \xi < b)}$$が存在する
$${\int_a^b f(x) \varphi(x) dx = f(\xi) \int_a^b \varphi(x) dx}$$
第2平均値定理
区間$${[a,b]}$$で$${f(x)}$$が可積分で、$${\varphi(x)}$$が有限かつ単調であれば、次の式を満たす$${\xi (a < \xi < b)}$$が存在する
$${\int_a^b f(x) \varphi(x) dx = \varphi(a+0) \int_a^\xi f(x) dx + \varphi(b-0) \int_\xi^b f(x) dx}$$
不定積分とは積分区間の上限を変数$${x}$$にしたもの。
$${F(x) = \int_a^x f(t) dt (= \int^x f(x) dx = \int f(x) dx)}$$
括弧内は定数の違いを無視したもの。
$${f(x)}$$が可積分なら、F(x)は$${x}$$の関数として連続かつ有界変動
但し、$${f(x)}$$が不連続の場合、不定積分$${F(x)}$$が微分可能とは限らず、微分可能であっても$${f(x)}$$の原始関数である($${F'(x) = f(x)}$$)とは限らない。
$${f(x)}$$が連続な点では$${F(x)}$$は微分可能であり、次式が成り立つ。
$${F'(x) = \frac{d}{dx} \int_a^x f(t) dt = f(x)}$$
以上のように、微分と積分が逆の演算となっていることを微分積分法の基本定理と言う。
微分積分法の基本公式
$${f(x)}$$が$${[a,b]}$$で連続で、$${F(x)}$$が$${f(x)}$$の原始関数の1つであれば、次の式が成り立つ。
$${\int_a^b f(x) dx = F(b) - F(a) = \left[ F(x) \right]_a^b}$$
部分積分
関数$${f(x),g(x)}$$が$${C^1}$$級であれば
$${\int_a^b f(x) g'(x) = \left[ f(x) g(x) \right]_a^b - \int_a^b f'(x) g(x) dx}$$
積分変数変換
$${C^1}$$級関数を用い$${x = \varphi(t)}$$と変数変換される時
$${\int_a^b f(x) dx = \int_\alpha^\beta f(\varphi(t)) \varphi'(t) dt}$$
線素に関する線積分
$${\int_C f(P) ds = \int_a^b f(\varphi_1(t), \varphi_2(t), \varphi_3(t)) \sqrt{(\varphi'_1 (t))^2 + (\varphi'_2 (t))^2 + (\varphi'_3 (t))^2} dt}$$
$${f(P) = 1}$$とすると曲線の長さとなるが、それが存在することの必要十分条件は$${\varphi_i (t)}$$が有界変動であること
$${x}$$に関する線積分
$${\int_C f(P) dx = \int_a^b f(\varphi_1(t), \varphi_2(t), \varphi_3(t)) \varphi'_1 (t) dt}$$
[2] 重積分
重積分 積分区域が1次元の区間ではなく多次元となる積分
積分区域$${K}$$に対し、それを覆うような長方形(($${n}$$次元)直方体)区域$${K^* = I_1 \times \cdots \times I_n}$$を考える(区間$${I_j = [a_j, b_j]}$$)。区間$${I_1, \cdots , I_n}$$をそれぞれ1次元の時と同じように分割することで区域$${K^*}$$を小区域$${\omega_i}$$に分割し、$${\omega_i}$$の面積(($${n}$$次元)体積)を$${v(\omega_i)}$$とする。そして$${K}$$の定義関数(特性関数)を$${\varphi(x)}$$($${x \in K}$$で1、それ以外で0を取る関数)、$${f^* (x) = f(x) \varphi(x)}$$と定めると、関数$${f(x)}$$の$${K}$$上の積分は次のように定義される。
$${I = \int_K f(x) dx = \int_{K^*} f^*(x) dx = \lim\limits_{|\Delta| \to 0} \sum\limits_{i} f^*(\xi_i) v(\omega_i)}$$
但し
$${\int_K f(x) dx = \int \cdots \int_K f(x_1, \cdots , x_n) dx_1 \cdots dx_n}$$
とも書く。
ここで注意が必要なのは、区域$${K}$$において面積(($${n}$$次元)体積)が定義されていなければ積分が定義出来ないことである。面積の定義が以下のようにして行う。
