【浅倉透&樋口円香STEP】読解 「抽象と具体」から人物像に迫ってみる
はじめに
この前、ようやく年末まで温めておいた浅倉透STEP、樋口円香STEP、あと【ダ・カラ】などを読みました。読み取れた情報、今までのコミュとつなげて考えたことなどを書き残しておきたいので本記事を書いています。
今回はどちらかというと透についての文量が多くなると思います。
STEP編
「理解」について――円香STEP
以前、私は【Merry】の記事で樋口円香の「理解」をその人の根幹を過不足なく知るくらいに捉えておこうと書きました。他人の全ての思考を100%再現することなんて不可能ですから言ってしまえば「そりゃそうだろ」という話でしかないのですが、円香の場合は【UNTITLED】もあって個々人の中で解釈に幅がありそうだったので「この記事ではこう解釈して進みます」と宣言しておく必要があったのです。
この「理解」はSTEP編でも重要になってきます。
ちゃんと定義しておいて良かった。
STEP編では円香から透への「理解」がかなり掘り下げられました。
まずは序盤の発言を見てみましょう。
この独白はというと、
まあ当然のように正解してるわけです。
円香は透の根っこにある、本源的な衝動を「理解」していました。
また【UNTITLED】などから読み取れるように、円香にとって透を理解しているということは非常に重要なアイデンティティの一部なのです。
しかし。
「どうして」
これは「理解」とは正反対のワードです。
では、このシーンで円香は透のことを「理解」できていないのでしょうか?
私は違うと思います。
先ほど述べましたが、ここでいう「理解」とはその人の根幹を過不足なく知っていることです。透の「飛びたい」という衝動に変化はありませんし、その衝動に従って行動しました。だから、上の意味での「理解」は別に崩れていません。では、円香には何が分からなかったのか。
それは、透の衝動が向かった先が何故「アイドル」であるのかということ、そしてその衝動に火をつけた外的な要因は何だったのかということです。
この問いは透についての問いであってそうじゃないのです。
円香は最小限の問答で外的要因を特定し、問いの対象をその要因――プロデューサーに変化させています。
透が急に変わったわけでも円香の「理解」が崩れたわけでもないのです。
抽象と具体1――透STEP、浅倉透と樋口円香
浅倉透は抽象的な人間です。
言い回しだけでなく、思考も抽象的。
それはSTEP編でも書かれていました。
透の問いはあくまで抽象的な「飛べる」かどうかということです。
「飛ぶ」というのはスカウトマンが言ったような意味がある言葉ではなく、具体性のない欲求をそのまま出力したものでした。スカウトマンは透の言葉を解釈して具体的な回答をして、透に逃げられてしまいます。
「彼女の望み」
「彼女はどうなりたいか」
「彼女は何になりたいか」
これらはそれぞれ具体性が全く違います。上から下にかけて答えが限定されて、具体性が上がっていく。
透の場合「望み」は非常に強いものを持っていて、しかし「どうなりたいか」になると答えがぼんやりと、「何になりたいか」になると答えがさらに希薄になっていきます。GRADの「頑張りたい」は「望み」に当たるでしょうし、STEP編の「飛べる」も同様です。「モデル」「アイドル」「世界進出」といった具体的なヴィジョンを語られても響かなかったのはそういうところにあるでしょう。
円香STEPの「どうして」発言も、これでより掴めるでしょう。
抽象的な「飛びたい」という欲求が向かう具体が「アイドル」なのはどうしてなのか。様々な選択肢がある中で、今まで断ってきたアイドルを選ぶ理由は何か。
透は実際「何かになんて、ならなくていい」と思っていたわけですから、円香にとっては抽象的な透への理解が崩れていないままに、具体の領域で理解不能なことが起きたわけです。
透に対して、円香は具体性の高い人間です。
根源的な欲求(【ピトス・エルピス】「gem」や【ダ・カラ】などから読み取れる)はそこそこ抽象的なものですが、彼女は具体的に説明する言語化能力に長けています。
