「おめでとうございます。」
打ち合わせ開始早々、太田雄貴会長は僕に向かってこう言った。
フェンシング界で太田雄貴が進めている改革のことを書いた記事が、ヤフートップに掲載され、大きな反響を呼んだことを指して言ったのだろう。
なんて人なのだろうと思った。
たしかにこの記事を書いたのは僕だが、記事の主人公は太田雄貴であり、読者の誰もが、「こんな取り組みをしている太田ってすげーな」と思うだろう。今までの経験上、間違っても「これを書いたヤツってすげー」とはならない。
今まで多くの人を取材して記事を書かせてもらってきたが、ほとんどの場合「書いてくれてありがとうございます」と言われてきた。実際、「お礼の言葉」を言われたことはあっても、「お祝いの言葉」を言われたことは一度もなかっただけに、この言葉にはさすがに驚かされた。
さらに太田雄貴は、こう続けた。
「ビズリーチで何人応募が来たか気になるんじゃないですか?」
ちょうど気にはなっていたし、なんとなく、数百人くらいは応募があるだろうと予測もしていた。だが、この質問によって、「あなたの書いた記事も大きく関係しているんだよ」と言われたような気にさせられ、一瞬で当事者意識が高まった。
少し間をおいて「プレスリリースは明日なんで、ここだけの話ですけど。。。1127人いきましたよ!」と、想像を超える数字を言われて、僕も驚き、そして喜んだ。
何が言いたいかというと、太田雄貴という人間は、他人を自分ごとにさせるのが非常にうまいということだ。僕はこうして、まんまと太田雄貴に巻き込まれた。
そもそも僕が太田雄貴と会ったのは今回で2回目だったのだが、この打ち合わせが決まったのは、2日ほど前と、かなり急展開だった。平日の夜に太田雄貴から短めのメッセージが来て、協会ホームページリニューアルに伴って、ページの核になる部分を書かないか?という打診を受ける。
もちろん、あの太田雄貴に頼まれて、断る理由は全くなかったので、即座に快諾するとともに、スケジュールをきく。
「実は、ベンチャースポーツだけあって、相当急ぎなんす。
明日以降で瀬川さんが空いてる日で取材をして頂きたく笑笑
今回の肝なんす。」
太田雄貴から返ってきたメッセージが、これだった。
ここで「ベンチャースポーツ」というキーワードを使ってくるか!?
と思わず吹き出しそうになってしまった。
僕を信頼して頼ってくれたという「肯定感」を感じているからか、不思議なほど、全く悪い気はしなかった。いや、むしろ、アドレナリンが出てくるような感覚にさせられていた。
結果的に、今日ホームページがリニューアルされたとのことで、僕にとってはかけがえのない経験をさせてもらった。
短期間での仕事だったが、こうして巻き込んでもらったことで、僕は、フェンシングに対して、今まで以上に当事者意識が芽生えている。
フェンシングの第一人者として抜群の知名度を誇り、スポーツ界のロールモデルを作ろうと、強烈な推進力でフェンシング界を改革している太田雄貴。そのリーダーシップのウラには、当事者意識を相手に持たせるハンパない「巻き込み力」があったのだ。
瀬川泰祐の記事を気にかけていただき、どうもありがとうございます。いただいたサポートは、今後の取材や執筆に活用させていただき、さらによい記事を生み出していけたらと思います。