積分と同じように、区域$${K}$$を覆う$${K^*}$$を考える。長方形(($${n}$$次元)直方体)の面積(($${n}$$次元)体積)は直交する辺の長さの積と定める。区間$${I_j}$$たちを分割することで$${K^*}$$を小区域$${\omega_i}$$に分割する。この時、各小区域には面積$${v(\omega_i)}$$が定義されている。$${K}$$に含まれるような点の集合の面積をこれらの和によって表すということを考えたい。
ある小区域$${\omega_i}$$の面積を$${K}$$の面積としてカウントするか考える。$${\omega_i}$$の点が全て$${K}$$に含まれる、或いは全て含まれないという場合には扱いは簡単である。前者ならば$${K}$$の面積に加算されるし、後者ならばされない。問題は$${\omega_i}$$の一部の点が$${K}$$に含まれ、同時に一部の点が$${K}$$に含まれない場合である。この小区域の面積を$${K}$$の面積に加えなければ$${K}$$の面積を過小に評価することになるし、加えれば過大に評価することになる。分割を無限に細かくしていった先での過小評価した面積を内面積、過大評価した面積を外面積と呼ぶが、これらが一致した時、$${K}$$の面積が定義された(面積確定)であるとする。
尚、上の意味での面積はJordan測度と言い、それが定まらない場合でもLebesgue測度は定まることがある。Lebesgue測度は領域$${K}$$を覆う長方形区域を考え、$${K}$$と$${K^C}$$の外測度(大きめに測った面積)を可算個の長方形で測る(内測度は直接には計算せず、そうでない部分の外測度を長方形全体の面積から引く)。測度は更に一般的に定めることが出来、$${\mathbb{R}^n}$$の部分集合に限らず様々な集合に対して定義出来る(Carathéodory外測度)。
解析概論[2]に書いてあることだが、多変数の積分では1変数の積分では起きなかった問題が1つ発生している。積分区域を分割する形状である。1次元の場合には線分という形しか取り得なかったが、2次元以上の場合には分割する形状は長方形(($${n}$$次元)直方体)に限らず、様々な形が考えられる。そのような場合にも、面積確定の小区域$${\omega_i}$$に分割し、その径$${\delta_i}$$(点集合の径とは、その中に含まれる2点間の距離のうち最大のものである)の最大値を限りなく小さくすれば、同じように積分が定義出来る。尚、集合を変な形に分割してそれらの測度を考えるというのはLebesgue積分では当然の所作となり、1次元の$${x}$$軸の分割の仕方もRiemann積分とは異なってくる。
重積分をその定義に基づいて計算することは実用的でないが、ある条件下では1次元の積分の反復(累次積分)にすることが出来る。数学概説では有界かつ(区分的)連続な関数の積分において成り立つと書かれているが、解析概論に依れば成り立つ条件は更に緩めることが出来る。被積分関数が有界かつ可積分であるならば、$${n}$$重積分の場合$${n-1}$$変数を固定して1個の変数に関する積分が可能なら、1階積分をしてから$${n-1}$$階積分をすることで$${n}$$階積分が可能である。同様に、1変数を固定して$${n-1}$$個の変数に関する積分が可能であるならば、$${n-1}$$階積分をしてから1階積分をすることで$${n}$$階積分が可能である。$${n-1}$$個の変数の中にも固定出来る変数を見つけることが出来れば、同様に階数を落とすことが出来る。
尚、解析入門に依ればLebesgue-Fubiniの定理により、関数が有界かつ可積分というだけで積分区域の殆ど至るところで他の変数を固定しての積分が可能であり、わざわざそれを仮定に加えなくても累次積分可能である。
Fubiniの定理
領域$${D}$$が$${a \leq x \leq b, \varphi_1(x) \leq y \leq \varphi_2(x)}$$で表される時、区分的連続な関数$${f(x,y)}$$の積分は次のように書ける。
$${\int_D f(x,y) dxdy = \int_a^b dx \int_{\varphi_1(x)}^{\varphi_2(x)} f(x,y) dy}$$
3次元以上でも同様に成り立つ。
当然だが、$${\varphi_i (x)}$$が定数、即ち$${D}$$が$${a \leq x \leq b, c \leq y \leq d}$$となる場合を考えることもある(というかそうすることが多い、変数変換によりそうなるようにする、球面座標とか円筒座標とか有名)。
累次積分の順序交換
数学概説では積分変数変換やパラメータを含む定積分の積分と微分の後に置かれているが、累次積分の直後に書くのが自然であろう。