(この場合の)言語化とはいわば具体化の能力であり、円香はそれを重視しているわけですから、具体性が高い人間だということになるわけですね。
彼女自身がそれなりに具体性で覆われているわけですから、彼女を言語化するのは大変ではあっても必ずしも難しいわけではなく、また「抽象」そのものに目を向ける必要性もあまりなかった。
抽象と具体2――シャニPと透のコミュニケーション
透の話に戻しましょう。
円香が色濃く具体性を持っているおかげで彼女については私も初期から言語化しやすかったのですが、透の場合はそう簡単にはいきませんでした。
言語化が難しい、というより浅倉透を言語化するのは不可能であり、また、すべきではないのではないかという考えが私の中にあったからです。
意味伝達のための言語化――それこそこういう考察記事のような――は、不特定多数に伝わるように「これはこういう意味で……」「これはこういう心情が反映されていて……」と具体的でなければなりません。
しかし「抽象的な存在」を具体で掴むことは難しい。掴めたとしてもあまりにも微小な一部でしょう。それこそ透STEP編のスカウトマンのようなミスをすることになりそうです。
しかし今回STEPを読んで、ようやく記事で透について多少語るための足がかりとなりうるキーワードを自分なりに発見できた……かもしれません。あくまで「足がかり」でしかないのですが。
それこそ「抽象と具体」です。
これは、抽象的に描かれていることを具体に落とし込むという読解のレイヤーで発生する問題としてではなく、「抽象と具体」という問題が浅倉透のコミュ全般にわたって主題として存在しているだろうということです。
まずは【チョコレー党、起立!】を見てみましょう。
ここで透は小糸にこのように言われています。
要は「もっと具体的に書かないとダメだよ」ということです。
この小糸の言葉を受けた透は、
……言語化能力は決して高いとは言えません。
彼女に具体性の出力はあまり期待できず、ノクチルの4人における具体性の出力に関しては専ら円香と小糸の役割になっています。
(ここでいう友達=円香)
また【かっとばし党の長い夏】「今日」では「抽象的」という言葉が直接登場しています(別に珍しいワードでもないですが)。
ここで透は具体例ではなく、抽象的な『この夏、手に入れたもの』から発想を飛ばしています。抽象的な言葉のほうが入ってきやすいのでしょう。
そして始まりのWING編でも。
私は今まで透WING編を「要約すると透とシャニPがちゃんとコミュニケーションを取るようになる話」と捉えていました。これが間違っているとは思いませんが、ここに「抽象」「具体」を取り入れることによってさらに解像度を上げられるのではないかと思います。
この時点で、シャニPは具体的な領域でも抽象的な領域でも透のことを掴めていませんでした。特に二番目の画像「『旅』ってなんなんだ!?」にはそれが集約されています。
読み手には「ジャングルジム」という取っ掛かりがありましたが、この時点のシャニP視点だと何もありません。そこで彼は何か取っ掛かりを作るために日誌を書かせるという手段を講じました。シャニPが書いてほしかったことはその日あったことやそれについて思ったことといった具体でしたが、具体性の出力が欠けている上に「Pには伝わっている」と思いこんでいる透の書き方では、シャニPは何も得られませんでした。
(下の画像は【つづく】。日誌と「具体」の繋がりが分かりやすい)
WINGシーズン4以降、不器用ながらも透が「伝える」努力をし始めたことで二人の関係は少しずつ変化していきます。
透の抽象的な欲求が抽象的なままに表れたこの場面とWING優勝後の「ねえ、のぼろうよ」でシャニPは完全に何かを掴みました。
ここまで具体的に浅倉透を把握しようとしてきたのに、具体をすっ飛ばして抽象的な透の根本を垣間見たということでしょう。
このように具体を飛ばして繋がれたのは、シーズン4で描かれた偶然によるものでした。
シャニPのこの発言は透のことを理解した上で出てきたものではなく、思い起こされたシャニP自身の体験から出てきたものです。そして、そこに込められたメッセージが透に対して偶然クリティカルだったという構成。
