もう一人の究極生命体は何処へ? シャドウ・ザ・ヘッジホッグの影に潜み続ける謎について
・なにこれ
2024年、セガは"Fearless:Year of Shadow"というシャドウに焦点を当てたキャンペーンを展開した。1年を通し、新作ゲーム"ソニック × シャドウ ジェネレーションズ"と、映画"ソニック × シャドウ TOKYO MISSION (原題:Sonic The Hedgehog 3)"がリリースされた。
これらは大好評を呼び、結果ソニックアドベンチャー2での初登場以来最もシャドウが注目される結果となり、キャンペーンは大成功したと言えるだろう。
シャドウが注目される中で、当然の流れとして彼の持つ壮大なバックグラウンドについても改めて焦点が当たることとなり、事実"シャドウジェネレーションズ"は今までのシャドウを巡る物語の総整理という一面を持っていた。
・・・が、しかしこのシャドウフィーバーにおいても解答が出るどころか議論の対象にすらならなかった、ソニックアドベンチャー2から燻り続けるシャドウ最大の謎がまだ残っていると私は主張したい。
その最大の問題こそ・・・
「シャドウ・ザ・ヘッジホッグは二人存在する」
である。以下で順を追って説明する。
・ソニックアドベンチャー2でのシャドウ
究極生命体シャドウ・ザ・ヘッジホッグは"ソニックアドベンチャー2"(2001年)にてその華々しい初登場を飾った。本作ではシャドウの出生そのものがストーリーの重要要素として展開され、これこそが謎のルーツでもある。
ソニックアドベンチャー2時点で明らかになったシャドウの生い立ちについて、今回の趣旨に沿う点を纏めると以下のようになる。
50年前、天才科学者ジェラルド・ロボトニック(Drエッグマンの祖父)は連邦政府大統領やGUN(連邦軍)から不老不死の研究を依頼される。当初は断るつもりだったが、難病の孫娘マリアを治療する方法を模索すべく、最終的に受諾する。
ジェラルドは宇宙空間にスペースコロニーアークを建設し、マリアや研究員とともに移住し研究を開始、”プロジェクト・シャドウ”が始動する。
紆余曲折ありながら、研究成果として究極生命体シャドウ・ザ・ヘッジホッグが完成する。彼もアークで生活するようになり、マリアとは親友・家族とも言えるような親密な仲となる。
ある日、アークで大きな事故が発生する。過去にもアークで大きな事故があったこと、プロジェクト・シャドウへの関与が世に知れるのを恐れたこと、シャドウの存在を危険視したことなどが重なり、GUNはアークを武力を持って制圧することを決断する。
GUNは"ARK封滅作戦"を開始する。この際マリアは、脱出カプセルによってシャドウを地球に逃がす。騒動の中で最終的にマリアは死亡、ジェラルドは拘束され、地球のGUNの基地で研究を継続させられることとなる。
50年が経過し、ジェラルドの手記を発見したDr.エッグマンがGUNの基地に封印されていたシャドウを見つける。シャドウの覚醒に伴いソニックアドベンチャー2のストーリーが動き出す。
概ねこんなところである。
ここで、話を進める上で3,4,5で登場する、アークで生まれ地球に脱出したシャドウを"シャドウA"、6で登場するエッグマンが軍の基地で見つけたシャドウを"シャドウB"と呼ぶ。
A,Bと分けた時点で大方言いたいことは分かってもらえると思うが、「シャドウAとシャドウBは別個体であり、アドベンチャー2以降我々が目にしている"シャドウ"はシャドウBである」というのが本記事の趣旨である。
これに対し、「いやいや地球に放出された脱出カプセルをGUNが拾っただけで普通に同一人物だろ」という反論があるかもしれない。ここで本主張を裏付ける重要なエビデンスが2つあるので、それを示す。
エビデンス①:50年前の真実(プロジェクト・シャドウ調査報告書)
ソニアド2には攻略本が存在し、そこにはストーリーの補完として"プロジェクト・シャドウの調査報告書"が掲載されている。以下にその一部を抜粋する。
この通り、シャドウAとシャドウBが別人であることが強く示唆されている。
