【インタビュー】「なんかかわいいイラスト」で終わらせない。marinaさんが描く、遊び心を忍ばせた世界観
一見すると、ふつうのトラ。でも、その背中の縞模様をよく見れば、「寅」という字が浮かび上がっていることに気づく——。
少しふしぎで、優しい雰囲気の世界観を描くmarinaさん。そのイラストには、じっと見つめたくなるような、そして思わず笑顔になるような工夫が凝らされています。
一度はイラストやデザインを仕事にすることは諦めたものの、現在はWebデザインを学びながら徐々に自信を取り戻し、新たな道を模索中。
そんなmarinaさんが、遊び心を持ったイラストを描くようになったきっかけとは、一体なんだったのでしょうか。作品に込める想いに迫ります。
デザインに遊び心を忍ばせて
——marinaさんがイラストを描くようになったのは、なにがきっかけだったのでしょうか。
「魔女っ子マージシリーズ」という児童書があるのですが、小学生のころにこの本を読んでファンタジーが好きになり、よく魔法の世界を描くようになりました。
その後、遊んだゲームや漫画・小説の、印象に残ったシーンやキャラクターを描き留めたい一心で、ファンアートに打ち込んでいました。
——ご自身の考えたキャラクターを描こうと思ったのはいつごろですか?
これは意外と遅くて、大学生くらいでした。オリジナルのキャラクターで物語を作られている方だとか、自費で本を出版されている方の作品をネットなどでよく見るようになったからです。
自分で考えたキャラクターで物語を作るのって、すごくすてきだなと思ったんです。
——marinaさんは、記念館のキャラクター制作もしたことがあると伺いました。
2020年に、恩師からの依頼で、「焼津小泉八雲記念館」(静岡県焼津市)のYouTubeに登場する公認キャラクターのデザインをさせていただきました。
依頼をいただいたときに、焼津市の子どもたちの教育にも使えるような動画、というコンセプトに興味をひかれ、「ぜひ!」と二つ返事でお受けしました。
——かわいいキャラクターですよね!
小泉八雲が書いた小説の中に、「乙吉のだるま」というお話があるんです。
左側に立っている「だるまっくん」がだるま型をしているのは、その小説が由来になっていて、動画の中にもあるように、着物のすそに「乙吉」という文字を入れました。
そして、右側に立っている「やくもっくん(やくも先生)」のほうは、スーツに雲の模様が入っていて、その雲の形の中に「八」と「8」の字が入っているんですよ、「八雲」にちなんで。
——えっ?! どこですか……?
「八」は、左上の雲の中、2つのボタンの間の少し左あたりにあります。
「8」は、右下の雲の中……、ジャケットとズボンの境目あたりに入っています。
——あっ、本当だ、ありました! 芸が細かい……!
こういう遊び心を忍ばせることで、ただのスーツのおじさんじゃないんだよ〜と、気づいてくださった方の印象に残るような工夫をしています。
言葉遊びのように、別々の要素をつなぎ合わせて作品を作る
——年賀状も、毎年自分でデザインされているんですよね。これまで作ったなかで、イチオシの作品はありますか?
そうですね、2019年の亥年に描いたイラストでしょうか。
——わぁ、かわいい! 和風のような、洋風のような。イノシシに乗っている、このキャラクターは……?
これは、一寸法師なんです。
イノシシ鍋のことを、「ぼたん鍋」と言いますよね。そこに着想を得て、ボタンサイズの小さな世界観を描いてみようと考えました。
昔話の一寸法師は、刀がわりに針を持って、武士になるために京へ行きます。なので、甲冑を身につけさせて、手芸に関するモチーフをたくさん入れてみました。
——あっ、この手に持っているのは、もしや……!
そうなんです、一寸法師が軍配がわりに持っているのは、糸通しです。腰にメジャーも巻いています。
イノシシも、目はボタン、手綱はボビン、鞍は指ぬきで、足を置く鎧のところは安全ピン、尻尾はタッセルになっているんですよ。イノシシが乗っている針山にも、針や、まち針を刺しています。
——このお花は、牡丹ですか?
そうです。ぼたん鍋にちなんで、針山と背景のところに入れてみました。この背景も、刺繍で布を固定するのに使う刺繍枠なんですよ。
あとは、一寸法師の肩のところに、さりげなく「2019亥」と年号も入っています。
——本当だ……! 見れば見るほど発見がありますね。じっと見て、忍ばされたアイテムに気づいたときの驚きが楽しいです。
言葉遊びのように、いろいろなアイディアと他の要素をつなぎ合わせていくのがすごく好きで。見てもらうときにも、「気づいてくれるかな?」という楽しみがありますしね。
——イラストに遊び心のようなものを入れ込もうと思ったのにも、なにかきっかけがあったのでしょうか?
これは、絵本ですね。図書館でお仕事をしていた時期があって、絵本に触れる機会が多かったんです。絵本はお話の本筋だけではなくて、一冊の本の中にいろいろ楽しい工夫がされているものが多いんですよ。
——楽しい工夫と言いますと?
