【ギンコ・ビローバ】及び「樋口円香」を全力で考察してみた-「ことば」という一本の軸から-
Twitterで流れてくる【ギンコ・ビローバ】の様々な考察が溢れているのを見て、自分も考察してみようと思いました。まずはじめに、steinさんの【ギンコ・ビローバ】3話『噤』における映画の「金」と「銀」についての考察がなければこの考察は出来上がりませんでした。感謝。
はじめに
WING編、【カラカラカラ】(TRUE含む)、「天塵」について言及することが多々ありますのでご注意ください(画像を貼ることもあります)。
それぞれのコミュについての考察に行く前に、この記事の大前提についていくつかお話しておきたいと思います。1つ目は「プロデューサー(以下Pと略記)と樋口円香は(全てが正反対というわけではありませんが)基本的に対比される存在である」ということ。
これは、WING編4話『心臓を握る』で「高望みしよう」を選ぶと聞ける有名な台詞「私、泣きませんので」の一つ前、「どこまでも価値観が合いませんね」という言葉から読み取れます。「泣こう」と言うPと「泣かない」円香の対立構造です。「天塵」でも円香から「あなたとは価値観が違うので」という言葉が出ていたり、円香の「売り物はこっちなのに」という言葉にPが言いよどむなど、両者の考えの対立は常に強調されてきたと言ってよいと思われます。それは今回も例外ではありません。
他に対比の例を挙げるなら、【カラカラカラ】1話『ニガニガ』がいい例になります。ここではブラックコーヒーを飲むPと飲めない円香……言い換えれば「大人と子ども」の対比が行われています。また、「大人と子ども」の対比については「天塵」最終話のPの言葉からも読み取れることですね(画像はノクチル全員についての言及)。
2つ目は、根本にあるものは思ったより難解なものではないということ。樋口円香のコミュは全体的に暗喩が多く、美しい表現も多用されるので、考察も盛り上がっています。しかしその根本には分かりやすい1つのテーマがあります。先に内容があったのではなく、骨子となるキーワード(伝えたいこと)をシナリオライターが素晴らしい技術によって肉付けし、ストーリーとして美しく仕上げたものが【ギンコ・ビローバ】であり、その他アイドルコミュだと思うのです。
となると、丁寧で複雑な描写の奥に光るテーマを知りたいと思ってしまうのが人の性というものです。
冒頭で軽く触れたsteinさんは【ギンコ・ビローバ】は「言葉」をテーマにしているという考察の後、3話『噤』に出てくる映画の演出を根拠に「金」=心が世界に溢れ出ること、「銀」=言葉を纏って心を外界から隔絶することと表現しています。私は「銀」についての解釈はほぼ同じで、「金」も意味合い的にはほぼ同じ解釈になりますが、もう少し単純に言い換えておきたいと思います。
「金」「銀」「言葉」……これらのワードから連想されるもの、それは「沈黙は金、雄弁は銀」という諺です。私はこれこそが【ギンコ・ビローバ】ひいては樋口円香という人物を理解するために重要なキーワードだろうと考えています。
注意しておきたいのは、この諺と円香の沈黙を重んじる精神性が直接結びつくわけではなく、この諺が当てはまる「状況」を介して円香の心を捉えているということです。言い換えると、諺が当てはまる状況によって結果的に円香の「言葉にしないのを美徳としている」「言葉に慎重であること」といった性格が炙り出されているという捉え方です。諺の意味を直接円香の内面に結びつけると、意味合いが少し変わってしまうためです。
