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【ラノベ紹介/感想】思ってたよりシビアな世界。見てて楽しい暴走幼女『本好きの下剋上』

 原作が既に完結していて、アニメはシーズン3まで放送し、「このライトノベルがすごい!」殿堂入りを果たしている本作『本好きの下剋上』。いまさら私が紹介する必要はあるんだろうか? 良いじゃない。だって面白かったんだもの。半分紹介、半分読書感想日記だと思って読んでもろて。

 時間がない人はキャラクター紹介の記事ところ、俺の推しのダームエルのことだけでも知って帰っていってくれ。

なお、物語の重要な転機など、重大なシーンについてはネタバレを避けているので安心してほしい。

あらすじと作風について

 無類の本好きで何よりも本を優先する女、本須麗乃。彼女は夢だった図書館司書への就職が決まった直後、地震によって倒壊した本の下敷きになって死亡する。その後、5歳前後の異世界の幼女マインの体で目を覚ます。

 転生した先はエーレンフェストという領地の下町、街を守る兵士の家だった。家が貧しく本などという高級品は手に入らないため、マインは何とか本を手に入れよう(無いなら作ろう)と友人のルッツ、商人のベンノなどと協力して植物紙を作って売り出したり、現代日本の知識を使って資金を稼いだりするなど、様々なことを始める。そんな努力の過程で少しずつ周りにマインの価値を理解する者が現れるようになる。
 物語が進むごとに彼女は出世し、少しずつ本を増やしていくことになるが、出世するのも良いことばかりではなく、様々な面倒事にも見舞われることになるのだった――。

 これが大まかなあらすじだ。こうやって要素を抜き出すと、割とオーソドックスな転生ものに見える。いわゆる現代知識無双の要素も見て取れるだろう。しかし、主人公がただ持ち上げられ続ける作品なのかというと実はそうでもない。何事も順風満帆に進むようなご都合主義的な作品でもないのだ。

 マインは立場が上の人間から「優秀で莫大な利益をもたらす代わりに、とんでもない厄介事を大量に持ち込んでくる地雷」のように認識されているところがあるため、彼女は事あるごとにお説教を受ける(このお説教シーンは主人公の性格もあってコミカルで、次のお説教シーンが楽しみになるような中毒性がある)。
 もちろん、マインは尊敬も多く集めていく。割合でいうと尊敬と困惑・呆れが半々から6:4といった印象だ(物語が進むほど尊敬してくれる人は多くなっていく)。

 それに、マインは転生時にずば抜けたチート能力を獲得しているわけでもなく、現代日本で得られた知識と多めの魔力くらいしか持っていない(しかもこの世界では魔力を持っていることが必ずしも良いこととは言えない)。病弱すぎる体や立場上の問題に頭を抱えながらも、本と読書に没頭できる平穏な生活のために努力を続ける様子が見どころである。

現代知識を持っているからといってそれを活かせるかどうかはやり方次第だし、一人でできることには限界があるということが度々書かれるのも面白いポイント。例えば、作中でマインはこのような困難にぶつかっている。

紙の作り方は大体知っているけれど曖昧なところもあったり、量産する体制を作るのは難しい。さらに、体が虚弱すぎて紙の元となる植物の採取や製紙のための器具の作成もマイン一人では不可能だった。
マインは友人のルッツと協力しながら試行錯誤を繰り返すことで、何とか紙の作成に成功する。

 主人公の努力と苦労が明確に描写されることでちゃんと主人公に愛着を持てるようになっていて、主人公が持ち上げられたり崇敬を集める場面にも納得感が生まれている。チート能力で万事解決、というタイプの作品を敬遠しがちな人でも割と大丈夫な作品だと思う。


 マインの出世の過程は、部ごとのサブタイトルを並べてみると分かりやすい。表紙に書いてある情報だからネタバレにはならないだろう。

  • 第一部 兵士の娘 1~3

  • 第二部 神殿の巫女見習い 1~4

  • 第三部 領主の養女 1~5

  • 第四部 貴族院の自称図書委員 1~9

  • 第五部 女神の化身 1~12

 平民の兵士の家から神殿に入り、領主の養女として貴族(貴族の中でも立場が上位の領主候補生)となって名前をローゼマインに改め、国中の領地から貴族の子供たちが集まる貴族院で上位の領地や王族と繋がり、国家を巻き込んだゴタゴタに巻き込まれるに至る……という感じだ。