しかしこれだけでは結論付けるには及ばないので、もう1つのエビデンスを示す。
エビデンス②:ジェラルドの手記
ソニアド2およびシャドウジェネレーションズで明かされたジェラルド・ロボトニックの手記に以下の一節がある。
これは時系列的で言うと、GUNによるARK封滅作戦以降に書かれたもので、シャドウAは地球に脱出し、ジェラルドがGUNに囚われたより後に書かれたものとなる。
この文章に出てくる、マリアとの記憶を改竄され人類への復讐心を増幅させられた"しゃどう"こそソニアド2本編に登場するシャドウ、つまりシャドウBであり、この文章は「シャドウAとシャドウBが別に存在していること」「シャドウAを元にシャドウBを作ったこと」を表している様に見える。
以上の2つのエビデンスから分かる通り、"二人のシャドウ"は決して飛躍した考察などではなく、かなりの確からしさを持つ主張なのである。
・・・少なくともソニックアドベンチャー2の時点までは
・ソニックアドベンチャー2より後のシャドウ
「シャドウはソニアド2で退場させる予定だったが予想より人気が出たので、続投させることにした」という有名な語り草の通り、結局"ソニックヒーローズ"(2003年)、"シャドウ・ザ・ヘッジホッグ"(2005年)とシャドウがメインを張る作品が2作出た。
ここでも様々なシャドウを巡る物語が展開され、プロジェクト・シャドウに対しても補完がなされたが、結局二人のシャドウについて触れられることは一切なかった。
また"シャドウ・ザ・ヘッジホッグ"では50年前のシャドウAを知るものが二人登場し(実はソニアド2にはいなかった)、この二人とも現在のシャドウBと50年前のシャドウAを同一視している(単に見た目、能力が同じだから同一個体だと認識した可能性もあるが)。
また"シャドウジェネレーションズ"でも、シャドウBはマリア、ジェラルドからシャドウAだと認識されている。
そして"シャドウ・ザ・ヘッジホッグ"の最後ではシャドウBは過去との決別を果たし、プロジェクト・シャドウを巡る物語は謎を抱えたまま幕を閉じた。
その後のソニックタイトルにもシャドウは時折出場するが、この謎はおろか50年前の出来事が語られる場面は完全に消滅してしまった。
・・・早い話、"二人のシャドウ問題"は恐らく無かったことになったのだろう。よくよく考えるとこの設定が仕込まれたのはソニックアドベンチャー2開発中であり、この時はヒーローズやシャドゲの構想どころか、シャドウがここまで人気となる事実も未来の話である。
ユーザーの反響を見て今後の展開を変更するという行い自体はゲーム開発に限らず茶飯事なのだろうし、若干のモヤモヤは残るが仕方のないことだと折り合いを付けるとしよう・・・
と思っていた。
なんと去年発売のシャドウジェネレーションズで、ジェラルドの手記の全貌が明らかになり、プロジェクト・シャドウが再度補完される事態となった。
そして、あったのだ。
まだ、生きていた。
正直これだけでは、ソニックチームが二人のシャドウに再び向き合うつもりがあるのかは分からないが、それでもこの一文が再提示されたことには大きな意味があると私は思う。
シャドウのプレゼンスが高まる今、20年の時を超えてソニックアドベンチャー2が完結する日がやってくるのかもしれない
最後に、このシャドウAについてファンの間で僅かながら囁かれている説があるので、これを肯定と否定の両方を持って解説したいと思う。
・シャドウA=ソニック説について
題名の通り、我らがヒーローソニック・ザ・ヘッジホッグこそがアークで生まれ育ったシャドウAであるという説である。
眉唾物だと思う方もいるだろう、しかし一定の指示を得ているだけあり、根拠もあるためここに共有する。
① ソニアド2を通して強調される。ソニックとシャドウの類似性
ソニアド2を遊ぶと分かるが、「ソニックとシャドウの姿が似ている」ということが至るところで強調される。
ここでいう類似性については、見た目だけではなく能力についても同様であり、特筆すべきはカオスエメラルドへの適正だろう。