さて、この考えに基づいて各コミュを見ると、様々なところに「金」=沈黙と「銀」=雄弁が散りばめられていること、さらにはWING編、【カラカラカラ】にも既にこれらの要素が存在していたことが分かります。
つまり、今回最も重視する項目は「言葉」です。そのため、(『銀』も当然ながら爆弾級の威力でしたが)今回最も重視するのは沈黙について触れている3話『噤』と、円香と言葉の関係について最も深く触れている4話『偽』となります。
詳しい考察を始める前に長々と語ってしまいましたが、「Pと円香は基本的に対比される存在であること」「沈黙は金、雄弁は銀がキーワード」ということさえ覚えていただければ問題ありません。では、コミュの話に入りましょう。
1.『信』(2話)-絶妙に複雑なコミュ
このコミュは、基本的には円香が「金」、車両で円香の噂をしていた女子高生が「銀」(?)。そしてPは円香に対して「銀」でありながら女子高生たちに対しては「金」といったところでしょうか。
選択肢『気にしないからって』では、直接口に出してこそいないものの、チェインで円香を気遣う文章を送り、「余計な気遣い」「それなら別の車両に行ってくれて構いません」とあしらわれた後、「私の代弁者になろうとしないで」と釘を刺されます。
後に詳しく触れることですが、円香は言葉を大切にしています。自分の心が言葉として発せられるのは、(円香の心を100%正しく出力できるという意味の)「代弁者」からであっても不快なのでしょう。これは選択肢『でも……』の以下の部分と繋がります。
これは、女子高生たちに対する言葉であると同時に、Pに対する牽制でもあると思われます。Pの言葉を借りると、「あの子達は円香のことを何も知らない」から「好きに言わせて」おくことができる。その理屈でいくと、Pが円香のことを何も知らない間は、Pが円香に向ける言葉は「好きに言わせておけばいい」類の妄言として扱うことができるでしょう。
逆に言えば、Pが円香の事を深く知った上で発する言葉は、円香としては見逃すことができなくなる。だから円香はPに多くを語らず「何も知らずにいてもらう」必要があるのです。
最後の選択肢『そうだな』では、Pがすぐに会話を切り上げて眠ってしまいます。この選択肢でのみPは余計なことを言わず「金」と表現できる状況になります。それに対して円香は、
他の選択肢とは違い、能動的に話し始めます。これは弁解であり「銀」と言ってよい行動でしょう。この選択肢において、円香とPの立場、「金」「銀」が逆転しているわけです。
「沈黙は金、雄弁は銀」。1つ目と2つ目の選択肢ではPが円香円香に対して言葉を投げかけた後円香から釘を刺され、3つ目の選択肢では円香がつい口にした言葉――「銀」によって、Pに心の一部を覗かれてしまいます。まさしく沈黙は金といったところでしょう。
さらに言えば、Pが「銀」であれば円香が「金」、Pが「金」であれば円香が「銀」になるという「Pと円香は基本的に対比される存在であること」という基本に忠実なコミュであるということもできるでしょう。
2.『囀』(1話)-シャニPの「銀」と伏線、微笑ましさのコミュ
『囀』は微笑ましいコミュでありながら、一部大切な情報があります。このやり取りです。
気付いた方も多いと思いますが、これは3話『噤』の伏線(以下の画像)になっています。そして、それはそのまま4話『偽』における「円香は言葉に誠実」という評価にも結びつきます。
覚えてんじゃねえか!!