書かれている累次積分の式は何も面白くないが、可積分を連続なり有界変動に置き換えることが出来ると主張する注意、可積分ではないが累次積分は可能で、順序によって値が変わる具体例として$${f(x, y) = (x^2 - y^2) / (x^2 + y^2)^2}$$の$${0 \leq x, y \leq 1}$$での積分を挙げている例の項には価値がある。
積分変数変換
$${x_i}$$たちを$${t_j}$$たちに変換して積分するには、Jacobianを用いる。$${x_i = x_i (t_1, t_2, \cdots, t_n)}$$として
$${\int_D f(x_1, \cdots, x_n) dx_1 \cdots dx_n = \int_{\Delta} f(x_1(t_1, \cdots, t_n), \cdots, x_n(t_1, \cdots, t_n)) \det \left( \frac{\partial x_i}{\partial t_j} \right) dt_1 \cdots dt_n}$$
積分区域$${D}$$と$${\Delta}$$の点は一対一に対応する必要がある。
パラメータを含む定積分の積分と微分
(1)有限区間の連続関数の積分の場合
$${f(x, t)}$$が$${a \leq x \leq b, c \leq t \leq d}$$において$${x}$$と$${t}$$のそれぞれに対し連続である時
(i) $${I(t) = \int_a^b f(x,t) dx}$$は$${c \leq t \leq d}$$で$${t}$$の連続関数
(ii) $${\int_c^d dt \int_a^b dx f(x,t) = \int_a^b dx \int_c^d dt f(x,t)}$$
(iii) $${\partial f / \partial t}$$が連続であれば$${\frac{d}{dt} \int_a^b f(x,t) dx = \int_a^b \frac{\partial f(x,t)}{\partial t} dx}$$
(iii)' $${a, b}$$が定数ではなく$${t}$$の関数である時は$${\frac{d}{dt} \int_a^b f(x,t) dx = \int_a^b \frac{\partial f(x,t)}{\partial t} dx + b'(t) f(b,t) - a'(t) f(a,t)}$$
尚、(iii)は数学概説では$${x}$$に関する偏微分が連続である時と書かれていたが、解析入門を見るに$${t}$$に関する偏微分の連続であろうし、修正した
(2)広義積分の場合 積分が一様収束すれば同様のことが成り立つ
面積分
$${D}$$:曲面$${S}$$に対応する$${u,v}$$の領域
$${\bm{x} = (x,y,z)}$$
$${dS_{xy}}$$:面素$${dS}$$の$${xy}$$平面への射影
面素に関する面積分
$${\int_S f(\bm{x}) dS = \int_D f(\bm{x}) \left| \frac{\partial \bm{x}}{\partial u} \times \frac{\partial \bm{x}}{\partial v} \right| dudv}$$
$${xy}$$に関する面積分
$${\int_S f(\bm{x}) dS_{xy} = \int_D f(\bm{x}) \left| \frac{\partial (x,y)}{\partial (u,v)} \right| dudv = \int_D f(\bm{x}) \cos \theta_z dS}$$
[3] 著名な積分・積分公式
無限積分の例
$${\int_0^{\infty} e^{-x^2}dx = \frac{\sqrt{\pi}}{2}}$$
$${\int_0^{\infty} e^{- \alpha x^2}dx = \frac{1}{2} \sqrt{\frac{\pi}{\alpha}} (\alpha > 0)}$$
$${\int_0^{\infty} \frac{e^{-\alpha x} \sin x}{x} dx = \frac{\pi}{2} - \tan^{-1} \alpha}$$
$${\int_0^{\infty} \frac{\sin \lambda x}{x} dx = \frac{\pi}{2} (\lambda > 0)}$$
$${\int_0^{\infty} \frac{\sin \lambda x}{x} dx = - \frac{\pi}{2} (\lambda < 0)}$$
Fresnelの積分
$${\int_0^{\infty} \frac{\sin x}{\sqrt{x}} dx = \int_0^{\infty} \frac{\cos x}{\sqrt{x}} dx = \sqrt{\frac{\pi}{2}}}$$
