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第21話 自称やくざと3軒はしごをした夜【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

ぼくはおじちゃんのバンの2列目の席に座っていた。
「にいちゃん、どっからきたんだ?」
「東京からなんです。」
「何で旅しているんだ?自転車か?」
「いや、ヒッチハイクなんですよ。」
(このくだり、さっきもやったような。ていうか、自転車どこにもないでしょ。)
「そうか、ヒッチハイクか。すごいね。てっきり自転車かと思ったよ。学生なのにがんばるね。」
「いや、学生じゃないんです。もう卒業してしまったんです。」
「そうなのか。どこの大学なんだ?」
「W大学なんです。」
「それはすごいなあ。それで、どこからにいちゃん来たんだ?」
「えーと、東京です。」
「それで自転車で回ってるんだっけ?」
「いや、ヒッチハイクなんですよ。」
(おいおいおいおい。またかよ。3回目だぞ。でも、やくざだっていうし、変な気を起こしてしまったらこわい。穏便にすましていかないと。)

ぼくは車にゆられながらおじちゃんの質問に素直に答えていった。たとえ何度同じ質問をされても。

「にいちゃん、お腹へっただろ。おじちゃんの知ってる店に連れてってやるから。お好み焼き屋なんだけど、いいだろ?」
「いいんですか?ありがとうございます!」
(もう寝る時間と言ってもいい時間になってきてるんだけどなあ。)

そしてほどなくしてお好み焼き屋さんに着いた。
「おう!」
「いらっしゃい!」
「今日は一人若いの連れて来たぞ。」

ぼくは恥ずかしそうなそぶりでぺこりとし、中に案内された。

「この兄ちゃんはなあ、東京から来たんだぞ。自転車で旅してるんだっけ?」
「いや、ヒッチハイクなんです。」
「そうなんだよ。ヒッチハイクで旅してるんだよ。それで学生さんだっけ?」
「いや、卒業してしまってるんです。」
「そうだそうだ。どこの大学だっけ?」
「Wです。」
「どうだすごいだろ。東京から日本全国まわって旅してるんだって。」
とおじちゃんはぼくのことをお店にいる常連客らしき人たちやお店の人に紹介しはじめた。

「兄ちゃん酒飲むだろ?何がいい?」
「いいんですか?ビールでお願いします。」

お好み焼きは大阪風のお好み焼きだった。ぼくはありがたくいただき、お酒も飲み干すたびにおじちゃんが注文してくれた。ビールの後はレモンサワーとかを飲んだ。

おじちゃんはこの後運転するはずだけど、おかまいなしに自分も飲んでいた。

「兄ちゃん、すごいなあ。東京から旅してるんだろ?自転車はどこに置いてあるんだ?」
「いや、自転車じゃないんですよ。ヒッチハイクなんです。」
「ほう!ヒッチハイクか。すごいな。東京からか?」
「はい。」
「今日出てきたのか?」
「いや、出発してからもうすぐで一か月くらいです。」
「そんなにかかったのか?」
「まず太平洋側を北上して北海道まで行き、今日本海側を降りてきているんです。」

(少し会話が進んだぞ。)

お好み焼きを結局2枚注文していただき、おじちゃんはぼくを連れてお店を出た。お店を出る時、
「これ、お土産だ。」
と言って、ピザーラの箱みたいなのにお好み焼きが3段入った入れ物をぼくに渡した。そこにはなぜか夏みかんも2つ入っていた。

2枚食べた時点でもうかなり満腹だったから、正直吐きそうになった。

「は、はい。いいんですか?ありがとうございます!」
(すげえ量だな。これ、食べれるのか。持ちながら移動できるかなあ。まあ、先のことはとりあえず考えるのはよそう。今はこの流れに乗るしかないのだし。)

「じゃあ、次行くぞ。おじちゃんのよくいくスナックがあるんだ。」
「は、はい!」
(え?これからもう1軒?どうなっていくんだ!!)

ぼくは、おじちゃんに従って近くのスナックについていった。スナックに入ると右側にあるカウンターの向こう側でママが出迎えてくれた。

「あら、いらっしゃい。お連れさんがいるの?」
「そうなんだよ。東京から来た兄ちゃんで自転車で旅してるんだよ。」
(ちがうけど。)

入って左側にはテーブルが3つならび、緑色の背もたれのない四角いスツールにぼくらは腰かけた。他にはお客さんは一組いたかいないかというくらいの感じだった。

おじちゃんはボトルキープであろう水割りを注文した。
「にいちゃん、おじちゃん水割り飲むけどにいちゃんも飲むか?」
「はい。何でも飲めます。」
「それでな、ママ、このにいちゃん東京から来たんだよ。」
「さっき聞いたわよ。」
「自転車で回ってるんだっけ?」
「いや、ヒッチハイクなんです。」
「そうそう。ヒッチハイクで東京から来たんだって。すごいだろ。東京の大学出ているんだぞ。」
(えーと、この会話はこれで何回目なんだろう。でも、やくざだとは言ってたけど、そういうオーラは全く感じないんだよなあ。本当なのかなあ。なんでそんなこと言ったのかなあ。本物だったら指つめてたりしないのかなあ。)

