こんがりクッキー/散らかる文 青紗蘭
幼い頃。
私は、あるお寺さんで面倒をみてもらっていた。先々代の住職は、お顔がほんとうに優しくて厳しいときも、私にわかるように説明してくれた。とにかく、素晴らしい方であった。
私は、なかなか家族に会えなかったが、木登りをして動物たちとお日様が沈んでゆくのをみると、寂しさも和らいだ。
ある日の夕方、木登りをしようとしていると、後ろの方から明るい笑い声がきこえだ。振り返ると母がいたのだ。
「あんた、ぱんつ丸見えよ」
と母が笑いながら私を抱きしめた。
どうして、きてくれたのかわからないけれど、おなかから、ぶわっと嬉しさが全身に広がったのを覚えている。
母は、私と安全に暮らすために沢山お金を貯めているのだという。「あと、もうすこし待っててね」と手を繋ぎ歩きながら話してくれた。
いろんな話をしてくれたきがしたけれど、忘れてしまった。母に会えたことで全身がいっぱいだったから。
母の住む家につくと、ほのかに甘い薫りがした。母は、クッキーを焼いていてくれた。
すこし、かたくて、こんがりしたクッキー🍪
「母が焦げちゃった」といったけれど、私は、嬉しかった。母は料理上手な人であったが、お菓子作りは苦手らしいのだ。
二人でほおばるクッキーは、何よりも何よりも美味しかった。
母は、私を急に抱きしめた。
「必ず迎えに行くから元気でいるのよ。御住職のお話はちゃんときくのよ」
口の端についたクッキーが、ちょっとしょっぱくなった。
「うん」
私は、頷き、ぎゅーっとした。
母がいることを確かめるように。
帰り道、お寺の門のところで、じいじ(住職)がにこにこと髭をさすりながら待っていた。
母と手を離したくなくて、ぎゅっとした。
だけど、母は約束してくれた。
だから、じいじのところにかけていった。
母は、深々と頭を下げ、手を振って去って行った。
私は、どうしても母の薫りを残しておきたくて、クッキーを1枚だけ残した。