$${\int_0^{\infty} \sin x^2 dx = \int_0^{\infty} \cos x^2 dx = \frac{1}{2} \sqrt{\frac{\pi}{2}}}$$
Laplaceの積分
$${\int_0^{\infty} e^{-b x^2} \cos {2ax} dx = \frac{1}{2} \sqrt{\frac{\pi}{b}} e^{- \frac{a^2}{b}}}$$
誤植として、数学概説ではFresnelの積分の第1式が$${\frac{\sqrt{\pi}}{2}}$$となっており、第2式も$${\sin x^2}$$等とあるべきが$${\sin^2 x}$$となっていた。
Dirichletの積分定理
同様の名称が他書では見つからず、積分区間が$${[0,a]}$$の場合の結果がDirichlet積分として載っているだけである(解析概論、解析入門Ⅰ)。微分積分学(難波誠)には載ってすらいない。
$${f(x)}$$は積分区間内で有界変動であるとする
$$
\lim_{\lambda \to \infty} \int_a^b f(x) \frac{\sin \lambda x}{x} dx =
\begin{cases}
0 &(a<b<0 \mathrm{or} 0<a<b) \\
\pi / 2 \cdot \{f(+0) + f(-0)\} &(a<0<b) \\
\pi / 2 \cdot \{f(+0)\} &(a=0<b) \\
\pi / 2 \cdot \{f(-0)\} &(a<0=b)
\end{cases}
$$
$$
\lim_{\lambda \to \infty} \int_{-a}^a f(x+t) \frac{\sin \lambda x}{x} dx = \frac{\pi}{2} \{ f(t+0) + f(t-0) \}
$$
$$
\lim_{\lambda \to \infty} \int_{-\infty}^{\infty} f(x+t) \frac{\sin \lambda x}{x} dx = \frac{\pi}{2} \{ f(t+0) + f(t-0) \}
$$
第3式に関しては当然左辺の収束も必要で、そうなる為には$${f(x)}$$が絶対可積分であれば十分である。
Fourierの積分公式
$${f(x)}$$が$${(-\infty, \infty)}$$で有界変動で絶対可積分であるならば
$$
\frac{1}{\pi} \int_0^{\infty} d\lambda \int_{-\infty}^{\infty} dt f(t) \cos \lambda(t-x) = \frac{f(x+0) + f(x-0))}{2}
$$
ここで、$${\cos \lambda(t-x) = \cos \lambda t \cos \lambda x + \sin \lambda t \sin \lambda x }$$を使うと、$${f(x)}$$が偶関数若しくは奇関数の時、式は次のように変形出来る
$$
\frac{f(x+0) + f(x-0)}{2} =
\begin{cases}
\frac{2}{\pi} \int_0^{\infty} d \lambda \cos \lambda x \int_0^{\infty} dt f(t) \cos \lambda t &(f: \mathrm{偶関数}) \\
\frac{2}{\pi} \int_0^{\infty} d \lambda \sin \lambda x \int_0^{\infty} dt f(t) \sin \lambda t &(f: \mathrm{奇関数})
\end{cases}
$$
[4] 実積分で定義された関数
初等関数の不定積分で定義された関数
本によって多少の定義の違いがあり、実際、例えば積分余弦関数の見た目が数学概説と数学公式ハンドブックで異なる(計算すると一致するようだが)。積分指数関数に関しては(変換方法はあるものの)異なった関数である。数学公式ハンドブックにおける呼称も併記する。
尚、これらは特殊関数と呼ばれるもので、特殊関数グラフィックスライブラリー[7]というウェブサイトに詳しい。特殊関数を知りたいなら必見である。また、数学概説では被積分関数の分母が0となる積分に関して、それがCauchyの主値であるということが書かれていない点が欠点となっている。
積分正弦関数(サイン積分)
$${\mathrm{Si} (x) = \int_0^x \frac{\sin t}{t} dt}$$
$${\mathrm{si} (x) = -\int_x^{\infty} \frac{\sin t}{t} dt = \mathrm{Si} (t) - \frac{\pi}{2}}$$