軽く無視して皮肉で返したPの言い訳を、それなりに時間が経過しているはずであろうコミュ3で掘り返しています(それだけPの歌が印象的だったというのもあると思いますが)。ここから見るに、円香は自分の言葉だけでなく、他人の言葉にも誠実であるということが分かります(多分、透は例外。むしろ透の影響でこうなったんじゃないか……?)。
【カラカラカラ】1話の『ニガニガ』でも分かることですが、Pをよく観察し理解しようとしていることが描写されているわけです。
『囀』はPの「銀」に大きくスポットを当てています。タイトルの囀――さえずる――という字は沈黙とは相容れないもので、「銀」の要素を持つものだと捉えていいでしょう(キッチンで歌っていたのはPですし)。
これらのPの言葉はまさに定義通りの「雄弁」ですね。
選択肢『持っていってくれ』の選択後は、直接的にPの雄弁が描かれることはありません。しかし、選択肢前までのPの言葉が「銀」であることから、(円香が歌を口ずさんだのはPをからかうためという説を採用すれば)Pの言動が円香にからかわれる要因を作ったとして「沈黙は金、雄弁は銀」の型に当てはめられます。まあ、全ての選択肢を型にはめる必要はないと思うので、「そういう捉え方もできるか」くらいに思ってください。
3.『噤』(3話)-円香の「金」/「銀」との狭間で
このコミュは、円香の本質に迫る非常に重要なコミュといえます。噤という漢字は「何も言わない」「口を閉じる」などの意味があり、音読みは「キン」。タイトルからして「金」を体現しています。その「金」を理解するために、まずはこれをご覧ください。
Pに「好きと思えるものが見つかったら教えてくれ」と言われた後の会話です。この会話で円香が沈黙を重んじ、大切なものを自分の心の中にしまおうとする人間であることがはっきりしていますね。
この後「……そういうものかな?」と返したPに対して円香が「さあ、どうですかね」と返すのは、自分の言葉に曖昧さを付与することによって考え方の押し付けにならないようにするという円香の誠実さの一端であると考えています(シャニPが円香を知ることを防ぐ牽制の意味もあるでしょう)。言葉を確定させることの重さを知っているからこそ、言葉を発するときには常に慎重になっているのだと。真面目。
さらに言えば、Pは円香の考え方とは違う、即ち大切なものを人と共有したいと思うタイプであるということも分かり、円香とPの対立構造が見える会話でもあります。
円香の「金」について理解したところで、このコミュを本格的に読み解いていきましょう。まずは選択肢前を見てみます。
たった一言。沈黙を重んじているのですから、言葉数を絞るのは当然です。しかし、この後映画の関係者がやってきて感想を求められると……
映画のどこに魅力を感じたのか、高い言語能力できちんと整理して言葉にしています。そして、これらの言葉は映画関係者を「なるほど、なるほど……」と感銘させます。「せっかくですからもう少しだけお話できたらと」という言葉も、映画関係者が円香から映画の話などをもっと聞きたいと感じた表れです。ですから、これも定義通りの雄弁でしょう。
「素人の解釈」によって関係者の人を怒らせてしまうというリスクもあるので、そういった面でも諺を当てはめられると思います。結果的には問題はなかったですが。円香の語った言葉がお世辞じゃないのは、選択肢『映画、楽しめたようでよかった』後の会話を見れば分かります。
ここで、円香は映画を沈黙に結びつけています。円香が非常に大切にしている「金」と結び付けられている以上、映画は本当に傑作だったのでしょう。
しかし円香は関係者に感想を求められて沈黙を破りました。その理由はごく単純で、感想を求められて何も言わないのは失礼だからという必要に駆られてのことです。【カラカラカラ】TRUEコミュ『エンジン』でも触れられていますが、円香は基本的にP以外には普通に接していますから、この状況では語らざるを得なかったわけです。
ここから、皮肉な事実が浮かび上がってきます。それは、円香とPの関係の中には、Pが意図的に円香の「金」を脅かすことはまずない(Pは踏み込んでいくが、円香に常に拒否権がある)という安定した空間が存在しているということです。『エンジン』ではPが踏み込もうとしましたが、最後は円香が全力で拒否を示したためにPが一歩引きました。この全力拒否は、相手がシャニPだからこそできることでしょう。
P以外の人物が円香の心の中を求めたとき、円香は「金」を「銀」に変えなくてならない状況に置かれてしまうのです。最初の「さっきの映画はどうだった?」というPの質問に対して「いい映画でした」というはぐらかした一言で済ませている円香ですが、それだけで終わったのであれば円香の「金」は守られたはずなのです。
最後に、TRUEの伏線となる映画の内容について軽く触れておきましょう。
短い言葉ですが、ここから読み取れることが一つあります。それは、ラストシーン、映画の主人公は恐らく言葉を発していないということです。心情を風景のみで表現する技法は特段珍しくもないですし、円香が「解釈」をしている時点で、少なくとも主人公の心情を直接的に表すような言葉がなかったことは間違いないでしょう。
