落合博満のルーキーカード研究
私は古い時代のプロ野球に興味を持っている。1997年頃から野球カードのコレクションを始めたのだが、ロッテファンであった私はロッテオリオンズ時代のカードを集めるようになった。
オリオンズ時代のカードの中でも人気の1枚に、1985年にカルビーが発行したカードの71番、落合博満のカードがある。カルビーのポテトチップスにおまけで付いてくる野球カードは有名であるが、1973年にスタートしたこの野球カードに正式にロッテの選手が登場したのは1985年が最初であり、そこまで登場しなかったのは親会社がお菓子のライバル会社だったから、という説が有力だ。
そんなわけでこのカードは落合のルーキーカードとして一般に認識されている(異説はあるがここでは割愛する)。ルーキーカードとはその選手について初めて作成されたカードのことで、名前と違って新人であるかを問わない。有名なところでは、イチローのカードは新人の年には発行されず、2年目の1993年のカードがルーキーカードとされている。
選手のカードというのは後からどんどん作れるが、一番初めのカード、というのは当たり前だが後から生み出せない。そんなわけでルーキーカードには一般的に値打ちがあり人気もある。もっとも落合のルーキーカードは中古市場に出回る数も結構多いので、相場相応という値段でも入手は比較的容易である。
私も確か1998年か1999年頃に1枚入手したのだが、当時の私はそこまでつぎ込めるお金もなかったので、他のコレクションは遅々として進まず、その後2004年頃からは別のことに興味が移りコレクターとしての活動からは遠のいた。
2019年頃からコレクションを少し再開したのだが、その頃、「カルビーカード研究所」というブログで気になる情報を見つけた。いわく、1985年のカルビーのカードには、表面の名前の位置がずれているバリエーションが存在しているというのである。そういえばそんな情報はかつて聞いた気もするが、今ほどネット環境が発達していなかった当時、そういった情報はコレクター仲間や古いカードに強いカードショップ店員から教えてもらうしかなく、詳細は全く知らなかった。
ブログでは某選手の画像2枚が並べられて、比べると確かに印字位置が違う。他にも2例、バリエーションの存在が示唆されていたが、それら3例がいずれも51番から100番ぐらいのカードだったことに気付いた私は「71番の落合にもバリエーションが存在するのではないか」と考えたのである。
バリエーションがあることが判明すると、すべて集めたくなるのはコレクターの悲しい性である。それも、何千枚と生産されたカードで「1枚1枚が全て異なります」というのであれば簡単にあきらめもつく(正確にはあきらめざるを得ない)が、これが「3パターンに分類されます」程度の話になると、3パターンを揃えたくなってしまうのである。
そこで、まずは情報収集も兼ねて、似たような番号のカードの画像をインターネットで収集してみたところ、51番から125番までのカードにそれぞれ複数のバリエーションがあるようだ、ということが分かった(それ以外の番号帯にもあるかもしれないが、まずは落合のカードの付近を基準に調査した)。その中で一番多く見つけられたのが67番の原辰徳のカードで、4パターンが確認された。
選手名と球団名の文字色が赤色である
選手名と球団名の文字色が緑色である
名前の「原」が、ユニフォームの「GIANTS」のTの横棒に重なっている
名前の「原」が、ユニフォームの「GIANTS」のTの縦棒の中心に重なっている
名前の「原」が、ユニフォームの「GIANTS」のTの縦棒の下半分に重なっている
以上のパターンが確認されており、文字色の違い、印字位置の違いなどがバリエーションの内容とみられることも分かった。本来なら画像を掲載したいところであるが、画像は収集したもののカードは全く手元にはないので、掲載は控える。
なお、文字と写真の位置関係は同じでも、印刷工場でカードを裁断するときにずれが生じたカードというのも存在する。これらは裁断位置は違えども原版は同一のものであるから、バリエーションとはみなさないという考え方がコレクターの中では一般的だと思うので、ここでは取り上げない。
それにしても、この原のように4パターン程度なら何とか手が届くんじゃないか、と思ってしまう。こうなれば落合のカードのバリエーションも集めてみるまで、と調べてみることにした…どこまで深い泥沼であるかも知らずに。
さてそのバリエーションであるが、コレクションのためにもきっちり分類して整理しておくことが必要である。
バリエーションを分類するにあたっては、原のカードにヒントを得て、選手名と球団名の、主に左右方向のずれと上下方向のずれに着目した。なお落合のカードについては、現在判明しているものは全て文字が緑色なので、今のところ色を分類の手段に用いてはいない。
まず左右方向だが、球団名の「(ロッテ)」がユニフォームから背景にかけての位置にあることに着目した。ポイントは、「ロッテ」の3文字のうち、ユニフォームの外、つまり完全に背景の上に出ている文字が何か、ということである。
「ロッテ」の3文字とも完全に背景の上にある
「ロ」がユニフォームに半分掛かり、「ッテ」の2文字が完全に背景の上にある
「ロ」がユニフォームの上、「ッ」がユニフォームに半分掛かり、「テ」の1文字が完全に背景の上にある
この3種類で見分けられることがわかった。
そこでこれらのバージョンを、「完全に背景の上にある最初の文字」から取って、バージョン「ロ」・「ッ」・「テ」と命名する。