積分余弦関数(コサイン積分)
$${\mathrm{Ci} (x) = - \int_x^{\infty} \frac{\cos t}{t} dt = \gamma + \ln x + \int_0^x \frac{\cos t - 1}{t} dt}$$
但し$${\gamma = \lim\limits_{n \to \infty} (1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \cdots + \frac{1}{n} - \ln n) = 0.5772156649 \cdots}$$はEuler定数
積分指数関数(指数積分)
$${\mathrm{Ei} (x) = \int_x^{\infty} \frac{e^{-t}}{t} dt (x>0)}$$
但しこの式を$${\mathrm{Ei} (x)}$$とするのは古く、一般積分指数関数が導入された後は$${E_1 (x)}$$と書くのが定着した。その場合
$${\mathrm{Ei} (x) = - \mathrm{P.V.} \int_{-t}^{\infty} \frac{e^{-t}}{t} dt = \gamma + \log (x) + \int_0^x \frac{e^t - 1}{t} dt}$$
と定め、それは$${-E_{1} (-x)}$$と(Cauchyの主値と複素関数の分岐に由来する差異を除いて)等しいものとなる。
複素領域における定義は次のようになる。
$$
\mathrm{Ei} (z) =
\begin{cases}
+ i \pi - E_1 (-z) &(\mathrm{Im} (z) > 0) \\
-E_1 (-z) &(|\mathrm{Arg} (z)| = \pi) \\
- i \pi - E_1 (-z) &(\mathrm{Im} (z) \leq 0 \cap |\mathrm{Arg} (z)| < \pi)
\end{cases}
$$
置換積分を用いる等して、様々な表記が存在する。
積分対数関数
$${\mathrm{li} (x) = \mathrm{P.V.} \int_0^{x} \frac{dt}{\log t} (x > 0)}$$
これも積分指数関数と同じく複素領域への拡張がある。また、積分対数関数に関する諸々の性質は積分指数関数から導出される。
誤差関数
数学概説では係数が無かったが、係数ありが一般的な模様
$${\mathrm{erf} (x) = \frac{2}{\sqrt{\pi}} \int_0^x e^{-t^2} dt}$$
$${\mathrm{erfc} (x) = \frac{2}{\sqrt{\pi}} \int_x^{\infty} e^{-t^2} dt = 1 - \mathrm{erf} (x)}$$
正規分布の累積分布関数
$${F(x | \mu, \sigma^2) = \frac{1}{2} \mathrm{erfc} (\frac{\mu - x}{\sqrt{2} \sigma})}$$
Fresnelの関数(Fresnel積分)
$${S (x) = \int_0^x \sin (\frac{\pi t^2}{2}) dt}$$
$${C (x) = \int_0^x \cos (\frac{\pi t^2}{2}) dt}$$
ガンマ関数
複数の同等な定義があるが、次の第2種Euler積分が有名。
$${\Gamma (x) = \int_0^{\infty} e^{-t} t^{x-1} dt (x > 0)}$$
これ以外にGaussの公式、Eulerの公式、Weierstrassの標準形がある。Gaussの公式は解析概論にも出てくる呼称であり、またそこではWeierstrassの標準形はWeierstrassの公式と呼ばれている。
$${\Gamma (x) = \lim\limits_{n \to \infty} \frac{n! n^x}{x (x+1) \cdots (x+n)}}$$
$${\Gamma (x) = \frac{1}{x} \prod_{n=1}^{\infty} \{ (1 + \frac{1}{n})^x (1 + \frac{x}{n})^{-1} \}}$$
$${1 / \Gamma (x) = x e^{\gamma x} \prod_{n = 1}^{\infty} \left\{ (1 + \frac{x}{n}) e^{- \frac{x}{n}} \right\}}$$
ガンマ関数には以下のような公式がある。
$${\Gamma (x+1) = x \Gamma (x)}$$
$${\Gamma (x) \Gamma (1 - x) = \frac{\pi}{\sin \pi x}}$$
