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2019年の夏休みも中盤に差し掛かった8月11日の朝。

ベットから起きると、さっそくまとわりついて来るような湿気にうんざりしながら、リビングへ向かう。

僕の心許ない行動力が、一気に減退していくのがわかる。

束の間の休日にも関わらず、特に何もする予定がなかった僕は、妻が出してくれた朝食のクロワッサンをかじりながら、何気なしに、ハードディスクレコーダーのリモコンで、録画リストを探った。

しばらくボーっとしながら、録画リストを眺めていると、僕の目の中に、いや、意識の中に、急に飛び込んできた番組があった。

NHKスペシャル「香川照之の昆虫“やばいぜ!”」

我が家のハードディスクに録画された映像のサムネイル画像にも、カマキリの着ぐるみをきた香川照之さんが写っている。

実は、この番組、少し前に、一度視聴しようと試みたが、家族に嫌がられたため、視聴を後回しにしていた番組だった。

もっとも、家族がこの番組を嫌がったのは、僕が夕食時に視聴しようとしたからであり、我が家は、決して昆虫が嫌いなデリケートな家族というわけではない。

さすがに、今回も食事中の視聴は控えたが、家族が朝食を食べ終わるの見届けるや否や、この番組を視聴することにした。

最近、僕のnoteでは、感銘を受けた番組を紹介することが増えているのだが、この番組もまた、「やばい!」ほど素晴らしいものだったので、この場でご紹介する。

が、その前に、なんでスポーツを取り上げることが多い僕のnoteで、昆虫のことを書くのかについて、先に触れておきたい。

僕が昆虫のことを書くワケ

僕が大人になってから、再び昆虫にしっかりと目を向けるようになったのは、プロレスラーの垣原賢人さんへの取材がきっかけだった。

垣原さんは、悪性リンパ腫を患いながら、プロレスラーとしてリングに上がり続けている、とても常人では真似のできない人生を歩んでいる方だ。僕は、その生き様が多くの人に勇気を与えると考え、アラフォー世代向けのファッション・ライフスタイルマガジン「OCEANS」で紹介させてもらうことにしていた。

垣原さんへの取材を通じて、僕は、垣原さんの人生感や家族感はもちろんのこと、垣原さんが持つ昆虫愛に大きな感銘を受けた。そして、垣原さんが僕に話してくれた数々の言葉は、僕の記憶の遠く彼方に追いやられていた、幼い頃の昆虫への憧憬を、鮮明に蘇らせてくれたのだった。

※取材中に、楽しそうに昆虫愛を語ってくれた垣原賢人さん

この感情を忘れたくなかった僕は、垣原さんの昆虫愛を記事のテーマにすることに決めた。実は僕が執筆する前の時点で、既に多くの媒体で、垣原さんの病気をテーマにした記事が紹介されていた。このため、結果的には、記事の差別化ができたことも、功を奏し、多くの人に読んでもらえたのではないかと思う。

さらにその後には、この記事を高く評価してくれた東洋経済オンラインが僕の記事を転載してくれることになり、僕にとっては、忘れられない記事になった。

※もしよろしければ、ぜひ、読んでいただけたら嬉しいです。


魅了! 香川照之さんの昆虫愛

こうして、垣原さんに昆虫愛に魅せられた僕は、夜中に街灯の明かりに引き寄せられたカブトムシを見つけるなど、少しづつだが、日常生活の中でも、昆虫に目を向けるようになっていた。

さて、このあたりで話を元に戻そう。この番組映像は、香川照之さん扮するカマキリ先生が虫を求めて自然を駆け昆虫を語る様が人気のEテレ「昆虫すごいぜ!」が、NHKスペシャルになったものだ。

冒頭から仕込まれた視聴者を惹きつけるための仕掛けに、僕は、すぐさま引っかかった。映像は、ややおどろおどろしい効果音と共に、着ぐるみをきたコミカルな香川照之さんが、自らの両鎌(前脚)の隙間から顔をだして、始まる。

「こんばんは、香川照之です」

ワクワクが一気に押し寄せてきた。直後に香川さんの紹介と共に、これまでの「昆虫すごいぜ!」の映像が流れる。香川さんの昆虫愛から溢れ出る自然への誘いに、観ている僕の意識は、すぐに液晶の向こうに引き込まれていった。

番組では、香川さんとその取材班たちが、中米の昆虫王国・コスタリカに入り、さまざまな昆虫の生態を紹介する。

僕の隣に座っていた妻も、香川さんの微笑ましい昆虫愛に魅了されたのか、いつの間にか、食い入るように液晶を見つめている。

ソファーに寝そべる年頃の娘は、「昆虫、気持ち悪い!」と言いクッションで顔を覆いながらも、香川照之さんの話す言葉に聞き耳を立てて、楽しんでいる様子だ。

テレビの向こうでは、香川さんが、コスタリカの自然の中で、モルフォチョウやマルムネカマキリ、プラチナコガネなど、様々な昆虫を発見しては、その豊かな表現力で、昆虫の素晴らしさを紹介して進んでいく。

そして、番組が中盤に差し掛かると、「昆虫やばいぜ!」の「やばい!」を象徴するシーンへ突入していった。

昆虫がなぜ「やばい」のか?

広大なバナナ園の間を通る一本道を抜け、町のはずれにある小さな食堂に着く。その敷地内にある1本の小さな木に、10匹ものエレファスゾウカブトが群がっている。


昆虫学者の方のコメントによると、エレファスゾウカブトの成虫の餌となる木が急激に減少したことにより、数少ない木に集まらざるを得ないのだという。

この「転換シーン」では、音楽の変化も使いながら、子供にもわかりやすい構成で、注意喚起をし、課題意識を植え付ける工夫が施されている。さらに、研究者のコメントやイラストを使った解説などを挿入し、その謎を紐解いていく。

コスタリカにおける2014年のバナナの生産量は、約241万トン。この数字は世界で第12位だ。おそらくコスタリカの人々の生活を大きく支えているのだろう。もちろん、そのバナナは、多くの先進国の国々に輸出され、最終的には、豊かな生活をする人々の胃袋におさまる。 人となんと罪深い生き物なのか……。

人間の渦巻く欲望の陰で、資本主義社会の影で苦しむ昆虫の姿は、後半につながっていく。

ここからがNHK取材班の本領発揮だ。さまざまな統計データや研究者への取材をもとに、昆虫の生態の変化と人間の関係性を明らかにしていく。

番組の最後では、オオカバマダラという、渡り鳥のように渡りをするチョウを紹介。温暖化など、変化してゆく地球環境の中で、生存の危機に晒されながらも、進化を遂げていく昆虫の姿を映し出した。

まとめ

生態系の末端にいる昆虫の危機は、巡り巡って、人間の危機に繋がっている。この番組は、欲望に満ち溢れた我々人間に、「このままでいいのか」と問いかけてくる。

僕たち人類は、豊かな生活を追い求めた結果、地球にどんな環境変化を引き起こしているのか、改めて考えていく必要があるだろう。

この映像は、子供だけでなく大人も観るべきものだ。もし再放送があれば、ぜひ視聴することをオススメする。そして最後に、香川照之さんの昆虫愛と、NHKの制作チームの視点や取材力に改めて敬意を表したい。

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せがわたいすけ(瀬川 泰祐)/久喜市議会議員・スポーツライター・編集者ほか
瀬川泰祐の記事を気にかけていただき、どうもありがとうございます。いただいたサポートは、今後の取材や執筆に活用させていただき、さらによい記事を生み出していけたらと思います。