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第122話 20年前に浜岡原発停止を訴えていた人たち【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

少し時間をさかのぼる。

和尚のおっちゃんにシルクロード行きを提案された次の日のことだ。

「おっちゃん」とは失礼かもしれないが、和尚さんに「何とお呼びすればよいですか?」と聞いたところ、

「まあ、おっちゃんて言うやつが多いかな。」

とおっしゃってくれたので、それからはそのように呼ばせていただいた。

沖縄のムーミンさんのように、一緒にいるみんなが、「じじい、じじい」と言っている環境とは違う。

和尚のおっちゃんと二人の状況でいきなり「おっちゃん」はちょっと恥ずかしいというか、失礼というか。

でもぼくは、それがぼくを受け入れてくれているようでとても嬉しかったのである。

「今日は遠州大念仏が来るぞ。」

とその日おっちゃんは言った。

「何ですか、それ。」

「武田と徳川の戦の時、雪の季節に戦があって。徳川が雪にまぎれて白い布の橋を作って武田軍をだまし討ったんだよ。それでたくさんの死者が出たので、その人達を弔うために始まったと言われていてね。」

その為に、お盆の時に念仏踊りをしながら家々を回るのだという。

「それは知らなかったなあ。東京じゃ、まったく聞いたことないですね。遠州ってなんですか?」

「遠州っていうのは、もともと近江(おうみ)と遠江(とおとうみ)という
のから来てるんだよ。近江は都に近い方の湖、琵琶湖のことで、遠江は都から遠い方の湖、浜名湖のこと。遠州の『遠』はその遠江の『遠』からきてるんだよね。」

「ああ、近江ってそういうことだったんですね。近江はよく聞きますけど、その反対の遠江があったんですね。」

ぼくは目からうろこのような気持ちになった。

夜、お寺にも大念仏の踊りがやってきた。

遠州の人びとは、数百年もこのしきたりを続けて来ているのだ。

東京にいてはまったく耳に入って来ない、教科書にも載っていない歴史や文化の勉強になった

そしてそのまた前日には、お寺に来客があった。

内野ボビーさんとふみやさんだ。

二人はかなりベテランのミュージシャンで、長野県の大鹿村から来ていた。

なぜこのお寺に来ているかというと、静岡にある浜岡原発の反対運動をしていて、翌日、浜松の繁華街で反対運動のライブをするために、正光寺に泊まりに来ているのだ。

ヤイリギターで聞いたように、正光寺は和尚のおっちゃんがヤイリのギターを持っているし、このお寺でいろいろな人がライブをすることもある。

ボビーさんたちも時々ここに来るらしく、全国でライブ活動しながら原発停止を訴えている際中だという。

ボビーさんたちは、いわばヒッピーのような人たちだ。

旅をしているとヒッピー系の人達にたくさん出会う。

そうした人たちの中ではボビーさんは有名なミュージシャンで、カリスマ的存在だと思われる。

和尚のおっちゃんは見た目は本当に普通の坊主のお坊さんなのだが、そうした人びとを受け入れていることがすごいと思うし、どうしてそういうつながりができたのかが不思議だ。

そして、ボビーさんたちがなぜ原発停止を訴えているか―

静岡にある浜岡原発は断層の上に建っている。

地質学者の間では、マグニチュード8以上の東海地震が間違いなく、しかもいつ起きてもおかしくないと言われている。

そしてもし起きれば原発は壊れ、放射能は、北は東北、西は四国まで及ぶ。
そこで、地震が起きるまでは原発を止めてもらおうということなのだ。

その運動を「平和の集い」としてボビーさん達は活動していた。

当時ぼくはこの話を受けて、もちろんそれが本当なら危ないから止めた方がいいくらいにしか思っていなかった。

「それが本当なら」である。

しかし、2011年3月11日。それと同じことが福島で本当に起きた。

そして浜岡原発は停止された。

政府の判断で停止されたが、もしかしたら以前からボビーさん達のように反対運動をされた方々がいたことも停止に影響したのかもしれない。

福島原発の爆発による影響を見れば、ボビーさん達が訴えていたことが、おおげさではなかったことが分かるだろう。

しかし、再稼働するという動きもある。各地の原発で再稼働しはじめているところもある。

これからまだ南海トラフ地震も来ると言われている。いつ来てもおかしくないと。

原発事故をそこに建てているのは人の意志だ。

地震大国で地震によって原発が壊れれば、それは人災と言ってもよいのではないかとぼくは思っている。

たとえば東北の震災後の復興では、防潮堤などは100年に1回の地震を想定したレベルで造られた。

100年に1回のレベルでしか法律的に対応できないのだ。

しかし、東日本大震災は1000年に1回の規模だった。

ということは東日本大震災と同じ規模の地震がまた起きたら、東北はまた津波にのまれてしまう。

そして、南海トラフ地震が来るであろう東海、四国、近畿、九州などはそもそもどの程度の地震に備えられているのだろう。

あの日、ボビーさん達の浜松でのライブにぼくも連れて行ってもらえた。
彼らの訴える歌と詩の朗読の姿が今でも目に焼き付いている。

どうか事故が起きないでほしい。

つづきはまた来週

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