$${\Gamma (2x) = \frac{2^{2x - 1}}{\sqrt{\pi}} \Gamma (x) \Gamma (x + \frac{1}{2})}$$
公式を使うことによって$${x}$$が(半)整数の時の値が容易に求まる。
$${\Gamma (x + 1) = x! (x \in \mathbb{N}^{+})}$$
$${\Gamma (1/2) = \sqrt{\pi}}$$
$${x < 0}$$に対しても$${\Gamma (x + 1) = x \Gamma (x)}$$を利用して定義することが出来る。
$$
\begin{align*}
& \Gamma (-p) \\
= & \frac{1}{(-p)} \Gamma(-p+1) \\
= & \frac{1}{(-p) (-p+1)} \Gamma (-p + 2) \\
= & \cdots \\
= & \frac{1}{(-p) (-p+1) \cdots (-p+n)} \Gamma(-p+n+1)
\end{align*}
$$
$${p \in \mathbb{N}}$$を除き、これで定義出来る。
ガンマ関数は$${n}$$次元球の体積$${V_n}$$、面積$${S_n}$$の計算に使用可能。
$${V_n = \frac{a^n \pi^{n/2}}{\Gamma (n/2)} \frac{2}{n}}$$
$${S_n = \frac{2 a^{n-1} \pi^{n/2}}{\Gamma (n/2)}}$$
ガンマ関数の対数$${\log \Gamma (x)}$$の$${n}$$階微分をポリガンマ関数と総称し、特に$${n=1}$$のディガンマ関数は次のようになる。
$${\varphi (x) = \frac{d}{dx} \log \Gamma (x) = \frac{\Gamma' (x)}{\Gamma (x)} = - \gamma + \sum_{n=0}^{\infty} \left( \frac{1}{1+n} - \frac{1}{x+n} \right)}$$
ベータ関数
Eulerの第1積分による定義が有名。
$${\Beta (x, y) = \int_0^1 t^{x-1} (1-t)^{y-1} dt (x,y > 0)}$$
次の関係式が成り立つ(4つ目の式で数学概説では$${y}$$の部分が一か所1に誤植)
$${\Beta (y, x) = \Beta (x, y)}$$
$${t = u/a (a>0)}$$と置いて$${\Beta (x, y) = \frac{1}{a^{x+y-1}} \int_0^a u^{x-1} (a-u)^{y-1} du}$$
$${t = \sin^2 \theta}$$と置いて$${\Beta (x, y) = 2 \int_0^{\pi / 2} \sin^{2x-1} \theta \cos^{2y-1} \theta d\theta}$$
$${t = u / (1+u)}$$と置いて$${\Beta (x, y) = \int_0^{\infty} \frac{u^{x-1}}{(1+u)^{x+y}} du}$$
$${x}$$や$${y}$$が負になる場合でも、ガンマ関数を用いて表すことで定義出来る。
$${\Beta (x, y) = \frac{\Gamma (x) \Gamma (y)}{\Gamma (x+y)}}$$
楕円関数と楕円積分
現代では楕円関数は$${\mathbb{R}}$$上一次独立な二重周期$${\omega_1, \omega_2 \in \mathbb{C}}$$を持つ有理型関数として定め、その後に楕円積分と関連付ける[8]が、それは複素関数論の章に回す。ここでは実数範囲で考えたいので楕円積分の逆関数として楕円積分を定義する。
(i) 楕円積分
$${R(x,s)}$$を$${x,s}$$に関する有理関数、$${\varphi (x)}$$を$${x}$$の多項式とし、不定積分
$$
f(x) = \int^x R(t, \varphi(t)) dt
$$
を考える。$${\varphi(t)}$$が1次、もしくは2次式の場合これは初等関数で表せるが、3次以上の場合にはそうならない。3, 4次の場合を楕円積分、5次以上の場合を超楕円積分と言う。楕円積分は第1, 2, 3種の標準形積分(幾つかの取り方がある)と初等関数の和で表すことが出来る。標準形積分は不完全楕円積分とも言う。
Legendre-Jacobiの標準形($${0 \leq x = \sin \varphi \leq 1 (0 \leq \varphi \leq \pi/2), 0 < k < 1}$$)
$$
\begin{align*}
& \int_0^x \frac{dt}{\sqrt{(1 - t^2)(1 - k^2 t^2)}} = F(x ; k) \\