言葉にせず溜まりに溜まった感情は、世界に溢れ出るのです。それが言葉という形でなくとも。とりあえずここでは映画の演出と円香の「金」はほぼイコールで結ばれるものであるということだけ覚えていただければ十分です。
4.『偽』(4話)-言葉の重み
私的には最重要コミュです。円香と「銀」が深く深く描かれているコミュでタイトルは『偽』。いつわる――「銀」の要素、しかも粗悪な「銀」を多分に含んだタイトルだと言っていいと思います。
「そう? 知らないけど。アイドルに真剣だからなんじゃないの。落ちてもいいって思えないから。違う?」
ここでも円香の誠実さがよく表れていると思います。相手のことは分からないから、自分の言葉を確定させずに少しずつ相手の心を探っているといったところでしょうか。普段は「金」を重んじる一方で「銀」に身を置くときは非常に慎重になるというスタンスです。
そして円香はアイドルを元気づけることに成功します。雄弁も金よりは劣るとはいえ「銀」と表現されるだけあって、価値がないわけではありません。円香の言葉はアイドルの力となりました。
赤の他人を励ます選択をしたのは、円香自信の優しさによるものでしょう。私としても、円香が彼女にかけた言葉は優しさに満ちたものだったと思います。しかし、円香はそうは思っていないようです。「適当に生きるほうが楽」といった円香の根本的な考えを『偽』っているということが彼女の心に重くのしかかっているように思われます。
もしも円香が自分に嘘をつかずに「願いは叶わない」「適当に生きるほうが楽」と言葉をかけていたら、アイドルがどのような反応をするのかは想像に難くありません。円香もその程度のことは分かっていたはずです。つまり、その言葉を投げかけるのは即ち「彼女を慰めようとした自分自身の優しさ」に嘘をつくことになってしまいます。
最初からアイドルに声をかけないというのが沈黙たる「金」を守る最善手でなのでしょうが、円香は円香自身の優しさ故にその選択を取ること(自分の心を「偽」ること)はできず、「銀」に身を置くことになりました。
円香があのアイドルを見てしまった時点で「嘘をつかない」という選択肢はなくなり、「銀」に身を置くしかなくなってしまいました。その状況の中で、円香は誠実に、慎重に言葉を選び、正解を考え続けたのでしょう。
さて。2枚目の画像について、私は「たぶんね」という言葉に注目したいと思います。この言葉はPに対する皮肉です。「たぶん」という言葉を使って円香に一歩踏み込んだPに対して、同じ言葉を使いながら結論を濁して一歩退くということです。また、円香が多用する「知らないけど」などと同じで、言葉に対して慎重であることも伺える言葉だと思います。
円香の誠実さについては何度か触れていますが、改めて私見を述べたいと思います。円香は言葉の持つ力と、発した言葉に対する責任を重く考えていて、だからこそ責任の持てない言葉は発さないのではないでしょうか。「知らないけど」などの言葉で濁すのは、実際のところは本当に知らないから、自分の言葉に確証があるわけではないからであると私は考えているのです。曖昧さを残すのはそれだけ言葉に慎重であるということなのでしょう。
さて、次は気になっている人が散見されたこの部分。
この部分はアイドルという存在の不確実性、円香がWING編『心臓を握る』で吐露した恐怖心に繋がる言葉であると考えています。
何度も自分のレベルを試され、重い期待を背負って矢面に立つのは常にアイドルです。円香はそんなアイドルのことを「売り物」と表現しています。失敗しても大勢から叩かれるのはアイドルで、「まわりの人たち」に及ぶ影響は少ない。『天塵』では、そういった部分が色濃く描かれていたと思います。透たちの行動によって叩かれたのはノクチルで、番組側が叩かれることはありませんでした(我々は事情を知っているので番組側に文句を言うこともできますが、ただ番組を見ていた人間からすればそんなことは知り得ないので)。Pは関係者から色々言われ、ノクチルの仕事探しにも苦労していましたが、やはり一番深いダメージを負ったのは不特定多数から叩かれて評判を落としたノクチルという存在でした。
そして、これは【カラカラカラ】のホームユニットでの台詞(衣装☆1)「ガラスの向こうから見つめないで 一緒に溺れる気もないくせに」とも対応しています。溺れる危険性がある水槽の中(アイドル)と、安全な水槽の外から見つめるPという構図が、【ギンコ・ビローバ】においては「薄手の衣装」と「暖かい服を着たまわりの人」という形に置き換えられて描かれています。
さらに『アジェンダ283』において、ストレイライトが捨てられたアイドルのCDを発見するシーンがありましたが、これもアイドルという存在がいかに不安定であるかを物語っている場面でした。このシーンにノクチルは登場していませんが、【カラカラカラ】ホーム会話(私服☆1)の「あそこに廃墟があるでしょ ああいうのを見ると、それが建てられた日のことを思う ……思わない? そう」という言葉から、円香が捨てられたアイドルのCDを見た時に何を思うのかは大方想像がつくのではないでしょうか?