この偶然が優勝後コミュで回収されて、透の「のぼる」とシャニPの「のぼる」が抽象的な領域で(シャニPの中で)繋がったことで、彼は何となく向かうべき方向を定めることができたわけですね。
このように「抽象」「具体」と「言語化」を取り入れてみると、以下の言葉の解釈も広がります。
それまでのやり取りと合わせ、恋愛感情を絡めた解釈をされていることが多いこの言葉。私とて今さら「恋愛感情なんて無い」とは言いません。
ただ「抽象と具体」から考えると、ここで最も注目すべきなのは「伝えたいことの内容」ではなく「伝えるのに時間がかかりそう」という発言そのものであるという解釈が浮かび上がってきます。
抽象的な世界の中で生きていて言語化能力が極めて低い透が、気持ちを伝えるという具体化がいかに難しいか。そして、その困難に立ち向かって「ちゃんと伝え」ようと思ってくれていることの尊さは、どんな具体的な言葉にも優るのではないか。
少々WING編の話で熱くなってしまいました。
ともかく、WING編は透が抽象から具体へ数ミリメートル踏み出し、シャニPが透の抽象の世界に指をかけた話であるということを踏まえてSTEP編に話を戻しましょう。
透の母の疑問は円香のそれと極めて近く、具体性を帯びた質問です。
しかし透は抽象的な欲求に突き動かされて動いているわけですから、そりゃ「なんとなく」としか答えられません。
別の回答があるとすれば円香に対する回答「きたから バーンって」や「飛べるから」といった形になるでしょう。いずれにせよ具体性はゼロですね。
アイドルになることを決め事務所を訪れた透は、プロデューサーに質問を投げかけます。ここで彼女は最初にしようとした質問を取り下げて別の疑問を投げかけているのですが……
昔会ったことがあるかという具体的な答えが用意できる質問から、根源的な欲求に関わる抽象的な質問に切り替えています。感覚、抽象的な欲求の優位性がよく表れているシーンです。
そしてシャニPは具体的なことは何も言わずに「俺が飛ばす」と答えます。
はじめて
ちゃんと返ってきたの、答え
抽象的なことに抽象的に返す、それがこの場面においては正しい返答でした。
そして透は抽象的な問答から、飛ばしてくれるなら昔会ったあの人だろう、と口にしなかった質問にも自分の中で答えを出したようです。
抽象を具体に変換する言語化能力は低い透ですが、具体を取り込むことや抽象から具体に結びつける能力自体は決して低いとは言えません。ただ、その具体は少しすると透の中の抽象的な領域で消化され、抽象的な概念に還元されるために具体の出力があまりされないと言いましょうか。
アイドルの前日譚としてSTEP編がWING編をどう深めるのかということを考える際に、抽象と具体が色濃く表れているこの場面が重要であるというのは確かでしょう。
私個人の感覚的な読みから出た言葉ですが「具体から抽象への還元」というのは非常に重要だと思っています。二人の関係が深まるにつれて、シャニPがその役割を担うようになっているからです。
他のアイドルたちが相手の時でもシャニPが抽象的な発言をすることは多いですし、コミュにメタファーは多用されています。しかし多くの場合、アイドルたちはそこから得たことや考えを具体的な形で――具体的な言葉として――表現してくれます。行動や抽象的な言葉ではなく、具体的な言葉としての結論を出してくれる。
「抽象と具体」は常に存在していながら、主題になることは少ないのです。
一方、透の場合は具体性の領域に中々降りてこられないが性質であるがゆえに、それだけ抽象的領域と具体的領域を繋ぐ他者(シャニP)の働きが重要になってくるのです。
では【つづく】【国道沿いに、憶光年】、そしてGRAD編から具体と抽象、また「具体から抽象への還元」についての例を出してみましょう。
まずは先程も少し見た【つづく】「日誌出 ます」より。
具体的に言語化する能力に乏しい透はシャニPの「具体的には」に対して「言えない」と回答します。今まで見てきたことからしても当然ですね。
ただ、透はこの後「いっこいっこ書く」と宣言してはいるものの、他の選択肢と比べるとグッドコミュニケーションに留まっている感が否めません。