= & \int_0^{\varphi} \frac{d \theta}{\sqrt{1 - k^2 \sin^2 \theta}} = F(\varphi; k)
\end{align*}
$$
$$
\begin{align*}
& \int_0^x \sqrt{\frac{1 - k^2 t^2}{1 - t^2}} dt = E(x; k) \\
= & \int_0^{\varphi} \sqrt{1 - k^2 \sin^2 \theta} d \theta = E(\theta; k)
\end{align*}
$$
$$
\begin{align*}
& \int_0^x \frac{dt}{(1 + ct^2) \sqrt{(1 - t^2)(1 - t^2 x^2)}} = \Pi(x; c, k) \\
= & \int_0^{\varphi} \frac{d \theta}{(1 + c^2 \sin^2 \theta) \sqrt{1 - k^2 \sin^2 \theta}} = \Pi(\varphi; c, k)
\end{align*}
$$
$${k}$$を母数と言うが、$${m = k^2}$$を用いて書かれることもある。また積分区間の上限が$${\varphi = \pi / 2 (x = 1)}$$の時、完全楕円積分と言い、$${K(k), E(k), \Pi(c,k)}$$のように表す(括弧内が省略されることもある)。
Riemannの標準形($${\lambda \neq 0, 1}$$)
$$
\int_0^x \frac{dt}{\sqrt{t (1 - t) (1 - \lambda t)}}
$$
$$
\int_0^x \frac{t dt}{\sqrt{t (1 - t) (1 - \lambda t)}}
$$
$$
\int_0^x \frac{dt}{(t - a) \sqrt{t (1 - t) (1 - \lambda t)}}
$$
Weierstrassの標準形($${g_3 \neq 0}$$)
$$
\int_{\infty}^x \frac{dt}{\sqrt{4t^3 - g_2 t - g_3}}
$$
$$
\int_{\infty}^x \frac{t dt}{\sqrt{4t^3 - g_2 t - g_3}}
$$
$$
\int_{\infty}^x \frac{dt}{(t-a) \sqrt{4t^3 - g_2 t - g_3}}
$$
(ii) Jacobiの楕円関数
Legendre-Jacobiの標準形の第1種楕円積分は$${x}$$(または$${\varphi}$$)から値が決まる関数であるが、その逆関数を考え、以下のように定める。
$${x = \mathrm{sn} u = \mathrm{sn} (u;k)}$$
$${\varphi = \mathrm{am} u = \mathrm{am} (u;k)}$$
更に、sn関数からcn関数、dn関数が定義出来る。これらをまとめてJacobiの楕円関数と言う。(メモ:ここで双曲線関数が出てくるし、工学教程のように無限級数を定義した後に初等関数の定義を行っておくべきだった)
$${\mathrm{cn} u = \sqrt{1 - \mathrm{sn}^2 u}}$$
$${\mathrm{dn} u = \sqrt{1 - k^2 \mathrm{sn}^2 u}}$$
$${0<k<1}$$だが、$${k \to 0,1}$$の極限で次のようになる。
$${\mathrm{sn} u \to \sin u, \mathrm{cn} u \to \cos u, \mathrm{dn} u \to 1 (k \to 0)}$$
$${\mathrm{sn} u \to \tanh u, \mathrm{cn} u \to \mathrm{sech} u = \frac{1}{\cosh u}, \mathrm{dn} u \to \mathrm{sech} u = \frac{1}{\cosh u}, K(k) \to \infty (k \to 1)}$$
Jacobiの楕円関数には以下のような関係が成り立つ。
$${\mathrm{sn} u = \sin (\mathrm{am} u), \mathrm{cn} u = \cos (\mathrm{am} u)}$$
周期:$${\mathrm{sn} (u+4K) = \mathrm{sn} u}$$
特別値:$${\mathrm{sn} 0 = 0, \mathrm{cn} 0 = 1, \mathrm{dn} 0 = 1, \mathrm{sn} K = 1, \mathrm{cn} K = 0, \mathrm{dn} K = \sqrt{1-k^2}}$$