事実、ソニアド2においてソニックはカオスコントロールを使うことができ、最終決戦ではともにスーパー化を果たした。
ジェラルドはプロジェクト・シャドウの一環で、カオスエメラルドの研究も行っており(その成果物がソニアド2に登場するカオスドライブと人工カオス)、そのため「シャドウと同じくカオスエメラルドを利用できるソニックが、プロジェクト・シャドウに関与している」と考えるのはもっともらしく聞こえる。
② ソニックと究極生命体を結びつける描写が存在する
具体的には、ソニックとシャドウがスーパー化し、地球目掛けて落下するスペースコロニーに立ち向かう際、シャドウがこんなセリフを発する。
そしてもう一つ、ソニアド2のエンドロール直前のこのシーンにも存在している。このシーンでソニックの呟きをよく聞くと
「作られた・・・究極生命体か・・・」と発言しており、ソニックに思うところがあることが描写されている。
これ自体が説の信憑性を向上させるか?と問われると、細やかなものであることには違いないとは思うが、かと言って無意味にこの描写を入れたとも考えられない(これはソニアド2のプロットの精密さに対する信頼から来ている)。
以上が、"ソニック=シャドウA説"の根拠である。
そして以下では反論を提示しようと思う。
① シャドウAとの面識を持つ者たちが、ソニックを見ても反応を示さない
先ほど"シャドウ・ザ・ヘッジホッグ"では、シャドウAを知る者たちが二人登場する話をしたが、実は同作で彼らはソニックとも顔を合わせている。
が、ここで彼らがソニックに対して何らかの反応を示すことはない。
これだけで"ソニック=シャドウA説"はかなり弱まると言っていいほど致命的な反論となる。
② カオスエメラルドへの適正を持つ者が他にもいる
説の肯定的な根拠として、「ソニックがシャドウと同じくカオスコントロールやスーパー化できること」を挙げたが、今現在では他にも可能なキャラクターが存在している。
こうなると、もはやカオスエメラルドへの適正を持つことが究極生命体であることをもっともらしくするとは言えなくなってきた。
③ ソニックが15歳であること
急にふざけているのかと思われるかもしれないが、明確な矛盾であるのは間違いない。
ここで重要なのは、ソニックの過去に対する描写がほとんどないことである。例えば「実は自分の出自が分からず、15歳というのは年齢ではなく活動期間」などの描写でもあれば、脱出したシャドウAとの関連性を見出すことが可能だが、そんなものは一切なく、今後出てくる雰囲気もない。
そしてここをクリアできない以上、説が成立することはありえない。
と、否定材料の方が多く、現状これらを乗り越えることは苦しいと認めざるを得ない。
また、反論として提示したものの大部分はソニックアドベンチャー2以降の作品がソースとなるものであり、いわば後付け設定である。
というわけで、ソニックアドベンチャー2時点では多少の妥当性を持つが、現時点ではソニック=シャドウA説についてはほぼ否定されていると言える。
今後シャドウAについての議論が復活したとき、この節も同時に新たな展開を迎えることはあり得るかもしれない。
(実はカオスコントロールがブラックドゥームの特有の能力であり、「シャドウはブラックドゥームの因子を持つために使用できる」ということが明示されたことで、「では何故ソニックは使えるのか?」という、説を後押ししうる疑問も出てきたが、これはシルバーにも同じことが言えるので手放しに根拠だとは喜べないという判断が難しい要素もある)
・結言
以上、"二人のシャドウ"について、ソニアド2当時と現在を行き来して長々と解説した。
本来であれば、シリーズの進行の中で忘れられ、20年前の設定として色褪せていくはずだった”シャドウの影”が、シャドウフィーバーの中で僅かながらもその姿を再び表そうとしている。
シャドウが史上最も注目される今こそ、改めて注目することで今後のシャドウを巡る展開を予想するいい機会となるかもしれない。
セガさんへ
ソニックヒーローズとシャドウ・ザ・ヘッジホッグのHDリマスターを出してください