第13話 農家に変装している警察官がいる北海道~豆知識の日~【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】
15台目。千歳から苫小牧。夜勤明けの31歳の方。古沢さん。
16台目。齋藤さん。白老出身。苫小牧に釣りをしに来て、天気悪いから帰るところだという。
齋藤さんは室蘭まで連れて行ってくれると言ったが、登別温泉を通った後、洞爺湖まで連れて行ってくれた。
その後なんと伊東温泉という温泉にも連れて行ってくれた。この旅4回目の温泉に浸かる。
洞爺湖近辺は地殻変動がはげしく、昭和新山という最近できた山もある。道路がぐにゃぐにゃになっている状態がそのまま手つかずのまま残っていて、観光できる。
本当に最近できた山なのだ。当たり前だけど。
もちろん立ち入り禁止になっているから、柵の外から見える範囲しか見れない。
(昔、学校で習った昭和新山だ。すげえ。池ができてるし、標識が水面から出てる。もはや道路とか跡形もない土砂だけになっているところもあるし。)
洞爺湖も火山活動でできた湖だという。登別温泉もその影響で出てきている温泉だというわけだ。
斎藤さんもたくさんのことを教えてくれた。
・この辺には熊牧場がある。
・小樽でうまいのは魚、函館はイカ、カニはどこだったか。
・きびは「とうきび」のことで、つまりとうもろこしのこと。でも焼くと「焼きトウモロコシ」になる。焼きとうきびとは言わない。(たしかに)
一番面白かったのは、北海道では農家の格好に変装している警察官がいるという話だ。
気づかずにスピードだしたり、うかつに話しかけたりするとろくなことにならないと教えてくれた。
17台目。佐藤さん。伊達出身。今日からお盆休み明けの仕事がはじまる。カイロプラクティックの整体師さん。
中国の医者は東洋医学も西洋医学もできるという。そして気功師は医者のみがなれるそうだ。
「体を治すためには、痛みをとるだけじゃだめなんだよ。何が原因かをつきとめないといけない。痛みをとるだけじゃいつまでたっても治らないし、手遅れになってしまうんだよ。」
「昔から『手当て』というでしょ。気功というのはそういうことなんだよ。中国では当たり前なんだよ。マイナスイオンと似ているかな。マイナスイオンを原料にしているというか。マイナスイオンてわかる?森林とか、滝とか、シャワーとか激流とかに漂っているんだよ。森林とかなんとなく気持ちいいでしょ?」
(へえ、なるほど。そういうことか。)
佐藤さんに下ろしてもらうともう夕方だった。函館方面に歩きながらヒッチハイクにいい場所を探すけど、どんどん暗くなっていく。
(どうしよう。このままこの辺で野宿?いやだなあ。函館まで行きたい!)
運よくぼくは空が暗くなる中ヒッチハイクをすることができた。
18台目の車は「レンタカーを返す途中の車」だった。乗り捨てのレンタカーをもとの営業所に戻す仕事があるようで、それがこの車だった。
車は札幌から函館に返す途中。
(ということは、おれは今日函館まで行ける!)
これがこの日最後の車になる。まっ暗な夜の北海道を、返却されるレンタカーは走った。返却されるレンタカーに乗るなんてことはめったにないことだからなんだかうれしい。
「おれは昔はトラックの運転手だったんだよ。ヒッチハイクの人、よく乗せてた。昔は北海道はヒッチハイクが多かったんだよ。」
運転手さんの前さんは今は漁師だった。
「魚は、さっと釣ってパッと食べる刺身はうまくない。死んだくらいがちょうどいい。北海道でうまいもん食うために、いいお店いくよりも、そのへんのスーパーで買った方がうまいから。安いし。イカとかスーパーで買って食べたらいいよ。味はいいから。」
そしてこの前さん。神奈川県の「ソルトウォーターハウス」という釣りショップのホームページにも出ているらしく、
「今度見てみな。津軽海峡の江差沖ね。」
調べてみればわかるが、「ソルトウォーターハウス」のホームページは今(2021年)でもまだある。
前さんもたくさんおしゃべりしてくれた。
「北海道にしかないコンビニってわかる?『seico mart』っていうんだよ。あと君、青森からはどうやってわたってきたの?フェリーかあ。ヒッチハイクで海を渡る方法があるんだよ。トラックをヒッチハイクしな。おれも乗せてあげたことあるよ。うしろに隠してあげてね。」
(それはちょっとレベル高いだろ。乗せる方も乗せる方だし、乗せてもらう方も乗せてもらう方だな。だって人が増えたら本当はお金かかっちゃうし、こっちからお願いするのは厳しいなあ。)
ぼくはビビりだから無理だ。
まあ、前さんはそういうぐじゅぐじゅしたこと考えない人なんだろう。歌も歌いだした。
「おれは歌が好きでね。君は歌いながら旅してるんでしょ?ちょっと歌ってみてよ。」
「え?いいんですか?でもギターが車の後ろに・・・」
「いいから歌って歌って。」
「え・・・じゃ、じゃあ、いいんですか?アカペラですけど、ぼくの歌ですけど歌いますね。」
ぼくは思いもかけず、車の中で、助手席で、ギターもなしで歌うことになった。
(こうなったら思い切って歌おう。)
「『sing a song』という歌です。いきます。」
誰かの生き方に 胸うたれて 歌をうたうの
誰かの言葉に 胸うたれて 歌をうたうの
I sing a song I sing a song
わたしの歌で泣いてよ わたしの歌で笑ってよ
言葉も音楽もいらない この声があればいい
歌はあなたに歌うもの 歌はわたしを歌うもの
歌はあなたに歌うもの 歌はわたしを歌うもの
I sing a song I sing a song
I sing a song I sing a song
「・・・あ、ああ!すごいね。本気だね。君の歌すごいね。ああ、そうかあ、そうやって歌って旅してるんだね。」
「はい、ありがとうございます。」
なんだかまじめな空気になってしまった。
(だからギター持って歌いたかったんだよね。でも逆に思いが伝わったかな。)
ぼくは予定通り函館に降ろしてもらった。もう時刻は21時ころだった。
(今日は海辺で寝よう。)
そう決めてぼくは海岸に寝袋を敷き、満点の星空を見ながら眠りについた。海岸で寝るというのも初めての経験だった。
(スーパーのイカとかカニとかくってみてえなあ。)