これが私の言う「具体から抽象への還元」の一例です。
ここで、シャニPは「のぼる」に結びつけることで日誌を書く意義を抽象的な領域に投げ込んでいます。
選択肢『いろいろあった』でも透なりに考えて納得してくれたのでしょうけど、選択肢『テープに吹き込むみたいにさ』の方が透の抽象的な世界にダイレクトに伝わっている分、パーフェクトコミュニケーション感が強いように感じられます。
カードコミュの総まとめたるTRUEコミュでも似たようなことが見られますが割愛。次は【国道沿いに、憶光年】です。TRUEコミュ「1個、光」を見ていきましょう。
ここでシャニPが言っていることは【つづく】「日誌出 ます」の『テープに吹き込むみたいにさ』と8割型同じですね。具体的に伝えることというよりは、具体的に捉えることの意義を伝えている点だけ異なっています。
重要なのはここから。
名付けとは意味づけであり、名前というのは物事を分類するために必要なもの――いわば、世界を切り取り具体的に捉えるためのものです。
そんな具体に固執せず「ただの名前」と言い切るシャニP。
大事なのは「ここから見る時は」という部分でしょう。
シャニPと透の相互理解の現状においては、いつまでも抽象的な世界に浸っていることはできません。しかし、抽象的な透が見ている世界を大事にしたい思いもある……そんなバランス感覚がシャニPの中にあるようです。
(名前といえば【途方もない午後】TRUEなので、これも一部引用)
透で
「ただの名前」という具体が多くなりすぎて「音」という抽象的で美しい世界が失われてはいけない。かといって抽象的なことばかりになるとコミュニケーションが取れずに離れていってしまう。シャニPの立場、難しすぎる。
このように具体と抽象の橋渡しは常に危うさを纏っています。
両者の歩み寄り、シャニPの努力。本当に応援したくなります。
ちなみに、コミュニケーションとしては微笑ましく良いものだけども「抽象と具体の橋渡し」という意味では特に意味のなかった会話がこちら。
なんか深い(透にとっては本当にそれ以上でもそれ以下でもない)
シャニPの中で気持ちが動いたものの、それが透には全く伝わっていない様子です。これもまたリアルでええやね。
最後はGRADです。
透GRADシーズン3のコミュタイトル「どうしたいのとか、聞かれても」は、STEP編の「Do you know What she wants to be?」に近い言葉です。抽象と具体と結びつけて語れるでしょう。
それを受けてのシーズン4「息したいだけ」とエンディング「泥の中」を見ていきましょう。
シャニPが透の欲求に気づきました。
彼が透にかけた言葉を細かく見てみましょう。
頑張りたい(抽象と具体の間くらいの欲求について)
頑張れてるのかどうかってこと透が決めていいんだ(具体的)
立派に、命に見える(抽象的)
まさしく「具体から抽象への還元」です。そして「泥の中」では透自身がミジンコを見ることから抽象的な欲求を認識します。
そして、その描写の間に挟まるシャニPの言葉。
言葉そのものを見れば「心臓」は具体的な物で「心」は抽象的な概念です。
しかし文章的には「心臓/どきどき」こそが「心」を表現するレトリックとなっているので、この場面ではシャニPが言葉にしている「心」こそが具体的なものであり、透の言う「心臓」は逆に抽象的なものであるとも言えます。
つまり、ここにおいて「心」と「心臓」は抽象と具体の領域両方に存在しているものになっています。
「泥の中」においてはシャニPから透に言うことはほとんどありません。透からシャニPに向けられた言葉もさっき引用した「……いいや、私」からの部分と以下の言葉だけです。
とはいえ「息したいだけ」でシャニPが伝えた言葉はまだ生きています。
透はミジンコを見るという具体的経験をシャニPの「立派に命に見える」「頑張りたい」に結びつけ、より大きな抽象として飲み込んだのです。
シャニPからの還元がほぼ完璧に成功したパターンだと言えるでしょう。
最後にまた透STEP編に戻りましょう。
現在のシャニPと透のやり取りを描写した「思ったから」では、出会った当初に取り下げた昔の話をします。