 私はアニメの方はまだ見ていないが、PVを見る限りでは第二部の終わりまでやった感じだと思う。マインが貴族となる第三部以降はキャラクターが一気に増え、人間ドラマも複雑かつよりドラマチックなものになっていくので続きのアニメ化にも期待したいところだ。

少し前、第三部のアニメ化が決定した。制作はWIT STUDIO。

 なお、第四部後半、第五部あたりからは本作りから題材が少し離れて、王の証である「女神メスティオノーラの書」ことグルトリスハイトを巡る物語が展開される。本に始まり本に終わる物語である。


本作の魅力

細かくて内容の多い設定、世界観

 本作の舞台となるユルゲンシュミットという国家、その中領地エーレンフェストは異世界ものによくある中世ヨーロッパ風の場所である。お約束というやつだ。しかし、魔力に関する設定、貴族の価値観や歴史、神話など細かいところが作り込まれていて読者を飽きさせない。

 今回は例として、魔力の設定について軽く触れてみよう。
 この作品における魔力は基本的に貴族のみが持っているもので、国家・領地運営のためのリソースとしての役割が大きい。例えば、領主は魔力を用いて街に建造物を創り出したり、領地の礎に魔力を注ぐという役割を持っている。土地に魔力を満たさなければ不作になったりすると言えばその重要性が分かるだろうか。にも関わらず、中央の政変の影響で貴族がかなり減ってしまったことなどから、魔力不足は国家レベルの課題となっている。

 また、魔力は危険なものでもある。まれに平民に大きめの魔力を持って生まれる子供が現れるが、そのような平民は「身食い」という物騒な名前で呼ばれる。身食いは体外に放出できない魔力のせいで体調を崩し、大抵は子供の頃に死んでしまう(貴族の子は基本的に魔力を放出するための魔術具を与えられるので成長できる)。
 主人公が虚弱なのもこの身食いのせいだ。こんな世界では「魔力だファンタジー万歳!」なんてとてもじゃないが思えそうもない。シビアすぎる。

作風についての説明で既に述べたので改めて立項することはないが、意外とシビアな世界で主人公にとっても厳しい展開が少なくないという引き締まったストーリーも本作の大きい魅力だ。

 さらに言うと、魔力は貴族の人生にも密着している。魔力の量が近しい相手との間にでなければ子供ができず、第二次性徴の際には魔力量が近い他者の魔力を感知できるようになるのだ。独特で面白い設定だと思う。

 その他、魔力を動力源として動く様々な魔術具、貴族特有の神々の名前を用いる持ってまわった言い回しなどなどの細かいところに独特で面白い見どころがある。そのあたりは是非実際に読んで確かめてほしい。


多面的に描かれる人物像

 本作品の一番の魅力は何かと聞かれたら、キャラクターたちが生き生きとしているところだ、と答えたい。作者いわく「物語の役割が先にあって役割に合わせてキャラクターが作られている」ということだが、キャラクターが物語に振り回されて都合よく使われている印象は受けない。ちゃんと人物が人物として立っている

 本作品では一人の人間を様々な観点から書いているために、「性格が悪いだけ」「馬鹿なだけ」といったシンボリックな人物はモブを除くとあまり多くない。人物の性格が状況によっていい方向にも悪い方向にも作用することや、各人の得意不得意がしっかりと描かれている。これがキャラクターが立っている大きな要因の一つだろうと思う。

 例えば、貴族となったマイン(貴族名ローゼマイン)の兄ヴィルフリートは、ワガママなところもあるが身内には優しく純粋という美点も持つ人間だ。しかし身内に甘いことが災いし、自分の取り巻きに唆されてとんでもない失敗をしてしまう。
 ローゼマインの側仕えブリュンヒルデは、貴族としては優秀で社交に関しては任せられるが「平民は使うもので、貴族は一方的に命じるだけでいい」という一般的な貴族の感覚を持っていたがために、彼女の家の領地に印刷業を取り入れる時に躓きかける。

 人物の多様な面を描くことによって本作品で重視されている「適材適所」の価値観が強調されるとともに立体的なキャラクターが浮かび上がってくるため、ストーリーが大きく動かない場面でもとても楽しく読めるのだ。

 

キャラクターの多さ

 この作品ではあまりキャラクターが退場しない。マインの立場が変わることで関わる人間が変わっていくのではなく、増えていく形だ。ちょい役だと思っていた人物やかなり前に登場していた人物にも出番が用意されたり、ポンポンと新キャラクターが生えてくることも多い。

