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第109話 伊勢神宮の神様にお参りした後起きた神様のいたずらとは【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

思い腰を上げてぼくは雨の中道端に立った。
 
雨だけじゃない。風も強い
 
服はすでにびしょびしょだ。
 
こんな状態で車に乗せてくれる人はいるのだろうか。
 
―いた。
 
「乗って行く?」
 
「はい!入って大丈夫ですか?」
 
「いいよ。」
 
ヒッチハイク151台目。熊野から尾鷲。
 
普段は単車によく乗っているそうだ。
 
きっと旅が好きなのだろう。雨の中ツーリングすることもあるかもしれない。
 
だからこんなびしょびしょの旅人を乗せられたのかもしれない。
 
「どこでおろせばいいかな。」
 
「道の駅があればありがたいです。雨なので屋根があるところに行きたいんですよね。」
 
「道の駅かあ。ああ、あるね。」
 
「まじすか?すごい助かります!!」
 
ぼくは尾鷲市海山町の道の駅にたどり着いた。
 
ここで休める。寝られる。
 
体温が奪われ、パワーも奪われへとへとだ。
 
(でも、おれの心は奪われない!)
 
この道の駅はさほど大きくはなく、小ぶりなサービスエリアに似た風情。
 
売店の前には屋根があり、その前には長椅子がセットのテーブルが2,3脚ある。
 
これならゆったりと雨風がしのげる。
 
ぼくはそこに荷物を置いてまずは一息ついた。
 
そろそろお店も閉まる時間でオーナーと名乗るおっちゃんが話しかけてきた。
 
「兄ちゃん旅してるのか?これもってけ。」
 
とオーナーのおっちゃんがパンをくれた。
 
やはり進んでよかった。こんないいことが起きるなんて、きっとそういうことだろう?
 
「ここで休んでもいいですか?」
 
「いいよ。」
 
やった。公約を取り付けた。
 
ぼくはまず濡れたものを乾かすために広げた。大きなテーブルに地図を広げると明日の目標地を決めた。
 
(伊勢だ。伊勢神宮だ。明日の午前中にはたどり着ける。)
 
日記を書き、歯磨きをして寝る準備が終わったころ、あたりは暗くなり、星が輝き始めた。
 
ぼくは硬い木の長いすにミニショルダーを置き、いつものようにそれを枕にして、深い眠りに落ちた。
 
翌朝。
 
いろいろ乾ききっていないが今日は天気がよさそうだ。
 
(歩いているうちに乾いていくだろう。)
 
海山から42号線沿いを歩いて進んでいると、ガソリンスタンドでトラックの方が声をかけてくれて乗せてもらうことになった。
 
その時、スタンド働くお姉さんがその様子を見ていたらしく、
 
「乗せてもらってよかったですね。」
 
と缶コーヒーと缶紅茶を渡された。
 
なんていい人だ。しかもきれいな人だったのでもっとしゃべりたかった。
 
それはともかくぼくを乗せてくれたトラックは熊野の牛乳名古屋まで運ぶトラックだった。
 
トラックは20年運転しているというベテランの方だ。
 
ヒッチハイク152台目。尾鷲から勢和多気ICまで乗せてもらった。
 
このトラックには牛乳が10t積めるのだという。
 
「牛乳は1tでだいたい10万円。この牛乳は大内山で検査して、名古屋の明治乳業に運ぶんだよ。だから売られている牛乳はいろいろなところの牛乳が寄せ集まって売られているんだよ。」
 
要するにメーカーの牛乳とは言っても、明治牛乳という一つの牛乳があるのではなく、いろいろなところのいろいろな質の牛乳を混ぜて売っているのだ。
 
ほかにも三重県の日本一を教えてくれた。
 
三重県は雨の量が日本一なのだそうだ。
 
その雨にぼくは降られていたわけだ。
 
勢和多気ICで降ろしてもらい、そこから伊勢に通じる大きな道まで歩く。
 
少しでも効率よくヒッチハイクするために、止まらずに「歩きヒッチ」だ。
 
「歩きヒッチ」は背中に行き先を書いたスケッチブックをぶら下げながら歩くのだ。
 
道の左側を歩けば、進行方向が同じドライバーが目にして停まってくれることがある。
 
進みながらヒッチハイクだから一石二鳥と言える。
 
いや、立ち止まって車を停めるのはけっこうドキドキするから、その緊張感も抱かなくていい。
 
だから一石三鳥かもしれない。
 
そしてちゃんと歩きヒッチ成功。
 
153台目。多気から伊勢市まで。
 
わんちゃんを乗せた、中年の女性だった。
 
伊勢に着いた。古くからお伊勢参りは日本人の定番の巡礼地だ。
 
その伊勢にたどり着けた。
 
ぼくは駅前で降ろしてもらったのだが、ここから伊勢神宮にはどうやっていけばよいのだろう。
 
駅前の案内板を見てみると、なんと伊勢神宮には外宮(げくう)と内宮(ないくう)があり、しかも内宮はけっこう遠い。
 
歩いて1時間くらいあるかもしれない。
 
天照大御神はその内宮に祀られているというから、むしろ内宮には絶対にお参りしたい。
 
(まじかよ。)
 