ここまで書いてきたことを念頭に置くと「成長したなぁ」という感慨もひとしお。成長したなぁ。
抽象と具体3――円香とシャニPの差異
浅倉透を扱う際に「抽象と具体」が避けては通れない問題であること、そしてこの概念を巡ってシャニPが重要な役割を果たしていることはここまで述べてきたとおりです。
と、ここで気になるのが透の「抽象と具体」との関わり方が円香とシャニPでどのように違うかということです。
非常に簡単にではありますが、まとめておきましょう。
円香は抽象的なものを抽象的なままに受取って抽象的に返す事はするが、具体からの「還元」は必要性が薄いために基本的にしないのがポイント。
例の部屋について――円香STEP
私が持っていない【バグ・ル】【キン・コン】あたりで出ていないなら、今回が初出……よね? 初出じゃないならこの章は気にしないでください。
初出だと仮定して、この部屋について少しだけ考えてみたいと思います。
この部屋を見て真っ先に思い起こされるのは【オイサラバエル】でしょう。しかし、あのコミュでドライフラワーなどは円香にとってマイナスイメージのあるものとして描かれていました。TRUEで円香の中で色々と変わったことも多いのだろうとは思いますが……
STEP編は283プロ所属前のものってことが問題なんですよね。
この背景が現在の円香の部屋として用意したものの流用なのか、283プロ所属前時点の部屋として用意されたものなのかに関しては断言するための要素がありませんので、両方のパターンを考えてみたいと思います。
・現在の円香の部屋として作られた背景の流用である場合
もともと落ち着いた色合いで統一され植物なども置かれていた部屋に【オイサラバエル】を経てドライフラワー等が増えたと見れば、特に不思議はないと思います。
また、部屋を見るにカーテンを締め切っているのも含めてドライフラワーを飾っているというより「作っている」時の部屋のようにも思われます。
(これもまた断言はできないポイントなのですが)
この発言も気になるところです。
この時点で円香がドライフラワーの作り方を知らなかったとも、なんとなく知っているけれどより詳しいことを知りたいと思ったとも捉えられます。
前者だった場合、283プロ所属前の部屋でドライフラワーを作っているのは不自然(既製品を飾っていると捉える場合は不自然ではない)になります。このように捉えた人は背景流用説を推すでしょう。
後者の場合は何も分かりません。283所属前からドライフラワーを作っていても不自然ではないです。
・円香の部屋が283プロ所属前からこうだった場合
別の記事で書いたことですが、【カラカラカラ】の「水、風、緑」というコミュタイトルや朝コミュなどから円香が自然の風景をそれなりに好んでいることは読み取れます。
上の嗜好を前提として考えていくことにしましょう。
283プロ所属前からあの部屋だったということは、円香の嗜好の範疇にはドライフラワーも含まれていたことになります。好き~普通のものはともかく、マイナスイメージを持つもので部屋を飾ろうとはしないでしょうから。
では【オイサラバエル】でドライフラワーがマイナスイメージで書かれていることはどう受け止めればいいのでしょうか。
【オイサラバエル】のメタファーにおいて、ドライフラワーは廃墟やミロのヴィーナスと同じところに位置するものとして書かれました。それは「欠けたもの」「時間経過によって劣化したもの」であり、円香にとって「綺麗」なものではありません。
そしてその「時間経過による劣化」「欠落」はおのずと人生、アイドルに結びつきます。人間もまた時間経過で老いて劣化していく――枯れていく存在なわけで、綺麗な花でいられる時間はあまりにも短い。ドライフラワーや廃墟はその事実を容赦なく円香に突きつけてくるものなのです。
こうしてまとめてみると、気付いた方もいるかもしれません。
「アイドル」という自身の未来(劣化)を強烈に意識させるものに身を置いているからこそ、ドライフラワーや廃墟が持つマイナスイメージが強調されることになる、と。
むしろ「イメージが変わった」の意味は逆なのではないでしょうか。
円香がアイドルになったことで、もともと普通に好きだった(あまり深く考えていなかった)ドライフラワーのイメージが変わってしまった。
