夢をかなえたら本当の夢をかなえよう~日本二周ヒッチハイクの歌旅~第1話<回顧小説>
第1話
ー日本二周の旅小金井街道から開始する初めてのヒッチハイクは成功するのかー
ぼくの心臓はバクバクしていた。お腹はキューっと縮こまっていた。
(本当にやるのか?おれは。もうスタートしてしまっている。やるしかないよね。)
最初の目的地は大学時代の親友古田のいる秩父。調布に住んでいたぼくは北を目指すことになる。もちろん古田には知らせてない。勝手に目指す。
(それがおれなりの美学だ。)
と、当時はそんなのが美学だと思っていた。
品川道や甲州街道でヒッチハイクするのは分が悪い。東西に延びている街道では北に行く車が通る確率は低いだろうし、※(1)そもそも車道に余分なスペースがなく、車側にとっては止まりにくい。それに市街地では近所の用事が多いだろうから、遠くに行く車がうまくひっかかるか、難しいところだ。
ということでぼくは市街地で冷や汗をかくよりも、暑い汗をだらだらたらして北に行きやすい小金井街道まで歩いてきた。これを逃げととるか、かしこいととるか。
ぼくのイメージする理想のヒッチハイク像とは、笑顔満面で親指を立てて運転手の目を見るとか、自分から止まっている車に話しかけるとか、そういう傷つくことをおそれない感じ。
そうなりたいし、なるべきだと思うけど、おじけづいてできない。やっぱりおれはダメな男だ。この想念はその後2年間ヒッチハイクをし続ける中、ずっとぼくの心をむしばんでいた。
頭だけはよく働く。ぼくはなんでも失敗や被害を少なくしておきたい人間だ。だから頭がそこそこ発達したんだと思う。逆か?頭が働くから不安が強くなるのか?
どちらにしても内心は小心者だから頭を使うことでカバーしてきたし、それがぼくの欠点でもある。シンプルにストレートにダイナミックになれないところがある。
いや、これは頭を使うべきだし、とにかくやらないよりはやろう。その方がましだ。よね。
歩道沿いの並木の下で生まれて初めてのヒッチハイクを始めた。
(本当にやるのか?おれは。もうスタートしてしまっている。やるしかないよね。あー、いやだなあ。)
※(2)ぼくはその時どんな身なりをしていたのか。見た目というのはヒッチハイクではとても大切だ。
ギターのハードケースを右手に持ち、バックパックを背負い、クロッキーのスケッチブックにひもを通してあり、首にかける。頭はネパールで買ったお気に入りのニット帽。
そして新百合のOPAで買った紺色のミニショルダー。色もデザインも使いやすさもかなりお気に入りだ。
ミニショルダーはA5くらいのサイズ。ここにはすぐに取り出せるものが入っている。日本地図、メモ帳、ペン、タバコなど。
バックパックに小物を入れておくといちいちおろしては背負うというのが大変だから、すぐに使えるものはショルダーに入れておく。
ショルダーは体の前に来るようにかけておくと使いやすいし、ギターを持っていても邪魔にならない。
※(3)スケッチブックには「秩父方面」と書いた。マジックも忘れずに持ってきている。極太のマジックだ。やっぱり見えやすいことが大事だ。
ひきつった、かたまりきった顔でスケッチブックを車道側に見せる。左手の親指を立てる。
(とまるかな。とまってくれるのかな。怒られないかな。もしかして一日中ここにいることになるのか?道行く車や歩道を歩く人たちが見てるよね。あいつヒッチハイクしているよ、とか思っているよね。)
そして・・・
第2話へ
※ヒッチハイク極意
(1)
①ヒッチハイクは車側の視点に立ってやる。
②車が止まりやすいスペースがある道で行う。
③行きたい方面に伸びている幹線道路などで行う。街の中心ではなく、少しはずれたところで行う。
(2)
ヒッチハイクでは見た目も大事です。なぜなら乗せてもらう方も怖いですが、乗せる方もとっても怖いものだからです。安心できる根拠が見た目に表れていることはとっても大事。だから笑顔も大事。ぼくは笑顔出せる余裕、最後までなかったけど。
(3)
ヒッチハイクは行き先を書いておくのがいい。運転手はそれを見て同じ方面なら乗せてくれる人が多い。方面を示さずに止まってくれる人もいるだろうけど、確率は下がる。その場合は止まってほしいオーラをすごく出したり、目や表情で止まらせたりする強さがないと。また、行き先はあまり遠すぎない方がいいし、あいまいじゃない方がいい。小金井街道からいきなり「仙台」とか「埼玉」とか見せられても「え?」ってなりますよね。