 キャラクターの多さを代表する例は、ローゼマインの側近事情。なんと、神殿の側仕えや護衛、城の側仕えや護衛、貴族院での側仕えや護衛が全て別枠(全てについてくる側近もいる)なのだ。特に、貴族院の側近は基本的に在学生である必要があるため、毎年少しずつメンバーが変化していく。

 貴族の名前は5文字以上がデフォと長いのもあって「こんなん覚えきれるか!」と思いながらも、実際に読んでいると意外と忘れているキャラクターが少ないことに驚く。必要な時に必要なキャラクターが動いていて、生きている証だと思う。

 たくさんキャラクターがいるので、好きなキャラクターとも出会いやすいと思う。


キャラ紹介/キャラ語り

 流石に長くなりすぎると思ったので、抜粋して紹介したいと思う。
 ダームエルのところだけでも見てってくれ。


マイン(ローゼマイン)

 植物紙も印刷技術もない本が高価すぎる世界で、本を作り図書館司書になるため奮闘する主人公。思い込んだら一直線、周囲を振り回す暴走特急イノシシ系幼女。そのくせ「身食い」の症状のせいでどうしようもないくらいに虚弱で貧弱、体も成長が遅く実際の年齢よりかなり幼く見える。ちょっと外で活動すると熱を出して数日寝込むし、貴族になってからも体に負担がかかると2~3日寝込んで目を覚まさないのは当たり前。その虚弱さのせいで現代日本の知識を持っていても自分一人では実行できることが少なすぎるため、人を使い、育てる方向に才能を伸ばしていく

 本好きだったことと前世の母親が本以外に興味を持たない彼女を心配して色々なことに取り組ませたことが功を奏し、割とマニアックな知識も多く持っている。この設定のおかげで、現代知識を用いる転生ものの中でもかなり説得力をもった主人公だと言えると思う。

 料理、雑貨、紙や本、さらには昔の神事の復活など、国家や領地に莫大な利益をもたらす代わりにそれ以上の厄介事を呼び寄せる地雷ガール

 彼女がすごいことをして周囲から一目置かれるという、いわゆる「またなんかやっちゃいました?」的なシーンは、厄介な人物に目をつけられて大変な思いをする前フリにもなっていることも多く「マジでやっちゃってる」。   
 しかし、彼女の側仕えによる情報操作や神事などでの活躍が影響して貴族院や神殿では「エーレンフェストの聖女」という呼び名も定着する。

 日本で生きていたときから周囲から本しか見えていない変人扱いされており、転生後も平民の中にあっては日本人の感性と知識があるせいで異質、貴族の中にあっては日本人と平民の感性のせいでもっと異質……とどこにいても浮いている存在。特に貴族の社交は苦手としていて、とんでもないことを口走ったりする。
 しかし浮いていても孤立しているわけではない。彼女の周りにはいい人たちが集まってくる(ただし変なやつも集まってくる)。また、前世で家族や友人をもっと大切にしていればよかったと後悔しており、エーレンフェストで出会った人との良縁は大切にするという想いが物語の核となっている。

 つまり、この作品は「本しか目に入っていないやべぇ女が、異世界で経験を積んで愛を育み、優秀で立派だけど本しか目に入っていないやべぇ女に成長する物語」なのである。結局やべぇ女なのは変わらんのだな……。

 そんな彼女は第三部以降、貴族となったことで平民の家族と家族として接することができなくなる。「貴族としてエーレンフェストごと家族を守る」という彼女の覚悟は胸を打つし、家族と顔を合わせる数少ない機会の中で彼女と家族が思い合う切なくも温かい描写、そんな彼女を受け入れる貴族たちの姿には油断してるとほろっとくる。


フェルディナンド

 本作のヒロイン。アニメのCVが速水奨のイケメンだけど完全にヒロイン。
 作中で最も優秀な貴族で、戦闘能力、魔力量ともにトップクラス。しかし、政治的な事情があって蔑まれる対象である神殿に入っている。立場は神官長。神殿に入ったマイン、貴族となったローゼマインに貴族の常識や立ち回り方、魔力の扱いなどを叩き込む。

 趣味は研究や調合。マッドサイエンティスト気質で、隠し部屋で調合を始めると食事の時間になっても出てこないほどのめり込み、側近たちを困らせることもしばしば。ローゼマインの出自を知っていること、研究者として優秀であることからローゼマインの薬師、主治医としても活躍する。 

 貴族基準で見るとローゼマインへの接し方が過保護で恋愛関係のそれに見えてしまうために、ローゼマインの側仕えの一部からは「もうちょっと距離を取れ」と思われたりする。いいぞもっとやれ。