ぼくはおじちゃんに勧められてカラオケを歌うことになった。
「何か歌ってくれよ。何歌うんだ?」
「えーとー。『とんぼ』歌いますね。」

これなら日本全国、間違いないだろう。

「コツコツとアスファルトに・・・
 ああ 幸せのとんぼよ ・・・」

ぼくはしっかりと歌い切り、おじちゃんもママも満足したようだった。

水割りは2杯ほどで終わり、ぼくらはスナックを出た。そして・・・

「兄ちゃん、あと1軒連れて行きたいところがあるんだよ。いくぞ。」
「は、はい。まだあるんですか?大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと遠いけどな。これで最後だ。いくぞ。」

おじちゃんは結構飲んだはずだ。見るからに酔っているし。でもここは行くしかない。ぼくは再びおじちゃんのバンに乗り、もう真夜中と言っていい時間になっていたが、闇夜を車は突っ走った。

外は暗く、いったいどこをどう走っているのかも分からないが、3軒目のお店は街はずれにあるようだった。

車内での話からするとおじちゃんにとっては一番大事なお店なようで、そこのママににいちゃんを絶対会わせたいと言っていた。
「お店やってるといいんだけどなあ。」
あたりは真っ暗闇の中、並木道っぽいところの先に、ヘッドライトに一軒のお店が照らされていた。
(ここかあ。だいぶ離れにある気がする。こんな時間にやっているのかな。)

しかし、お店はやっていた。ちゃんとママもいた。穏やかな微笑みをたたえて、すらっとした方だった。
(ちょっと来るの遅すぎるわよ。)
と思っているような感じもしないではなかった。

ぼくらはカウンターに腰掛けた。おじちゃんはすでにだいぶへろへろだった。
「いやあ、やっていてよかったよ。」
「こんな時間までいつもやっているんですか?」
「まあ、やっている時もあるわよ。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。さっきまで一人来てたのよ。」
「この兄ちゃんはな・・・どっから来てるんだっけ?」
「東京です。」
「そうそう。東京から自転車で回ってるんだっけ?」
「ヒッチハイクですね。」
「そうだ。ヒッチハイクで東京から来てて、W大学の学生さんなんだよ。」
「いや、大学は卒業してしまったんです。」

だらだら、ちびちびとお酒をいただき、ぼくは何を話してよいかわからず、時間はずぎていったけど、ママなのか、おじちゃんなのかどちらが言い出したのか、
「そろそろかな。」
という声でぼくらは腰を上げた。

もう深夜3時ころだった。

おじちゃんは酔っぱらいながらもちゃんと自分の自宅までぼくを連れて行った。おじちゃんは3階建てのグレーのマンションの2階に住んでいた。マンションというか団地に近い。

自称やくざのおじちゃんという話からはだいぶこじんまりした住まいに思えたが、おじちゃんはぼくを泊めてくれた。

ぼくもかなり飲んでいたので、どうやって寝たのかあまり覚えていない。

翌朝、それも6時くらいにおじちゃんは起き、ぼくも起こされた。
「明日仕事があるから6時には起きるぞ。一緒に出よう。」
と言われていた。

あんだけ飲んだのにちゃんと起きているところがすごい。

ぼくはさっさと支度を済ませて玄関の外で待っていると、ニッカポッカを来たおじちゃんが出てきた。

(おじちゃんは自称やくざとか言ってるけど、ただのどかちんじゃない?そういえば前は祭りで店出していたとか言ってたけど、テキ屋?それがやくざってことか?なぞだなあ。)

「おう。いくぞ。」

おじちゃんはコンビニに寄り、朝食と新聞を仕入れた。そして、
「ほい、これ。」
とぼくに手渡したのは缶チューハイ3本。今コンビニで買ってくれたのだ。

ぼくは結局お好み焼き3枚と夏みかん2つと缶チューハイ3本を手渡され、松本駅でおじちゃんと別れた。

すさまじい梯子をしながらも、おじちゃんの手前、お好み焼きと夏みかんを死守していたが、いざ別れてみるとこれからヒッチハイクをするには荷物が多すぎた。

ヒッチハイクしながら酒の缶を持ち歩いているなんて、印象が悪すぎるし、お好み焼きをバックパックに入れることもできない。

これ全部食べきるのに最低2日はかかる。

ぼくは二日酔いだったので夏みかんを一つだけ食べ、いたみ始めるであろうお好み焼きをまずゴミ箱に捨てた。缶チューハイも捨てた。

夏みかんはもう少し頑張ろうと思いバックパックに押し込んだ。

(しかたない。でも感謝している。おじちゃんありがとう。面白かった。)

ぼくは、富山を目指した。富山の宇奈月にインドで出会ったトシがいる。


つづく

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