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第108話 留まるな。答えは行った先にある。【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

道の駅は大和高田の西にある當麻町にあった。

朝早く目が覚めると早朝散歩のおばおじが話しかけてきておしゃべり。

さて、次はどこを目指すか。

日本海側は南下して沖縄まで行ったので、北上は太平洋側にしないとすべての県を回れない。

前日和歌山の海岸に出たが、いったん内陸に入って奈良の地を踏んだのでまた太平洋側へ出る。

そして太平洋側へ出たら三重県へと北上していく。その途中でせっかくだから熊野大社に寄って行きたい。

熊野大社に行きたいのは、夢有民牧場の元スタッフ、愛媛のみっちゃんからもらったヤタガラスの御守りを預かっていたからだ

ヤタガラスは熊野大社の御守りで、それを納めに行こうと思っていたのだ。

當麻の道の駅周辺からは南へ向かう車をつかまえにくそうなので、まずは歩くことにした。

早朝から歩きまくって新庄まで1、2時間ほど。

そこでヒッチハイクをした。

143台目。新庄から五条へ。

144台目。五条から吉野へ。

トラックの運転を35年くらいしている、滋賀県出身の方だった。

「桜で有名な吉野山があるよ。」

145台目。吉野から大台ケ原を通り、熊野のはずれまで。

荒川区の首切り場があるところに5年住んでいたというおじさん。

(首切り場?そんなところがあるの?)

後で調べると小塚原刑場というのがあるという。

また、東京では住友セメントに勤めていたそうだ。

おじさんはいろいろ教えてくれた。

・京都人と奈良人は白状である。
・吉野川(紀ノ川)はセメントの産地で鮎釣りが有名。
・吉野川の水の権利は、水源は奈良県でも和歌山県が持っている。それは紀州が徳川御三家であることの名残だとか。
・十津川の住民は古くは南朝の時代から朝廷に仕え、十津川郷士族と言われ、特殊である。明治に土砂崩れが起きて北海道に移住した人々がおり、そこは新十津川村となっている。
 
トラックのおじさんは、仕事先でぼくをおろすと思いきや、仕事先のセメント会社のトラックの方に声をかけ始めた。
 
するとその方がぼくを乗せてくれることになった。
 
ヒッチハイクで乗せてくれた方が、次に乗せてくれる方を見つけてくれる。
 
これも初めてのパターンだ。なんてありがたい。
 
146台目。新宮まで。
 
こんどは運転歴30年の運ちゃんだった。
 
新宮で降ろしてもらった後、ぼくはコンビニに寄った。
 
そしてそのコンビニのスタッフのねーちゃんから情報を得ようとしゃべっているうち、そのねーちゃんの友達が車に乗せてくれることになった。
 
これまた意外な展開だ。
 
147台目。新宮から本宮まで。
 
本宮はTVドラマ「ほんまもん」のロケ地らしい。
 
そして熊野本宮大社がある。
 
ぼくは神社にお参りしに行き、ヤタガラスを納め、そして新しいヤタガラスの御守りを買った。

ちなみにヤタガラスはサッカー日本代表のシンボルにもなっている。その日本代表はというと、その日ワールドカップで負けてしまった。
 
負ける時は負けるのだ。よくがんばった。また次へ努力していってほしい。
 
さて、大社では大阪出身のかわった雰囲気を発するじじいが声をかけてきた。
 
「退職してやることないんや。車で寝ながら湯の峯温泉に4,5泊してる。次は白浜へ行こかと思うてる。」
 
という。
 
白浜とはぼくが行ったところだろう。やはり有名なスポットなようだ。
 
そしてじじは車に乗せてくれた。
 
(なんだか今日は変則的な展開ばかりだなあ。)
 
148台目。本宮大社から本宮の道の駅「奥熊野古道ほんぐう」まで。
 
「明朝、湯の峯温泉で会おうか~。」
 
そう言って降ろしてくれた。
 
「奥熊野古道ほんぐう」はまわりを山や川に囲まれていて、屋根もあり、とても過ごしやすい感じだ。

道の駅ほんぐうからの景色

夜、歯を磨いているとカブに乗ってやってきた男性が話しかけてきた。
 
「旅しているんですか?」
 
「はい。東京からヒッチハイクで回っています。そちらはどこから旅しているんですか?」
 
「埼玉からです。わたしが使っているのは郵便局の人と同じカブなんです。燃費がいいんですよ。」
 
「いいですね!こうした道の駅に泊まることって多いんですか?」
 
「多いですよ。道の駅、めっちゃありがたいです。そちらはよく道の駅を使うんですか?」
 
「ぼくはヒッチハイクなので自分で好きな目的地にフットワークよく行くことが難しいので、道の駅はめったにないんですよ。道の駅にたどり着けたときは、めっちゃうれしいですね。トイレが24時間空いているのがいいですし、ここは屋根の下で寝られるのが最高ですね。」
 