 過酷な生い立ちのせいで警戒心が強く、容赦ない人物。人と打ち解けるのが苦手だったが、まっすぐで敵意の欠片もないマインとの交流によって氷の心を少しずつ溶かしていく。うーん、マジでヒロイン。作中で2人しかいない、マインが異世界の記憶を持っていることを知る人物の一人でもある。

 そんなフェルディナンドには名シーンがたくさんあるが、物語後半のネタバレになる部分も多いため、2部のマインの前世を知るシーンを推しておくことにしよう。異常な存在であるマインに対する警戒心を持っていたフェルディナンドは、犯罪者の記憶を覗き見るための魔術具を持ち出してマインの記憶を探り、そこでマインが他人に害意を持てない存在であることを確信する。記憶の中でマインの屈託のない心に包まれる様はバブみ爆発やで……


ダームエル

俺の推し。

 正直3番目に紹介するキャラクターではないと思うんけど、好きだから!

 ローゼマインが神殿の青色巫女だった時から護衛をしている下級貴族。第二部で初登場した時は上司に逆らえない性格のせいで護衛対象のマインを傷つけようとした貴族を止められず、処分を受ける。しかしその後は貴族から蔑まれる神殿で平民を守るという貴族的には不名誉極まりない仕事を全うして、マインが貴族になった後も仕えている。そのため信頼も厚い。

 神殿の職務を手伝うことによって文官の仕事もかなりできるようになったため、また、貴族となったローゼマインが下町の家族のことを任せられる数少ない人員であるためにとても重用されている。彼の良いところは義務だから渋々平民とやり取りするわけではなく、ちゃんとギュンターたちに気を配って兵士たちからの信頼を勝ち取っている人格者であるところだ。

貴族は基本的に魔力のない平民のことは見下しているし、「使うもの」としか捉えていない。比較的平民と近い神殿にいるフェルディナンドですら、平民の言葉遣いには顔をしかめたりすることがある。

 彼には経歴に傷があって、ローゼマインに解任されれば大変なことになるという事情はある。しかし仕方なしに仕えているのではなく、ちゃんと心から仕えているし、平民的なローゼマインの良き理解者となっている。

 周囲からは「経歴に傷があって魔力も少ない下級貴族のくせに、なんで領主候補生の護衛騎士というおいしいポジションについているんだ」と思われているが、読者の多くは「俺はお前の努力と優秀さは知ってるからな……」ってダームエル後方腕組みおじさんになってると思う
 「下級貴族で魔力が少ないからこそ魔力を効率的に使って頑張る」というスタイルも中二心をくすぐる。かっこいいよ。

 常識人で人格者だが男女の機微に関しては感覚が少しズレていて、結婚願望はあるのに恋愛が上手くいかないというかわいそうなところもある。そんなんみんな好きになるだろ。彼の恋模様はぜひ本編で確かめてほしい。


ギュンター/エーファ/トゥーリ

 マインの下町の家族。それぞれ父、母、姉。下町の価値観において、何もできないマインはお荷物と言われても仕方のない存在だったが、マインに家族として深く愛情を向けている。ある日を境に急変したマインに困惑しながらも、変わらず愛を向け続けた。マインが貴族となっても、それは変わらない。

 特にギュンターは親バカで、娘を守るためならば貴族相手であっても立ち向かう勇気を持っている(魔力のない平民が貴族に勝てる可能性はほぼ0であり、ギュンターもそれは承知している)。マインにとって理想の男性はギュンターのような人だと作中でも語られている。実際カッコいい。

 個人的に好きなのは、マインが料理を改善し始めた時の1シーン。母エーファは野菜の煮汁を捨てないようにするということは受け入れて料理が美味しくなったとマインを褒める。しかし、魚の干物で出汁を取ろうとしているマインを見つけた時は「気持ち悪すぎる」と干物を取り上げて怒った。
「現代日本の知識だからといって全てが無条件に受け入れられ称賛されるわけではないので工夫が必要」という作品の方向性が見えるいい場面だと思っている。


ルッツ

 マインの幼馴染の少年。急変したマインに困惑して別人になっていることを見抜いている。マインよりもマインの体調に敏感。

 紆余曲折の後、商人ベンノの下で製紙や製本に携わる。その立場になれたのはマインのおかげというのが大きいので、割と脳は焼かれている。マインの無茶ぶりに対応する能力もピカイチで、作中で最もマインに寄り添っている人物の1人。

 マインもルッツを心の支えとしていて、彼に最も甘えている。ルッツに甘えているマインが一番かわいい。でもマイン、前世含めると20歳超えてるんだよな……。ショタに甘える大人……うーん、それはそれで良し!