アイドルという存在が「冷え」ているのは今日に限ったことではなく、常に「周りの人」よりリスクを背負って立っていることから、Pの言葉に対する返答「今日だけじゃありませんが」が出力される。
ちなみに、信頼度4のこの言葉は、円香の現実的な思考と「ことば」と「責任」についての考えの両方が窺えるものとなっています。
このコミュについての特に重要なことは大体言ったのですが、もう少し感想や想像が残っています。もう少しお付き合いください。
これは『信』で「私の代弁者になろうとしないで」と言った円香がPの言いたいことを代弁する場面です。円香が言い切るくらいにはPが何を言うかが透けて見えていたんだろうなと。『エンジン』でも「あなたが考えていること、当てましょうか」と言っています。Pのことを知りたいという思いや、好意的な感情と嫉妬や嫌悪感といった複雑な感情の相克は一貫して描かれていました。そういう点でとても重要なシーンだと思います。
そして、選択肢『……大丈夫』
この選択肢では、Pの言葉によって円香が「金」に戻る過程が描かれているように感じました。また、Pの言葉は先程述べた円香の『偽』を肯定し包み込むものであり、円香にとってある種の救いのような言葉でもあったように思います(沈黙の時の表情で目が少し見開いたのはそのためなのではないかと)。1枚目の画像で、円香がPの言葉に対して沈黙しているのは、Pの言葉を受け入れたことの表れなのかもしれません。
5.TRUE END『銀』-全てのまとめ
ようやくTRUEです。今までのコミュ全ての総まとめ。いくつかの考察を行った後、タイトル『銀』が何を表しているのかについて話して終わりです。
さて、このコミュではPが雄弁を存分に発揮します。定義通り、「人を感銘させるような」言葉ですね。
特に2枚目は、言葉を発さない円香と内面を言葉にしているPの対比関係が分かりやすいシーンであることが理解されると思います。
Pの言葉、即ち「銀」をしっかりと咎めていきます。細かい「言い方」をつつく……円香がいかに言葉に対する責任を重く見ているかがよく分かる一幕です。
そして、ついにやってまいりました。問題の部分です。
これらの言葉はモノローグであり、円香の心の中が描かれているシーンです。円香が実際にこの言葉を発したわけではありません。今まで読み解いてきたことのから、円香が自分の根本に関わる部分をPに語ることは基本的にありえない(だからこそ『心臓を握る』は名コミュなのだと思います)こと、円香とPが対比されるという基本的な構造から見れば、「銀」に対しては「金」、即ち円香は沈黙する側であるということからも理解できます。
ここで、『噤』で語られる映画の演出が活きてきます。円香が言葉にすることのない、しかし溢れるほどに大きい思いは、銀杏の金色(黄色だろというツッコミもあるかもしれませんが、明らかに映画の表現という伏線が回収されたものですから金色とします)となって視界を埋め尽くします。
(以下、円香の映画についての発言)
『銀』においてPは「プロデューサー」ではなくひとりの人間としての姿をちらつかせます。Pの言葉に触れて一層「プロデューサー」という立場から解き放たれた「あなた」を知りたいという気持ちが高まり、溢れる。それが銀杏という金色に託されて、円香の「心が世界に溢れ出た表れ」となっているのです。【ギンコ・ビローバ】ピックアップガシャの名称である『AMBIENT』は主に「周囲を取り巻く」「完全に包むさま」といった意味らしいので、世界が金色に染まったことからつけられたガシャ名だったのではないかと想像しています。
その他のPに対する細かい感情(嫉妬、憧れ、期待などなど)は、それぞれが抱える樋口円香像に託したいと思います。私に色々な円香を見せてくれ。イラストもSSも全て寄越せ……。あっはい自分も書きます頑張ります。
5-2.(11/5追記)「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」についてもう少しだけ詳しく