「ほんと、そうですよね。いやあ、ヒッチハイクは大変だなあ。」
 
カブの男性は緒方さんと言い、ネットの仕事をしながら自由に休みを作ってカブで旅をしているという。
 
翌朝、ぼくはこの近くに湯の峯温泉があって、そこに行くという話を緒方さんにすると、そこでまた会おうという約束になり、出発した。
 
その日ははかなりの雨だった。紀伊半島は降水量が多くて有名な地域だ。
 
(今日は腹を決めよう。)
 
その雨は厳しい1日になることを感じさせた。しかし、ここ数日の流れは幸運に恵まれてよかったので、ぼくの心のエネルギーはかなり充実しており、乗り切れそうな気がしていた。
 
ぼくは温泉まで二時間半を歩いた。温泉にたどり着けるのだから濡れたっていいという気持ちだった。
 
湯の峯温泉、二百円。
 
びしょ濡れの体を二日ぶりに流す。
 
あがったところで緒方さんが温泉で卵をゆでていた。
 
あいかわらず雨だが卵を頂いてバスで本宮に戻る。
 
ヒッチ開始。
 
149台目。本宮から新宮まで。
 
おばあおじいの車に乗せていただいた。
 
新宮では苦し紛れに速玉大社にお参りした。
 
雨とはいえ、大きな神社には行っておきたい。もうここには二度と来ないかもしれないのだ。
 
でもなぜぼくは神社に寄りたがるのだろうか。
 
古い大きな神社があるところは、それができた2000年程前とかに何かがそこであったのだと思う。
 
きっと何か大きな根拠があるに違いない。
 
それに、やはり力を感じるのだ。
 
お寺よりも神社に惹かれるのは、お寺がどちらかというと人為的なものを感じるのに対して、より自然界のパワーを感じるからか。人知を超えた神のパワーを感じるからか。
 
そしてその力を感じるだけでなく、その力をもらえる気がする。
 
熊野三山というだけあって大社は3つあるのだが、さすがに雨であることと、また西へもどることになるので那智大社まではいく余裕がなかったが、三山のうちの2つ行けたことでよしとしよう。
 
150台目。新宮から熊野。
 
お花屋のおじさんだった。
 
「昔、バイクで九州とか回ったことあるよ。高校の卒業式のその日からスタートしてね。」
 
その発想がすごい。
 
そして熊野で降ろされた頃、もう時刻は15時ころになっていた。
 
そらは灰色の雨雲で蓋をされていた。
 
少し日が陰ってきているのか、雲は鉛色と言ってもよかった。
 
雨も相まって冷たい空気にぼくは包まれていた。
 
正直言うと心は折れそうになっていた。
 
うかうかしていると、この雨の状態のまま屋根もないところで野宿をすることになる。
 
海沿いの道でぼくは運よく東屋を見つけてひと休憩した。
 
もうへとへとだった。
 
東屋と言っても雨は内側まで吹き付けてくるくらいの屋根だし雨の強さだからここでは寝たくない。
 
でもここから移動したところで、その先にいい寝床があるかどうかの保証はない。
 
雨さえなければどこでもなんとかなるのだが、さすがにこの雨は厳しい。
 
雨はやむかもしれないし、やまないかもしれない。
 
先に進む危険を冒すよりも、この雨が入って来る東屋で寝るという選択肢もある。
 
車通りも少ない。この東屋だってなんとなく人の土地の中にあるような感じで出て行ってくれと言われたらどうしよう。
 
しかし、もし今ここからヒッチハイクしなければここで明日の朝までの15時間くらいを過ごすことになる。
 
おそらく雨と戦いながら。
 
だったら、先へ進んだ方がいいのではないか。
 
もしヒッチハイクが成功したら、乗せてくれた人によっては幸運が舞い降りてくるかもしれない。
 
少なくとも車に乗っている間は雨には濡れない。乗せてもらった運転手さんとお話すれば、いくつか選択肢が出てくる可能性は高い。
 
それに、ヒッチハイクが出来なければただここに留まるだけだ。
 
ここはやはり進むべきか。
 
(よし。進もう。)
 
踏み出すことで何かが起きる。
 
進んだ先に答えはある。
 
進んだ先で考えればよい。
 
つづきはまた来週。

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