奇・偶関数:$${\mathrm{sn} (-u) = - \mathrm{sn} u, \mathrm{cn} (-u) = \mathrm{cn} u, \mathrm{dn} (-u) = \mathrm{dn} u}$$
平方関係:$${\mathrm{sn}^2 u + \mathrm{cn}^2 u = 1, \mathrm{dn}^2 u - k^2 \mathrm{cn}^2 u = 1 - k^2, \mathrm{dn}^2 u + k^2 \mathrm{sn}^2 u = 1}$$
加法定理:略
導関数:$${(\mathrm{sn} u)' = \mathrm{cn} u \mathrm{dn} u, (\mathrm{cn} u)' = - \mathrm{sn} u \mathrm{dn} u, (\mathrm{dn} u)' = - k^2 \mathrm{sn} u \mathrm{cn} u}$$
展開式:略
(iii) Weierstrassの楕円関数
Weierstrassの標準形の第1種楕円積分は$${x}$$から値の決まる関数であるが、その逆関数を考え、以下のように定め、Weierstrassのペー関数と呼ぶ。
$${x = \mathscr{P} (z)}$$
第1種楕円積分の両辺を$${x}$$で微分し$${dz/dx}$$、そこから$${dx/dz}$$を求めることで、ペー関数の導関数に関する次の式が導かれる。
$${(\mathscr{P}')^2 = 4 \mathscr{P}^3 - g_2 \mathscr{P} - g_3}$$
定数$${e_1 > e_2 > e_3}$$を
$${4t^3 - g_2 t - g_3 = 4(t-e_1)(t-e_2)(t-e_3)}$$
として導入し、
$${t = e_3 + \frac{e_1 - e_3}{\sin^2 \theta}}$$
$${x = e_3 + \frac{e_1 - e_3}{\sin^2 \varphi}}$$
と変数変換すると
$${z = \frac{1}{\sqrt{e_1 - e_3}} \int_0^{\varphi} \frac{d \theta}{\sqrt{1 - k^2 \sin^2 \theta}} = \frac{1}{\sqrt{e_1 - e_3}} F(\varphi, k) (k = \frac{e_2 - e_3}{e_1 - e_3})}$$
$${\Rightarrow \sin \varphi = \mathrm{sn}(\sqrt{e_1 - e_3} z)}$$
これを$${x = e_3 + \frac{e_1 - e_3}{\sin^2 \varphi}}$$の式に代入することで
$${x = \mathscr{P} (z) = e_3 + \frac{e_1-e_3}{\mathrm{sn}^2 (\sqrt{e_1-e_3} z)}}$$
という、$${\mathscr{P}}$$関数と$${\mathrm{sn}}$$関数の関係を得る。
[5] Stieltjes積分
積分を考える時、単なるRiemann和$${\sum f(\xi_k)(x_k - x_{k-1})}$$ではなく、$${f}$$の$${\varphi}$$に関するRiemann和
$${\sum f(\xi_k) (\varphi(x_k) - \varphi(x_{k-1}))}$$
を考え、その極限を取る。このような積分を(Riemann-)Stieltjes積分と言い、
$${\int_a^b f(x) d \varphi (x) = \int_a^b f d \varphi}$$
のように表す。
$${f}$$が連続かつ$${\varphi}$$が有界変動の時、$${f}$$は$${\varphi}$$に関してStieltjes可積分となる。
$${f}$$が有界かつRiemann可積分、$${\varphi}$$が$${C^1}$$級であるならば次式が成り立つ。
$${\int_a^b f(x) d \varphi (x) = \int_a^b f(x) \varphi' (x) dx}$$
解析入門によるとStieltjes積分にも平均値定理が存在するが割愛。
参考文献
[1] 時弘哲治:東京大学工学教程 基礎系 数学 微積分、丸善出版、2015
[2] 高木貞治:定本 解析概論、岩波書店、2010
[3] 杉浦光夫:解析入門Ⅰ、東京大学出版会、1980
[4] 難波誠:微分積分学、裳華房、1996
[5] 志賀浩二:ルベーグ積分30講、朝倉書店、1990
[6] Alan Jeffrey (穴田浩一、内田雅克、柳谷晃 訳):数学公式ハンドブック、共立出版、2013
[7] https://math-functions-1.watson.jp/index.html
[8] 梅村浩:楕円関数論、東京大学出版会、2000