チョコレート売り場にて
久し振りにチョコレート売り場を覗いていた。周りには、女子高校生たちの嬉々とした声が交わされていたり、真剣に吟味する人の視線があった。
私は、なんだか微笑んでしまった。
誰かの為に、あーでもないこーでもないと、一喜一憂できる姿を見られて、嬉しかったのかも知れない。
(あなたの想いが伝わりますように…。)
つい、呟いた。
微笑む中で幸せな気持ちになる。誰かの微笑みを感じられる。それは、また、私も幸せだからなのかも知れない。
「あいたっ!」
ふくふくと巡らせていた思考を、痛みで止めた。何かにぶつかってしまったらしい。目を開けると、そこには男性が立っていた。私は、慌てて謝る。
「ご、御免なさい!お怪我はありませんでしたか?」
少しだけ驚いた顔をした男性は、すぐにっこりと微笑んでくれた。
「あはは!大丈夫さ。お嬢さんは、大丈夫かい?」
恐る恐る顔を上げた先にいたのは、恰幅のよい妙齢の男性だった。スーツを着こなすその人の手には、可愛らしいチョコレートの箱があった。
私の視線に気がついたのか、男性は気さくに笑った。
「ああ~これはね、妻の好きだったチョコレートなんだ。この時期にしか売り出さないから、こんな風貌のオッサンが並んで買うはめになる(笑)まぁ、気にはしないがね。」
そう言うと高らかに笑った。
私は、笑顔の中にある「だった」という言葉で行き詰まった。もしかして…。
「あの、奥様は…」
そう言いかけたとき、男性は少し遠くを見ながら話してくれた。
「私の妻は、【こころ】と言うんだが大分前に亡くなってね…。甘い物も行事的なものも全く関心の無い私に毎年このチョコレートを贈ってくれていたんだ。
『私の好きなチョコレートだから、憶えてね』と。参ったよ…。忘れられるわけないよな。」
男性の笑顔には、泪も含まれていたのだと知る。
私は、この男性のことを何も知らない。其れでも、素敵な想いと共に在るのだなということは、ハッキリしていた。
バレンタインという一つの出来事をとっても沢山のストーリーがある。特別な日でなくてもある。
私は、「良い日だったな」と歩き始めた。。
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