ワタシ
私は容姿が醜く、心も廃れている。
「ぎゃはは!!見ろ〜!!お化けだ!!お化け〜!!!」
私の近くを通る子供は大きな声で私をからかう。
小学生の餓鬼ではあれど、私の容姿を見て率直に「オバケ」と表現するのはよく分かる。
髪が伸びきって、目が見えない。猫背が癖でお婆さんまで行かずとも腰が曲がって服も黒色で統一されていて。本当にお化けだ。
『くっだらな・・・』
明るい商店街に差し掛かれば、素敵な衣装が目に入る。
そしてそこに反射して映るのはボサボサヘアのジト目姿の自分で。
1人で何処かのお店に入る。なんてことは、人生でした事が無く。
入る勇気も持ち合わせないまま、明るい商店街を通り過ぎようとした。
そんな時
「すいません、このハンカチ貴方のですか?」
トントンと肩を叩かれたと思えば、そう聞かれ。
くるりと後ろを向けばニコニコと笑顔の少し太っている男性だった。
手元を見ると自分のハンカチで
『あぁ……確かに私のです。すみません、ありがとうございます』
お礼だけ言って受け取れば、その男性は「では」と言ってそのまま歩いて行ってしまう。
こんなにジメジメした女に話し掛ける事こそ勇気がいるものなのに、偉いな。なんて思いながら今日という日を過ごした。
『おはようございます』
私はこんな見た目でも、一応会社に勤めさせて頂いている。
特に居ても居なくても同じような会社の一部の人間。
お洒落好きな女性から「なんであんな姿で会社に来れるんでしょー?ほんとに不思議。私だったら無理」と私に聞こえる声で言われたりする。
御手洗へ向かおうと立てば、ビクリと肩を震わせてこちらを見つめる。
多少なり、罪悪感があるのなら言わなければいいのに。
そんな気持ちを押し殺しながら『はぁ……』とクソデカため息だけ彼女に聞こえるように出して御手洗へとむかった。
私に対して文句を言う加害者はきっと【言い返さないということは、そこまで嫌ではない】という認識なのだろうな。とこの25年人生を送ってきて分かったことだ。
”ああいった人間”は、自分がむしろ被害者だと思い込んで「貴方がいるからこの場が乱れる。私が正しい。貴方は間違っている」といったスタンスでこちらに被害を被る。
言い返すのが面倒だとこちらが何も言い返さないのも、【被害を受けています】と周りに言わなく認知してもらわない私にもまぁ問題があるわけだ。
『でもなぁ、こんなこと報告した所で……』
上司は頼りにならない。何を言っても【面倒事はもう大人なんだから自分で解決しなさい】といったスタンスでやってくる。
結局どうにかするのなら自分が変わるしかないのが現状だ。
手を洗い終え、仕事場に戻ろうとすれば
「地味子さーん、貴方容姿に気を使ってない分仕事ぐらい人の倍やんなきゃいけないでしょー?
ということで、これやっといて?」
と、持ち込まれたのは。明らかに彼女が請け負っていた案件で。
今まで嫌味を言ってきたことはあったが自分の仕事を押し付けることの無かった彼女が。遂にここまでやってしまった。ことに正直驚いた。
『・・・あの、お断りします』
少し大きめの声で断りを入れると凄く驚いた表情をしたまま「えっ……」それだけ言って一瞬フリーズをする。
だが、その後すぐに
「はぁ!?私に口答えするの!?てか、断りとか受け付けてないんだけど。」
さらに怒ったようにそう言った。
あぁこれだから人間は面倒なんだ。
そんな気持ちを押し殺し
『では、貴方の仕事を私が請け負うことも受け付けておりません。
大体私が化粧もしない、容姿を気にしないのと仕事はあまり相関関係はないと思われます。
私は確かに地味で、背は曲がっていて、綺麗だと思った事もありません。
この姿がラクで、貴方のように”女性磨き”ということに力を注いでいないのは事実です。
……が、私はその代わりに仕事をいち早く覚えること。自分の時間を大切にすること。
会社は会社、プライベートはプライベートと分け私なりの生活をしています。
勝手に哀れんだりするのは構いませんし、陰で何を言われようと実害が無いので特にどーとも思いませんでしたが。
こうやって私の代わりにアンタやっといて。と仕事を放棄、丸投げする方。そんな方とは一緒に仕事をしたくありませんし
正直ほんっっっっとうに不愉快極まりないです。
自分の案件は自分で処理して下さい。貴方はそれでも社会人ですか?』
ほとんど一息で自分の意見をぶつけた。
周りの人を見ると圧倒されたようにこちらを見てくる。
パチパチパチと少し拍手音も聞こえるほどで、周りがどんどんと拍手音が大きくなっていく。
「よく言った!!」そんな声も聴こえてくる。
私に言われた彼女は驚いた表情のまま硬直しているようで。
次に口が動いたと思えば
「……な、っなっ、なによっ!!!!!」
そう言いながら泣き始める
『そうやって泣けば許されると思っているんですか。
私が先程言ったことに何か間違ったことがあるでしょうか。
あの……泣いていては解りません。間違ったことはありますか?
無いのであれば帰っていいですか?
正直、この時間が”無駄”なので』
それだけ言った後『お疲れ様です』と一言挨拶をして会社を出た。
明日クビにでもなるだろうか。なんて思いながら帰り道を歩いていく。
私は容姿が醜く、心も廃れている。
だがらか、そんな自分は人から好かれない。
けれど、そんな自分自身は特に大嫌いという訳では無い。