第11話 初めての野宿は暴走族に… 【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】
とにかく不安でいっぱいだった。
(はじめて野宿をする。どんな場所がいいのか。旅の猛者たちはそんなこと考えずに、さっと寝場所を決めるのだろう。
札幌駅前で野宿する人も多いと聞く。でもそんなところって人が多いし、深夜になるまで人手はなくならないでしょ?
今、まだ20時くらいだし、今から寝たとしたらたくさんの人がぼくの横を通ることになる。
そんな場所で寝るなんて耐えられない。
だからといって深夜まで待ったとしたらそれだけ寝る時間が短くなる。明るくなったら目が覚めてしまうし、人手が出始めたら落ち着かなくて寝てられるはずがない。)
ぼくは札幌の街をさまよった。
人の目を気にせず熟睡できる場所を探して。
(あー、どうしよどうしよ。なんておれは情けないんんだ。ずぶとい精神がほしい!
100点満点は、「繁華街で歌いまくって、ころっと駅前で寝て、明るくなっても寝続けられる」なんだけど、その全てができるはずないと思ってひたすら歩き回る。)
そして見つけたのがオートバックスの駐車場。
やけにだだっぴろい。モールの駐車場なんじゃないかというくらい。
もう閉店していてほぼ正方形の駐車場の入り口には虎柄ロープがぶら下がっている。
(この広さなら外からはおれが寝ていてもほとんど見えないし、だれもコンタクトをとりにくるなんてことはないだろう。)
駐車場のまわりをぐるっと囲んでいる歩道から少し離れたところに荷物を置き、寝袋をしいた。
そこは何か事務所のような建物の陰になっていて、しかもその建物にはなんと外壁の際に水道がついていた。
(これなら歯も磨ける。)
その場所にしたそれが決定打だった。
ぼくはその水道で歯を磨き、(誰も来ませんように。何も起きませんように。)と祈りながら眠りに入った。
寝袋というのはとても便利だけど、人に襲われたらなす術もない。手も足も出ないとはまさにこの状態のことだ。
そんなことを思いながらぼくは縮こまって、どうせなら早く眠りたいとも思った。
だだっぴろい駐車場の面積に比べたら、小さすぎるおれと荷物と寝袋。寝袋は夜の闇の中に地面に横たわる青い明太子のようだ。
空からみたらさみしく見えるだろう。歩道からはおれの姿は見えるのかな。
どうしてもいろいろと考えてしまう。
しかし、ほどなくしてやかましい音が聞こえてきた。
バインバイン!ブインバイン!ブルブルブルブル!・・・
(ん?なんかすごい音がする。バイクの音だけど、暴走族だな。近くにいるみたいだけど・・・。)
首を少し上げて音のする方を見てみた。なんとバイクの連中がこの駐車場に入ってくるじゃんか!!
(やばい!どうしよう!ばれたらやられる!よりによってなんでここに来るんだよ!)
10数台のバイクは駐車場に入ると円を作って回り始めた。
ぼくはなんとしても見つからないように完全に気配を消す作戦に出た。でも、ぼくの心のセンサーは最大レベルの感度になっていた。
およそ30分くらい、暴走族は駐車場で遊んでいた。気が気ではない時間が過ぎ、ぼくは命拾いをした。
(ここで寝るのも安全とは言えないじゃん。明け方早くに出よう。)
駐車場のど真ん中で寝る案もあったけど、水道を見つけたおかけでこの場所にしてよかった。もう何も起きないでと、再び祈りながらぼくはようやく眠りに落ちた。
初野宿は一生忘れられない夜となった。