たとえば、「いないいないばあ」(松谷みよ子 著)という絵本。ページをめくると、ネコやクマや ねずみなどが「いないいないばあ」をする、というものなんですが、登場人物として出てくるねずみが、実は最初のページのタイトルの下や、最後のページにもいるんですよ。
そんな裏の仕掛けに気づいたときの驚きはとても印象に残りますし、かんたんには忘れられませんよね。そういったワクワク感やドキドキ感が、私がイラストを描く際の「遊び心」につながっていると思います。
「悔しい」と思うのは、諦めていないから。あらためてデザインを学ぶわけ
——現在は、SHElikes(オンラインキャリアスクール)でデザインコースを受講されていると伺いました。なぜ、あえてまた学ぼうと思われたのでしょうか。
小さいころから好きだったイラストやデザインでしたが、この道で食べていく自信がなかったんです。なので、そういったクリエイティブな仕事をするのは諦めていたつもりでした。
でも、周りの友人たちがデザイン関係の仕事で充実していたり、趣味でイラストを描いていたらお仕事が来ました、というような話を聞いたら、「悔しい」と感じる自分に気づいて。
そう思うのは、つまり諦めていなかったからじゃないかと。
そんなとき、SHElikesの広告を見て、私も変わるきっかけを掴みたい、もっと自信をつけたいと思い、入会を決めました。
——SHElikesのデザインコンペでSNS掲載用のバナーを作成して、採用されたとか。
そうなんです、2回応募して、2件とも採用いただきました。
——採用されたバナーは、SHElikesの公式アカウントに掲載されるんですよね! こだわった点などはありますか?
1件目は、制作ルールや著作権をとにかく守ることを意識して、素材をあれこれ探していました。Howto本も読みこんで、これがダメだったら退会する! くらいの気迫で挑みました(笑)。
▼1件目採用バナー
2件目は、フリー素材を探し回るよりも、自分で作る方が早いということに気づいて。自分でイラストを描き、色味などを調整して、既存の素材に頼らない点を意識しましたね。
▼2件目採用バナー
——どちらのバナーも優しい雰囲気で、marinaさんならではの工夫を感じます。
ありがとうございます。
SHElikesに入会した当初は、自信が地の底だったんです。どうせなにをやったってムダだ、という考えが強くて。
でも、お仕事練習案件でバナーを採用していただけて、自信がつきましたし、気持ちも前向きになりました。
スキルをいまの仕事に活かし、ゆくゆくはクリエイティブ系の仕事を副業・本業にするイメージもできたので、今後に活かしていきたいと思います。
目指すのは、見る人の「心の余裕」につながる作品づくり
——イラストに遊び心を加えるようになったのは、絵本がきっかけとのことでした。それに、記念館のキャラクターデザインのお話でも、「子ども向けの動画というコンセプトに興味を持った」と仰いましたよね。marinaさんの原点は、絵本などの子ども向けのコンテンツなんですね。
そうですね。小さいころ、自分の感情が無視されている、認めてもらえない、という気持ちになることがよくありました。
そんなとき、寂しい気持ちに付き合ってくれたのが児童書や絵本だったんです。それらに没頭している間は、悲しさを忘れることができました。その経験から、自分の作品が誰かの救いになればいいな、そうありたいな、という気持ちが強いんです。
——かつて救われた経験をもとに、いまアウトプットされているのがすてきですね。
描いて誰かに見せたら終わりではなくて、ほんの少しでも、私のイラストを見てくださった方の心の豊かさや支えになれたらと思うんですよね。
だからこそ、イラストの中にいろいろな要素を入れておくことで、「なんかかわいい絵だな」で終わらせず、自分でその要素を見つけたときの楽しさや、「もしかしたらほかにもなにか隠れているかも!」といったワクワク感を感じてもらえたらな、と。
——marinaさんの絵を中心に広がる繋がり、ぜひ実現させてほしいなと思います! 今後やってみたいお仕事などはありますか?
いまはデザインやイラストとは関係のないお仕事をしていますが、将来的には、児童書の挿絵など、子どものための何らかのサービスに関わってみたいという夢があります。
パッと目に入ってくることだけが全てではないということに気づいて、もっと想像力を持って世界と向き合うきっかけにしてもらいたい。
これにはどういう意味があるんだろう? って、一歩立ち止まってもらいたい。
そんな心の余裕や豊かさを生む、きっかけづくりのお手伝いができたらと思っています。
*編集後記*
「かつての自分のように、寂しい気持ちを抱えている子どもや、大人になってもそんな気持ちでいるような人の辛い心が、私のイラストで少しでも前向きになれば」
そう穏やかに語ってくれたmarinaさん。インタビューを通して感じた、誠実で謙虚な人柄は、作品から伝わる優しい雰囲気そのものでした。marinaさんの作品を、児童書や絵本などで見ることができる日も近いと確信しています!
「『なんかかわいい絵』で終わらせない」という言葉通り、そこに隠された「遊び心」に気づいたとき、思わずドキドキしてしまうような不思議な力強さも併せ持つ、marinaさんのイラスト。
その世界観にもっと触れたいという方は、ぜひぜひInstagramをチェックしてみてくださいね!
■ marinaさんのInstagramはこちら!