そういうことなのかではないかと。
……マジでこの人間をアイドルにした責任は取らなきゃいけない。
なお、以前の記事で書いたことの繰り返しですが、TRUEコミュを経てドライフラワーは円香にとって「綺麗」ではないけれど「いいもの」として収まっています。
「綺麗」「美しい」だけで物事は評価できず、美しいかどうかとは別のところにも良し悪しがあるということを前提におけば、
このような発言と部屋のありようも特に矛盾せず、すんなり受け入れられるかと思います。
空――円香STEP
この章はサクッとまとめていきたいと思います。
感想と想像がかなり多めなので。
「空」が意味するものは何なのか考えてみましょう。
透やシャニPの「空」「飛ぶ」と円香の言う「空」は違うものです。別の言葉が当てはまるのでしょう。
想像多めで、自分なりに当てはめてみました。
「世界」と「社会」です。
このワードについては少し前に雑記で触れたことがあるのですが、そちらの記事はあまりにも雑なので読まないでOKです。
ここで重要なことだけを抜き出します。
その雑記を書いた時は【ダ・カラ】も「ワールプールフールガールズ」も読んでいなかったのですが、そこまで外れてはいなかったみたいです。
多少強引かもしれませんが、今まで書いてきたことと絡めてこう言えるかもしれません。
「存在」――世界――抽象
(〇〇)――社会――具体
(〇〇)には円香と強く結びつく何かが入りますが、何を入れればいいか分からないので保留で。敢えて言うなら「意味」とかかなと思います。
なお「世界」にはそのままの意味と「個々人の世界」の2つの意味があるので注意が必要です。
大小を比較した場合、世界>社会であるのは先に書いた通りです。
しかし「雛菜の世界」のような個々人の世界はどこに固定することもできなません。大きかったり小さかったり、変化するからです。
ともかく。
透はより大きくて抽象的な「世界」の中にいて、円香はその世界のことを知っていてもそれを「絵空事」としてしか認識できないのです。
(「空」に対して「絵空事」を返すのはオシャレですよね)
そんな円香がWINGで「飛ぼう」としたことがいかに重いことであるか、改めて認識させられますね。
大きな意味の「世界」でも社会でもなく「樋口円香の世界」が開けるように、そしてそれが大きくなるように、シャニPにはこれからも頑張ってもらいたいところです。
(余談)
ノクチルの良さに「ただ在る」という世界的、抽象的なものが大きく影響しているといっても、全てがそれで構成されているわけではありません。
既に述べたように、アイドルは社会的な存在だからです。
実際、「さざなみは凡庸な音がする」や「ワールプールフールガールズ」はノクチルがかなり社会の方に近づいてきている話でした。
おわりに
ずっと、どういう軸を設定すれば浅倉透に近づきうるか悩んできました。カッチリしすぎていても、フワフワしすぎていても、簡単すぎても難しすぎてもいけない……いい塩梅の軸が中々見つからなかったんです。
感覚――論理ではカッチリしすぎています。語れることは限られます。
単純――複雑は「浅倉透は別に単純なわけではないよなぁ」と却下。
形而上――形而下では難解過ぎます。
【ギンコ・ビローバ】の時にやった「言葉」も透だと掴みづらい。
紆余曲折の後、やっと「抽象と具体」で書くことができました。
あと2つくらい軸となるものを見つけたいところですが、今はこれで満足しておこうとおもいます。
円香に関しては今まで書いてきたことをかなり使っています。円香自身に関しては、魅力の再発見という感じが強いと言いましょうか。8割くらいは【Merry】の記事に書いてあることを使ってますしね。
(ヨンデネ)
一方で、浅倉透との関係性についての部分は新発見が多かったと思います。
本当は【ダ・カラ】についてもメインで書こうかと思っていたのですが、思っていたより文字数が多くなったこととSTEP編に絡めてそこそこ引用したので満足してしまいました。
曖昧なところも多かったかと思いますが、ここまで読んでくださった方はありがとうございます。それではまた。