ベンノ

 マインの価値を最初に見抜いて大儲けする商人。ずっとマインや貴族に振り回されている苦労人で、本や紙の生産において最も貢献している。商人らしく貪欲で、マインに「取れる時に取れるだけ」という商人の基本を叩き込んだ下町の先生。マインが料理のレシピやアイデアを安値で売ろうとするなどする度にキレる愉快な人物でもある。

 しかし利益のためだけにマインと接しているわけではなく、ちゃんと仲が良い。また、昔の恋人が忘れられないので結婚はしないという意外な湿度の高さも持ち合わせている。うわぁやめろ急にそういうところ出してくるの!

 
……ということで、マインが貴族になった後を描いた下町視点の短編も人間関係の見どころが多い。


ハルトムート

ローゼマインの周りに寄ってくるヤベーやつ筆頭の人気キャラクター。ローゼマインの側近で文官。もともとは冷めた少年だったが、ある出来事をきっかけにローゼマインの信奉者(というより狂信者)となる。その行き過ぎた忠誠は主であるローゼマインからも気持ち悪がられている。
 しかし、逆に言えば彼の欠点は狂信的で気持ち悪いことくらいであり、万能な秀才なので使い勝手はいい。……でも狂信者というインパクトのほうが遥かに勝っている

 主人公の名声が高まっていく理由の半分くらいはこいつのせい。貴族院で「エーレンフェストの聖女」という呼称を広めたのはハルトムートだし、神殿や貴族院入学前の子供たちが集まる子供部屋でローゼマインの聖女伝説を延々と語り、子供たちを洗脳する様子も見られる。怖いよ。

 もともと絶対の忠誠を誓っていたが、第五部中盤では改めてローゼマインに「名捧げ」を行う。名捧げ後は主の魔力を感じられるようになるので、より一層キモさに磨きがかかる。磨きをかけるなそんなところに。

名捧げ……自らの名前を刻印した魔石を献上する行為。名を捧げた相手の魔力に縛られて命令に逆らえなくなる。命令に逆らおうとすると場合によっては死亡する。また、名を捧げた相手が死亡すると、名を捧げた人物も同時に死亡する。忠誠の証としての名捧げ、夫婦の愛の誓いとしてお互いに魔石を送りあう名捧げなど、いくつかのパターンがある。

 この男、ローゼマインが死ぬ時に一緒に死ねることにすら悦楽を抱いているっぽいので完全に手遅れ。忠誠とか名誉とかそういう話じゃない。
 ハルトムートが出てくるシーンは大体面白い。


アンゲリカ

 ローゼマインの中級護衛騎士。美人だが、作中屈指の頭の悪さを誇る脳筋。考えることを放棄している分だけ危険への反応が速く、戦闘行動に移ることに一切の迷いがない。
 その頭の悪さたるや貴族院を退学になる危険すらあって家族からも見放されるほどだったが、ローゼマインに取り立てられた上に退学の回避(みんなで勉強の面倒を見た)にまで協力してもらったことに感謝しているため、とても忠誠心が高い。

 護衛騎士という頭を使わなくていい天職に就いているのでアホという欠点もそこまで問題にはならず、愛嬌になっている。

ダームエルなど、護衛騎士であっても文官の仕事をこなせる者も多くなっていくが、アンゲリカに関してはこいつには無理だと諦められているところがある。

 貴族の言葉遣いやおしとやかな仕草はマスターしているためにアンゲリカのことをよく知らない人物は勘違いしがちであるが、目をうるませながら話す彼女の言葉を意訳すると大体「私に聞くな、お前が考えろ」「分からないからそっちで決めたことに従います」等になる。だめだこいつ。

 アンゲリカが出てくるシーンも大体面白い。


エルヴィーラ

 エーレンフェストの騎士団長カルステッドの第一夫人で、貴族社会におけるローゼマインの母親(ローゼマインはカルステッドの第三夫人の子であったことにされ、そこから領主との養子縁組をしている)。

 ローゼマインの印刷業に興味を持ち、貴族の恋物語をたくさん執筆、出版することになる。作品は貴族院などで実際にあった恋愛話を元ネタに執筆しているため、不用意に彼女の前で男女の話をするとネタにされてしまう。
 ちなみに彼女の恋物語は大人気である。大作家先生。