少し本題からずれますが、やはり気になっている方が多かったので追記という形で自分の考えを書くことにしました。
私は「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」の対象は「Pのスーツ」「Pが纏っている『銀』」のことであると解釈しています。Pの言葉の奥にある本心、ありのままのPを見たいという思いです。「円香はプロデューサーに挫折してほしいのではないか」といった考察もありましたが、私は「引き裂かれる」のはPの「肩書き」「言葉」であってPの心ではないと考えています。なぜなら円香は「優しい」からです。だからこそ円香が望んでいるのは「まっすぐな人間であるPが折れてしまうこと」ではないだろうと。
――では「ありのままのP」を見ることに、円香は何を期待しているのでしょうか。彼女にとって「ありのままのシャニP」はどのようなものとして想定されているのでしょうか。
私は、円香は「肩書が破られて本物のPが見えた結果、それが綺麗なものではないと判明すること」を期待しているのではないかと考えています。これが比較的ダメージが少なく、ノクチルの4人とアイドルになる前の日常に戻る(逃げる)ことができるパターンだと思うのです。
「信用に足るP」が折れるところを見るのは、不安定で怖い世界から幼馴染と逃げるということはできても、優しい円香にとってダメージが大きいのです。そもそも……
このあたりで一度Pは信用に足ると納得してしまった円香が、自分だけ諦めて逃げるという選択をすることができるのでしょうか? WING本戦敗退コミュ『風穴』や【カラカラカラ】TRUE『エンジン』を『偽』や『蛇足』を踏まえて読むと、Pがどれほど手痛い失敗をしても、彼が諦めない限りは円香がPから離れることはない(できない)でしょうし、Pの心が完全に折れてしまったのだとしても、Pが善人だろうと思っている状態であれば、円香はPを励まそうと「正解」を探してしまうのではないでしょうか。それこそ、【ギンコ・ビローバ】で見ず知らずのアイドルを励ましたように。
そういうことから、円香が自分を偽らずかつ少ないダメージで逃げられる条件は「Pがそもそも優しくする価値が一切ない人間であること」=「一見好青年だが、肩書を取ってしまえば醜い本性が露見すること」であると考えたのです。
しかし、これだけで「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」を説明できるとは思えません。もう少し考えたいと思います。
これは【ギンコ・ビローバ】『信』について、私が書いたことです。
この理屈はもちろん円香にも適用されるべきことです。つまり、本当のPを知らない限り円香は結論を出すことができません。だから円香はシャニPに自分の内面を覗かれたくないと思いつつも彼の内面を知りたいと思うし、自分の気持を代弁されることは拒みながら、シャニPの心を言い当てようとするのです。
また、円香は常にアイドル(理想/不安定な世界)と今までの日常(現実/安定の世界)の「バウンダリー(境界線)」にいて、その時々によってどちらかの側に微妙に揺れているように思います。Pの本質を深くまで知った時(Pの本質がどちらであったとしても)がその状態からどちらかに振り切れるきっかけとなるはずです。
先程も述べたように、円香にとって分かりやすく安息をもたらすのは「肩書が破られて本物のPが見えた結果、そこにあったのがひどく醜いものだった(そしてアイドルをやめて平穏な日常に戻る)」というパターンですが、円香が望んでいるものは本当にそれだけなのでしょうか。
変化や不安定さに対する恐怖、それから身を守るための言動。それでも彼女はどこかで「理想」を求めています。現実的な思考を持っているのに理想を追い求めてしまうし、理想を求める姿勢や努力できる人に憧れに似た感情を持っているから、そのギャップで苦しんでしまう。
