1週間(裏)

この話は【1週間】の裏話になります。
見てない方はご覧になってからおいでください。



「まだ!!まだ家に残ってる人がいる!!」

そんな声が聞こえた俺は真っ先に火事で家が燃えている中に飛び込んだ。
なぁにいつものこと。パパッと救助して帰還してやるよ。
そんなふうに息巻いて入ったものの、家の中は想像以上に酷かった。

「おーーいっ!!!」

火の中で精一杯叫びながら、人を探す。
熱い中必死で探り続けていると、眠っているのか気を失っている男の子が居た。
とりあえず抱えて、外へ出ようと歩き始めた時。すぐ傍にあった柱が燃えて俺の足の上に落ちてきた。

「ゔッ……あ”あ”ッ」

焼けるような熱さと共に、想像以上にどしんッと俺の足の上に乗る柱は俺を動かせなくさせるには簡単で。

「大丈夫かー!?」

他の仲間の声が聞こえるのがうっすらと聞こえゆく中。

「ここだーーーッ!!」

叫ぶのが精一杯。
次に目を覚ました時、俺は見知らぬ場所にいた。
ここはどこだ?と思ったが、俺の視界には見知らぬ少年がベッドの上にいる。

その少年はこちらを見つめると「君は誰だ?」と聞いてきた。
だが、その質問をされても自分の名を言うほどバカではない。
だからこそ「お前こそ、誰なんだ?」と聞き返した。
ベッドの上にいた彼は何も言わずにただスーッと体が見えなくなっていった。

次に目が覚める。昨日から違和感があった。
そもそもここは何処なのか。ということ。俺は死んでしまったのか。ということ。
俺は確か足を怪我して……そう思い、下の方へと目線をズラす。
俺の足は見事に無くなっていた。

「う……そだろ……。いや、そりゃそうか。あれだけのコトだ。
命が助かっただけでも・・・」

そう自分で言い聞かせようとした時。ふと気づいてしまったのだ。
自分が飛んでいることに。足に地をつけていない。
だが、自分の目線はほぼ立っている時と大して変わらない。
それは異常だということ。
そして、窓の向こう側にいるベッドの上の少年。

ふと、嫌な予感がよぎった。

「そんな所で何してるんだい?」

また今日も彼に話しかけた。
彼はこの質問に少し迷いを見せて黙っていた。
現状把握が出来ていない。といった感じか。

「・・・なぁ、そんな所に居ても楽しくないぞ。
ベッドの上なんかに居るんじゃなくて、外へ出よう」

それだけ言うと。彼は自分の身体に目を向けた後

「外へ出たくても身体が重くて動かないんだ」

本当のことだろう。俺はその点”足がないのに”自由に動ける。
この違いは……”生死”の違いだろう。
この時俺は自分が死んでいる人間だとハッキリ自覚した。
その瞬間、異様な笑みが溢れ出て

「可哀想になぁ。じゃあ、お前は一生そこにいろよ。
俺はお前とは違う。あははっ!!!」

抑えきれない絶望のような感情を半ば八つ当たりという形で出してしまった。
そんな態度をとった後彼の姿は無かった。
後悔もしたが、今俺に出来る最善の事はなんだろうか。と考えた。

その次の日も彼の病室がハッキリみえた。
少し安堵しつつも、ずっと彼に向けていた視線を部屋全体に行き渡らせた。
そして気付いたことは時計が可笑しい事。扉が一つある。それが確認出来た。
時計が可笑しい。というのは。時計とは本来1~12までの数字が書かれていてそれをグルグルと回り続ける物だが。
彼の頭の上に置いてある時計は0~7が書かれていて。今は4~5の間に針がある。


「また来たのか?」

時計に注目していれば、彼からそんな質問を受けた。

「憐れんでやろうと思ってな〜」

昨日の調子でそんな風に返せば”迷惑”といった表情を見せてくる
彼の昨日の言葉を思い出し

「足があるのに動かないなんて、あーーー、なんて可哀想なんだ!!
・・・怠慢なんじゃねーの?ほんとは動かせるのに動かさない。」

それだけ発すると、彼は怒ったのか

「なッ!?動かそうとしても動かせないんだよ!!!」

大きな声で叫ぶようにそう言った。チラッと上の時計を見ると微々たるものだがだんだんと4に近付いていくのが分かる。

「ならよ、動かせるようにしてやるよ。
膝にまず意識を集中させて。ゆっくりと身体を動かしてみろ。」

何度か職場で足の不自由な人と関わってきたことがある。
身につけていた知識でそれだけ言えば、彼は俺の指示に従い少し身体を動かそうとすれば

「う、動いたッ!!」

驚いた声でそう言われ、「そうだろ〜?」とニヤニヤと言葉を返す。
消えそうになる寸前に頭上の時計を見つめる。すると針はほとんど4を指していた。
その次の日から足を動かす特訓が始まった。
1日1日と、時間が過ぎて。彼と出会って時計が2~1になる頃には
身体を動かせてベッドから起き上がり立てる所までになっていた。

「やったぁぁぁ!!!立てた!!!」

2人でガッツポーズをしながら大いに喜んだ。
彼が俺の方を立ったまま見つめる

「僕も、窓の外へ行きたい」

真剣な眼差しを向けてそう言われるが。
あくまでも仮定ではあるが、【窓の外】へ出るというのはきっと【死ぬこと】に値するのではないか。と直感で感じていた。

「・・・ダメだ。」

首を振りながら断れば。腹を立てたように

「なんでだよ」

と言い放った。答える間もなく。時計の針は1に近づいて。
いつしか姿も見えなくなっていた。
目を覚ませば、いつものように彼の寝室が見えた。
時計は0へと近付いていくのが分かる。

「昨日はどうして僕に何も言わずに行ってしまったんだ?」

俺の姿を見た途端。彼は俺にそう聞いてきた。
だが俺は彼の声を無視して部屋の扉を指さした

「昨日、外へ行きたいと言っただろ。
その扉の先だ。お前が1人で歩いて来い」

それだけ言えば。彼は扉の方に目を移す。
少し無言になったかと思えば

「・・・難しいな」

小さな声から発されたのは。弱気な言葉で。

「弱音なんて吐くな。立って、お前の意思で歩け!
ゴールは見えてる。早くしろ!」

時計が0に迫っている焦りが募り、叫びながらそう言ってしまった。
ハッとしたまま、彼を見れば。体を動かし始めゆっくりと扉の方へ壁伝いに歩いていく。

彼は扉の前に立つと俺の方を向いてきた。

「扉を開け。そこがゴールだ」

自然と零れた言葉はまるで【最期】と言っているように。
俺の視界から彼の姿が消えてしまったんだ。

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