 冷徹な貴族としての面を持ちながら、人情の機微も分かっている。恋物語が絡むとはしゃぐ可愛いところもある。強火のフェルディナンドオタクで、彼を元ネタにした作品やイラストをローゼマインとの悪巧みのもとこっそり印刷したりする

 詳しくは言えないけど、第五部のあるシーンではエルヴィーラに泣かされた。俺たちのマッマである。


ハンネローレ

『本好きの下剋上』読者でこの子が嫌いなやつは多分いない。

 貴族院でローゼマインと友人関係になる、大領地ダンケルフェルガーの領主候補生。武を重んじる領地の貴族でありながら割と大人しい性格で、毎年ローゼマインが持ってくる恋物語を楽しみにしている。領地がよくエーレンフェストに迷惑をかけるせいで頭を抱えている苦労人。「時の女神ドレッファングーアに嫌われているのではないか」と思い悩むほどに間が悪い不幸体質であり、ふとした行動や良かれと思っての行動が良くない方向に転がりがち。

ダンケルフェルガーは騎士見習いが行う競技「ディッター」をこよなく愛しており、ことあるごとにディッターしようぜ! って誘ってくる体育会系。

ディッターには魔物を倒すまでの時間を競うもの、2チームが相手陣地の宝を奪うために戦い合うものなどのバリエーションがある。

 次期領主が兄のレスティラウトにほぼ決まっていることや彼女自身の穏やかな性格から、領主候補生らしいとは言えない、そこそこ普通の貴族女性っぽい人物。しかし武闘派のダンケルフェルガーで育っているだけあって、いざという時に戦う覚悟はバチバチに決まっている。武家の女性っぽいイメージがある。

不幸体質でおしとやかなのに芯が強い女、みんな好きだろ?

 「ハンネローレの貴族院五年生」という完結後の外伝もあるぞ! こちらは書籍化はこれからだが、なろうには投稿されている。私もこれから読む。


ヴィルフリート

 エーレンフェストの領主候補生で、貴族となったローゼマインの兄。領主の意向で次期領主の座が内定していたが、祖母ヴェローニカに甘やかされて育ったために何もできないクソガキだった。ローゼマインやその周囲の存在が刺激となり、努力して比較的マトモな領主候補生となるが、とある出来事がきっかけで次期領主の内定を取り消されてしまう。

 現領主も身内にはかなり甘いほうだが、いざという時には冷徹な判断を下せるだけの覚悟があるが、ヴィルフリートにはその冷徹さが欠けている。
 悪人ではないが、身内に甘すぎることや余計なことを口走る軽率さなど欠点が目立つ。恐らく領主よりも騎士など戦いに関係する仕事の方が向いている人物であるため、作中で度々言及される適材適所の価値観に沿わず、悪いところが目立つ結果になっているように見える

 彼の言動にイラっとする読者もいるかもしれないが、深みのある人間ドラマに欠かせない人物となっていて、ダメなところも多いが等身大で憎めない少年だと思う。


ボニファティウス

 貴族社会におけるローゼマインの祖父となる。パワー型の元騎士団長であり、アンゲリカを含む騎士たちをよくしごいている。孫娘ができたことに喜ぶ甘々おじいちゃんだが、力加減ができないためローゼマインとの接触の際はいつも周囲に緊張が走る。

 旧態然とした貴族意識の持ち主で神殿には忌避感を持っているが、愛する孫娘のために少しずつ変わろうとする。その様子はまさに孫のために時代に追いつこうと努力している現実世界のおじいちゃんそのまま。愛おしいな。


ディートリンデ

 貴族の悪いところを煮詰めたような大領地アーレンスバッハの領主候補生。ワガママで尊大、大領地の権威を振りかざしローゼマインには嫌味を言いまくる。全方面から嫌われており、側近からすら呆れられている。

 絵に描いたような敵役だが、あえて厳しく躾けられていない側面があり、同情できる余地が1ミリくらいは無くもない。いややっぱ無いかも。

 ずっとヘイトを買い続けているが、敵役としては抜群である。アンゲリカとは別方向に飛び抜けた「動くな! もうお前は動くな!」と言いたくなるアホさは癖になる。


 紹介しきれていないキャラクターも多いが、この辺りにしておこう。王族は物語の核心に触れないと紹介しづらいし。ちなみに王族はみんなキャラが立ってて好き。特にアナスタージウス。ぜひその目で確かめてもろて。


おわりに

 こういう締めを考えるのは面倒だから特に無し!
 是非読んでみてくれよな!


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