つまり、ねえ、そういうことだと思います。
これは敗退直後のコミュの方が分かりやすいかもしれませんね(下の画像)
さて、Pが安心して背中を任せられる存在であると納得することは、円香自身が不安定な世界と向き合い続けるということを意味します。その一方で、円香の内面の不安定さ(バウンダリー)には一応の決着を付けることができます。円香が本当に信頼できると断定したPが隣にいて、そこにノクチルがあるのなら、不安定な世界も、揺れ続ける心を抱えながらの生活よりは遥かにマシなものに感じられるでしょう。
だから「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」という言葉は難しいのです。「理想」を求めているのか「現実」を求めているのか。円香の中にも明確な答えはないのかもしれません。確信を持って言えるのは、この言葉には円香の感情の複数の要素が入り混じっており、1つのものを提示するだけで説明することはできないということのみです。
想像を述べさせていただくなら、
「Pの本性が醜いものであってほしい」(現実):「Pが本当に信頼できる人間であってほしい」(理想)=9:1、もしくは8:2くらいだと思ってます。
5-3.『銀』とは一体何なのか
TRUEタイトル『銀』は何を表しているのでしょうか。「銀杏」でしょうか。しかし、映像的な部分で銀杏は円香の視界を覆う「金」として表されています。それとは違う、もっと比喩的な言葉であると考えるのが自然でしょう。
ここで最初のテーマに立ち返りましょう。「沈黙は金、雄弁は銀」。
「銀」とは雄弁なのです。そして、雄弁といえば……
プロデューサーですよね。
ということで、私はこの『銀』というタイトルを『あなた』と訳したいと思います。限定SSRのTUREエンドにピッタリなタイトルだと思いませんか?
ここまで、「沈黙は金、雄弁は銀」という諺を軸にして【ギンコ・ビローバ】についての考察を行ってきました。一度、各話について非常に簡単にまとめてみたいと思います。
1話『囀』……Pの「銀」
2話『信』……お互いの「金」と「銀」
3話『噤』……円香の「金」(外面)
4話『偽』……円香の「銀」
5話『銀』……円香の「金」の内側とそこから覗く「銀」
「樋口円香」という少女については、まだわからないことが無数にあります。その一方で【ギンコ・ビローバ】という「コミュ」は要約していけば意外とシンプルなテーマに行き着くよね、という提案でございました。
……もうちょっとだけ続くんじゃ
0.今回の考察から過去コミュを振り返ったりちょっと邪推してみたり。ゆるーく見てくださいのコーナー
1.今回のガシャ画面の円香の台詞「爆音?どこが」の意味を想像する
【ギンコ・ビローバ】では円香の中にある言葉が、感情が、円香という一人の少女の器には収まりきらなくなり、世界に溢れていきました。「円香の言葉が」溢れ出したのです。円香からすれば、心の中でその言葉が大きく、即ち「爆音」として響き渡っていたのではないでしょうか。しかし実際には円香は何も言葉を発しておらず、現実世界にあるのは静寂です。内心と外側の差がこの「爆音? どこが」という言葉に繋がったのではないかと、想像を語っておきます。
2.ハロウィン皆かわいいねってことで円香について考える
Twitterでも呟いたことなのですが、円香のハロウィンコミュについてまとめてみたいと思います。いたずらのテーマは「囁き」でした。しかし、円香のコミュを見た人はこう思ったはずです。「囁いてないじゃん」「いたずらもしてないじゃん」と。
しかし、
これらの情報から分かるのは、円香がPが起きるまで近くにいた(恐らくは対面に座っていた)ことです。「コトッ」という音は紅茶か何かを入れて机に置いた音であると想定されます。Pが起きた瞬間に皮肉を言うために座って待っていたんじゃないでしょうか。そこから、「いたずら」に相当する行動は「Pを起こさなかったこと」だろうと創造することができそうです。
