第84話 「わっしょい」はヘブライ語で「神が来る」だとか【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】
佐賀まできた。でも長崎には行かない。
長崎はなぜスキップするのか。そもそもこの旅は全都道府県をヒッチハイクで回る旅だ。
でももはやこの時点で九州は全部回っているから、本来なら本州に戻ってさっさと全県制覇を目指せばいいのだ。
ただし、沖縄から戻ってきたぼくは、行きに出会った人にまた会いに行きたい。
そして会いに行きたい人が九州にはたくさんいる。
まあ、沖縄からの折り返しに近い場所だからということもある。
沖縄に行く前に出会い、沖縄から戻ってきたらまた出会うという構図。
でも、九州はやはりぼくには特別に映っている。
それはまずストリートのメッカ(ぼくの中では)中洲があること。そして熊本にはこの旅で最初にできたぼくの居場所、古未運があることがかなり大きい。
日本二周で初めて出会った、他の地にはない特別な恩がこの地にはある。
さて、ぼくは長崎には行かず反転して一度福岡に戻ることにした。
その後古未運に行くのである。
ヒッチハイク101台目。佐賀から鳥栖。
お子さんを佐賀に送ってきた帰りだというご夫婦。
「いつも通らない道を通ったら見つけたんだよね。」
そんな風におっしゃる方は多い。
102台目。鳥栖から福岡祇園まで。
トラックの女性。ちかこさん。
「ゴールしたら手紙ちょうだい。」
そう言ってぼくに住所を教えてくれた。
あえて自分からそうおっしゃる方は少ない。
なんだろう。なんだかぼくはとても胸があたたかくなり、そしてうれしかった。
(ぼくをおろした後、この方はいつぼくがゴールするかわからないのに、その間時々ぼくのことを思い出してくれるのかなあ。)
ぼくは福岡でまた数日を過ごした。
三日ほど野宿して、夜は中洲で歌い、熊本の古未運を目指した。
4月26日。
熊本方面に行く大きな道を探して歩いた。そしていまいちヒッチハイクに適したスポットがないまま、「いい場所ないかなあ」とスポットを探しているうち、ぼくは大野城まで来てしまった。
おそらく2時間ほど歩いただろう。
大野城でようやくヒッチハイク成功。
佐藤さんという33歳の男性フリーター。とはいっても整体師が自分の生業だという。
「今、ちょっと仕事から離れていてね。いろいろあってね。ある組織にいたんだけど大変だったよ。そうだ。大宰府寄ってく?行った?」
「いや、行ってないです。大宰府行ってみたいですね。」
かの有名な、歴史の教科書に出てくるあの大宰府。
佐藤さんは大宰府に向かう車の中でこんなことを言い出した。
「『気』って分かる?おれ出せるんだよ。ちょっとまって。」
そう言って運転しながら左手をぼくにかざした。
なんだか少し暖かく感じる。
「なんか感じた?これが気なんだよ。」
どうやら佐藤さんは気功を習得しようとしているらしかった。
そういう目に見えない力について、九州は進んでいる。
科学的ではない考えや文化が根強く残っているのである。
それはむしろ現代では「遅れている」と言うのかもしれない。
佐藤さんはそういう団体に入っていたようなのだ。
そういうきわどい話をしてくれるくらい、佐藤さんはぼくに親しみを持って接してくれていた。
それになんと佐藤さんの下の名前はぼくのおじと同じ名前だった。
あまりない名前だったからなんだか縁を感じる。
大宰府に着くと、だだっぴろい芝生にぼくらは腰をおろした。
「ここは気の流れがすごくいいんだよ。何か感じない?しろいつぶつぶが降ってきているような。気持ちいいよね。大宰府はちゃんと考えられてここにできたんだよ。昔の人は気の流れがいいところにこういうのをつくったんだよ。」
ぼくは楽しくて仕方なかった。
「気」というものについて、実際に出会った人が確信をもって語ってくれたり、体で感じさせようとしてくれたりするのは初めてのことだった。
そしてその気が風水とも関係があるようだし、ものすごい大事なことを聞いているような気がしていた。
さすが都市伝説の宝庫九州である。あやしくて仕方ない。
佐藤さんは25歳までバンドでギターをしていたという。
「抜けたらバンドが盛り上がりやがってさあ。そのバンド、東京に行ったんだよ。」
なるほど。音楽をしていたから、きっとぼくを乗せてくれたのだろう。
佐藤さんは再び車にぼくを乗せ、熊本を目指した。
そしては次から次へとあやしい話をし始めた。
「剣神社というのが四国にあってね。是非行ってほしいなあ。四国の真ん中へんにあるんだけど、四国は実は特別な場所なんだよ。剣神社には失われたアークがあると言われているんだよ。年に1回神輿を山頂に運ぶ祭りがあるんだけど、神輿って実はアークだとも言われているんだよ。ちなみに『ワッショイ』はヘブライ語で『神が来る』という意味なんだよ。」
「熊本に幣立神宮というのもあってね。五色の仮面が祀られているいるんだよ。そこが世界発祥の地だと言われていて、最初の人類には5色の人種がいたらしいよ。それでそのお面の年代を調べると、何万年も前のものだそうで、年に1回だけ公開されるんだって。」
「世界って変えられると思う?ロスチャイルド家って知ってるかな?実はおれの友人の友人の友人がロスチャイルドなのね。そうすると君から4人目がロスチャイルド家であり、ロスチャイルドは大統領とつながっているから、案外君の意見はやろうと思えばアメリカの大統領にまで届くんだよ。すごいでしょ。」
「それでそのロスチャイルド家が最近日本に移住してきたの知ってる?どこに移住してきたと思う?四国なんだよ。四国って実は世界でも特別な場所だと言われていて、それで来たらしいんだよね。今日本の負債が666兆円なんだけど、『666』ってフリーメーソンの数字なんだよ。フリーメーソンの本拠地は日本にあって、ロスチャイルドもフリーメーソンなんだけど、ロスチャイルドは日本を守るために資本を日本に落としているらしいよ。『666』というのはそのサインなんだって。日本の負債は本当はもっとあるんだけど、フリーメーソンが援助してるってこと。」
「最近表の世界と裏の世界の折り合いがつかなくなってきているらしく、フリーメーソンがどうにかするんだって。表の世界との融合が始まるみたいだよ。」
「9・11のアメリカでのテロは、本当はイギリスが対ユダヤ、対アメリカに向けてやったっていう話しもあるんだよ。」
もうぼくにはついていけなかった。
行きに古未運でお世話になっている時も、この手の話にたくさん遭遇した。
そして今も古未運に向かっている。それ自体がぼくには不思議に思えた。
ぼくはこの手の話はすごい好きだった。
だからぼくがこの手の話を引き寄せているのか、それとも九州がそういう地なのか。
それとも真実にぼくが近づいて行っているのか、はたまた悪魔のささやきに吸い込まれて行っているのか。
ぼくは特別なことを教えてもらったといううれしさと、これってやばいんじゃないかという不安のどちらも加速させていた。
そして古未運に再びたどり着いた。
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