しかし時刻はまだ午前中だったので、時間はたっぷりある。
 
どうせなら外宮も内宮もお参りしておきたい。
 
両方まわって伊勢駅前に戻ってきてもまだ暗くはならない。
 
幸い今日は雨は降らなそうだ。
 
伊勢駅周辺で寝床を探す感じになるだろうか。
 
(よし。行ってみよう。)
 
外宮は駅から近い。
 
外宮のお参りをとっとと済まして、内宮に向かう。

外宮

 内宮に向かうまでの道は参道になっている。
 
(なんだここは?)
 
その参道は「おはらい町通り」という。
 
ここはただの参道ではない。
 
江戸時代の街を歩いているようだ。
 
造りは江戸時代のものっぽいが、でも立て直してあるのだろう。木材は新しく見える。
 
きっと当時の新築の建物はこんな感じだったのだろう。
 
古い町並み。窮屈でもなく、こじんまりもしておらず、ごつくてゆったりと豪華な風情。

軒先で碁をさしている人もいる。
 
(いいな。ここ。いつかまたここに来たいなあ。)
 
途中左手に伊勢名物「赤福」の本店があった。
 
もちろん買うお金はない。
 
この赤福のある辺りは「おかげ横丁」というようだ。
 
長い道のりかと思ったが、思いがけない町並みに心は踊り、退屈せずに内宮までたどり着いた。

宇治橋というゆるやかなアーチのある橋を渡るといよいよ境内。
 
境内には川も流れていた。
 
途中開けた場所があり、川岸に出られるところがあった。
 
御手洗場というらしい。出雲大社や明治神宮ではこうしたものを見たことがない。

御手洗場

社は階段を登ったところにあり、何か神聖な存在がそこにあるように感じさせた。

ぼくは旅の安全など、様々なことをお祈りして内宮を去った。
 
伊勢神宮にしかない神楽のお面が売っていたのがとても好奇心をそそった。
 
まあ、赤福が買えないのだから、そんな高価なお面が買えるわけもないのだが。
 
少し後ろ髪をひかれながら、また1時間ほどかけて駅前に戻る。
 
でも、おはらい横丁はぼくの気持ちを飽きさせない。
 
おはらい横丁の街並みを目に焼き付かせながら、駅前に戻る。
 
(さて。寝る場所探さないとな。でも風呂にも入りたい。)
 
昨日は雨、そして今日は一転して天気がよく汗まみれ。
 
ぼくは駅の向こう側のエリアに目星をつけ、寝床を探しながら風呂屋も探した。
 
そして銭湯を見つけた。
 
(やったー!!)
 
「汐の湯」は小さな川沿いにあった。
 
脱衣所は案外混んでいた。
 
隅っこのロッカーが空いていて、運のいいことにその横に少しスペースがあった。
 
ぼくはそこにバックパックやギターなどの大きな荷物を置いて素っ裸になった。
 
(はあ~~。気持ちいい~。)
 
雨と汗と疲労とでへとへとだったから、銭湯の湯は格別の気持ちよさだった。
 
(とは言っても、この後寝床を探さないといけないんだよなあ。)
 
のんびりはしてられない。明るいうちに街に繰り出さなければいけない。
 
脱衣所に戻ってぼくは身支度を始めた。
 
「君、旅してるの?」
 
着替えが終わったころにおじちゃんが話しかけてきた。
 
「あ、はい。」
 
「どこか泊まるところあるの?」
 
「いや、これから探します。」
 
「うちの社宅が空いているから来るかい?」
 
「え?いいんですか?」
 
「いいよ。ちょうど社員が旅行に行っていて誰もいないんだよ。」
 
「そうなんですね。」
 
ぼくは何か手放しにその話に乗れないものを感じた。
 
―旅は人を信用しないと成立しない―
 
それがぼくが旅で心がけてきたことだった。
 
そして見かけで判断せず、一見怖い人だったり怪しい人であったりしても、『その人が「いい人」だと感じたら流れに任せてみる』ことにしていた。
 
今、その判断が迫られていた。
 
言葉遣いがどうも怪しいのだ。
 
でも、悪い人ではないと感じる。
 
何よりも今のぼくは疲れ切っているし、服とかも濡れたままのものがあって洗濯もしたかった。
 
洗濯は堺からできていなかった。
 
もしその社宅に泊まることが出来れば、ゆっくり寝られるだろうし、洗濯もできるだろうしかなりリセットできる。
 
それはものすごいメリットだった。
 
では反対にあるデメリットに遭遇するとしたら・・・。
 
(賭けてみるか。)
 
ぼくはおじちゃんに連れて行ってもらうことにし、おじちゃんの軽トラの助手席に乗った。
 
そしてこの後、まさかの展開が待ち受けていた。
 
つづきはまた来週

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