では「囁き」についてはどうでしょうか。果穂のハロウィンコミュを見ると果穂は囁きではなく、耳元で大声を出すことでプロデューサーを起こしていますから、「囁き」というのはあくまで、シチュエーションのテーマであって、アイドル毎にそれぞれの「囁き」があるようですね。
では、円香の囁きとは一体何だったのでしょうか。私は、この記事で散々話題にしてきた「金」と繋げて考えたいと思います。沈黙の中で、Pが自分から起きるまで待ち続けた円香。しかし、Pが目覚めるまでの間、円香が何も考えていなかったわけではないはずです。Pが起きるまで待ち続けている間、円香が「金」の中にしまいこんだ心の言葉、それこそが円香の「囁き」なのではないでしょうか。もしくは、テキストにこそ書かれていないですがボソっと何か呟いたりしているかもしれません。個人的にはこのあたりと繋がると考えています。
3.『心臓を握る』についてもう少し詳しく
最初に言いたいことをシンプルに表現したいと思います。
This is 「金」
『心臓を握る』は円香の心が負荷に耐えきれなくなり、「金」を破ったコミュであると解釈することができます。その円香が、Pの言葉=「銀」=「あなた」によって心を救われる、という構図ができています。
「でも……それ、誰にも言わないで」という言葉は、Pに対して「金」を要求しているわけですから、円香がPの言葉を受け入れたという証明でもあり、Pの言葉が円香だけでなく「両者にとって大切なもの」であると円香が認定したしたことを意味します。このやり取りを「銀」にしてほしくない、という小さな我儘が可愛らしいと思います。
4.言葉について語られている過去コミュを一部抜粋して並べてみる
・『水・風・緑』
ちゃんと感謝するの真面目ですね。ただ、Pについては感謝するかしないかの基準が円香の中にあるように思います。自分の服を濡らしてまでサンダルを取りに行った時はPに感謝していますが、「タオル探してくるから」については感謝を言葉にしていません。私は、円香の中に「プロデューサーの仕事としてはこれくらいはやってもらわないと困る」という基準があるのではないかと想像しています。
ちなみに、この『水・風・緑』は円香の好きなものでもあるのではないかと思っています。朝コミュで花瓶の花に反応したり、窓を開けて換気したときに「気持ちいい」と言っているので。あくまで想像ですが。
・『手すりの錆』
・『エンジン』
「答えないで」と「言わせてくれ」の対立です。
・『バウンダリー』
・『二酸化炭素濃度の話』
円香がシャニPに対して強い言葉使うとき、そういうことなんだろうな~。
・『心臓を握る』
このコミュについては語ったのでこれ以上は特に何も言いません。
・『蛇足』
様々な感情が湧き上がってくるこのシーンですが、円香の「ことば」に対する強い思いを考えた上で見ると一層泣けました。
・【閑話】
円香視点で話が進んでいく、円香の心の中を丁寧に描いた良コミュです。「小糸、ちゃんとしてるね」「食べな、たまには」などの言葉は直接語られることはなく、傍から見れば円香が小糸で遊んでいるだけに見えます。大事な事は言わない、しかし強い絆で結ばれた4人。
まとめ
円香が背負ってしまった期待とプレッシャー、アイドルという不安定なものに身を置く恐怖、ノクチルの絆……円香の根本には「ことば」以外にも様々なものがあるはずです。【ギンコ・ビローバ】は円香の根本にある要素うちの一つを掬い上げて描かれたストーリーでしかないわけで、これだけで円香の全てを掴もうとするのは間違っているでしょう。
ですが、「ことば」について考えることで樋口円香の一部に肉薄することはできたはずです。今後のカード追加が楽しみであり、怖いところでもありますね。クッソ長い記事をここまで読んでくれた人には雛菜がプリンを「あ~ん」してくれるよ、よかったね。
ありがとうございました。
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