他にも命名の仕方はあるだろうが、これが一番覚えやすいと思う。だが文字だけの説明よりも、実物を見て比較するのがやはり手っ取り早い。以下の画像は全て筆者の所有するカードのものである(ピンぼけ等はご容赦願いたい)。
こうして3バージョンに分類したが、実はバージョン「ロ」についてはさらに細かい区分がある。ロの一つ前の文字は「(」すなわち開きカッコであるが、この位置が微妙に違うバージョンがあるのである。
見分け方は、(の内側、つまり(の右に、ユニフォームの袖口を取り巻く赤いラインが見えるかどうか、というものである。この赤いラインが見えるものを、バージョン「ロ袖」と命名する。
以上の4バージョンが左右方向の分類である。なお、実は他にもう一つ「ロ角」とでも命名したいバージョンがあるのだが、これは上下方向の分類で区別できるので、今回は説明しない。
次に上下方向の分類について述べる。ここでは、選手名とユニフォームの「LOTTE」の文字との関係に着目した。選手名で基準にしたのは一番左に飛び出ている「落」の字の草冠の横棒で、これとユニフォームの「E」の3本の横棒との上下を比較するのがポイントである。
「E」の上の横棒の高さにある
「E」の上の横棒と真ん中の横棒の隙間の高さにある
「E」の真ん中の横棒の高さにある
「E」の真ん中の横棒と下の横棒の隙間の高さにある
「E」の下の横棒の高さにある
これらの数字そのものをバージョン名称とし、左右方向のバージョンと合わせて表記することにする。つまり「ロ袖3」と言えば、左右方向はバージョン「ロ袖」で、上下方向は「落」の草冠の横棒が「E」の中の棒の高さにあるバージョン、ということになる。例4のカードが、まさにこの分類名「ロ袖3」というものに該当する。
なおカードによっては、2と3のちょうど中間にある、というケースも存在する。分かりやすく言うと、ユニフォームのEの文字は赤色に紺の縁取りがされているが、その縁取りの上にある、ということである。そこでこの場合これを2.5と表記する。ちょうど例2のカードがそうで、分類名「ッ2.5」というものになるだろう。ちなみに例1は「ロ3」、例3は「テ1」となる。
このように左右方向と上下方向の分類をしたところで、これを手持ちのカードやネット上で見つけたカードの画像21枚に当てはめた結果、落合のルーキーカードには少なくとも7パターンのバリエーションが存在していることが確認できた。またその後、新たに1パターンの実物を入手することができた。
既に「ロ3」「ッ2.5」「テ1」「ロ袖3」の4パターンを紹介したが、それ以外に確認できたのが以下の「ロ1」「ロ3.5」「ロ袖3.5」「ッ3」である。
「ロ3.5」と「ロ袖3.5」の区別はやや微妙なところがある。写真ではわかりにくいが、「ロ3.5」でも、目を凝らせばわずかに袖の赤色が見えているようにも見えるからだ。両者を確実に見分けるには、「落」の字の草冠の横棒と、「E」の真ん中の横棒の位置関係で見極めるほうがまだわかりやすいかもしれない。Eの縁取りの上に留まっていれば「ロ3.5」、少し赤い部分に食い込んでいるように見えれば「ロ袖3.5」である。
そしてそれ以上に区別がしにくいのが「ッ2.5」と「ッ3」である。「2.5」といっても、見ようによっては「3」の位置に見えなくもないからだ。この二つを見極めるには、むしろ「ロ」の字の位置に着目すべきかもしれない。ロの半分以上がユニフォームの外にあれば「ッ2.5」、同じく半分以上がユニフォームの上ならば「ッ3」となる。
先に手持ちのカードやインターネット上の検索で落合のカード画像を21枚集めた、と記したが、それらの中で最も多かった分類は「ロ3」で7枚、次いで「ロ1」が4枚、あとは2~3枚であった。
このようにカード画像を集めて比較することで今回の分類方法を作り上げることができたのだが、その中で「ッ」については2.5の画像しか見つからなかったため、全部で7種類が存在すると一先ず結論付け、実際に集まったのもこの7種類であった。
その後も収集を続けるうちに、偶然8種類目である「ッ2.5」をオークションで見つけ、購入に至った。この新種の発見は、上記の分類を用いたことによって新しいバリエーションであると容易に確認が取れたのであり、分類の有用性が図らずも立証される結果となった。
今回は左右と上下の文字のずれからバリエーションを分類したが、分類方法は何も文字だけではない。写真のトリミングや傾きの違い、印刷時の不具合による点やシミのような模様の有無、色味の違いも区別の候補になる。
上の画像でも、文字色を比べると緑の濃淡があるのも分かるし、もっと分かりやすいところでは「ロ3」と「ロ袖3」の2種だけは、他と異なり「博」と「満」の白い縁取りの隙間に穴があって背景のユニフォームの色が見えているのが分かる(「テ1」もそうかもしれないが、背景のユニフォームも白色なので判別できない)。
このようにいろいろな点に着目していけばさらに複数の分類が生まれるかもしれないが、例えばインターネット上の画像だと色味の違いは簡単には判別できないし、ごく小さな位置のずれは現物をノギスででも測らねばらならなくなってしまうかもしれない。
だが実際に今回のような分類が必要になるのは、ショップやオークションでカードを見かけたときに、収集済みか否かを判断するために見分ける、というシーンが最も想定されるところであろう。そんなシーンでも容易に使えるのが、今回紹介した分類方法である。他に「使いやすい」分類方法があるかどうか、これは今後の研究次第としたい。