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太宰治『斜陽』完全ガイド|5分でわかるあらすじ・テーマ・感想
素敵な人の頬は夕べによく染まるものです。
あなたにも覚えがありませんか。
傾いた陽の、それ自体の美しさではすべてを説明することはできないし、ある人がどれだけ素敵であっても、醜いと思えば醜くなってしまうものです。客観、なんて言葉がありますが、あんなのはどだい嘘でございます。私たちの内側には傾く陽があって(わかりますか、想像なさってください)哀愁をもってなにかを見つめることができるのですけども、美学がなければなんにも役に立ちません。それを知っていながら、世間に忙殺されて文章をまともに読むことができなくなった現代人が、私にはとっても悲しいです。
本を読んでください。ともに美学を身につけませんか。これを読んでいるあなたには、必ずその意味が、わかるはずです。
戦後の日本を映し出す鏡——太宰治『斜陽』
「斜陽」とは、傾きゆく太陽を意味する言葉。戦後の混乱期にあって、新しい時代の波に飲み込まれる旧家の人々を描いた太宰治の傑作中編小説です。
1947年に発表された『斜陽』は、貴族制度廃止により没落した華族の母と姉弟を中心に、彼らの葛藤、苦悩、そして希望を映し出します。この作品は連載直後から話題となり、「斜陽族」という流行語を生み出すほどの社会的影響を与えました。
物語は、母と娘のかず子が東京の屋敷を売り払い、伊豆の山荘での生活を始める場面から始まります。戦争から帰還した弟・直治は心身を蝕まれ、堕落の道を進む一方で、かず子は小説家・上原二郎との関係を通じて、自らの生き方を模索していきます。やがて、かず子は母の死を経て、新しい命を宿しながら未来への希望を見出しますが、弟・直治は自ら命を絶つという悲劇的な結末を迎えます。
5分で読める『斜陽』の要約
さて、ここから要約です。
5分で読めるくらいの長さで要約してみました!
第一章
かず子と母は、戦後の混乱期に伊豆の山荘で静かな生活を送っている。彼女たちは戦争と家計の悪化によって、かつて住んでいた東京・西片町の屋敷を手放し、この田舎での生活を余儀なくされた。かず子は庭で見つけた蛇の卵を焼き捨てるが、その行為に対して母から叱られる。この出来事を通じて、かず子は自身の心に潜む罪悪感を意識するようになる。
母は貴婦人としての気品を保ちながらも、日々の生活に疲れと病の影を漂わせている。かず子は母を深く愛し、敬意を抱きつつも、生活の苦しさや将来への不安を感じている。彼女たちの生活は質素でありながらも、かつての華族の誇りが随所に残されている。しかし、その裏には戦争がもたらした時代の変化や、家族が抱える経済的な問題が重くのしかかっている。
母の体調は徐々に悪化しており、かず子は母のためにできる限りの支えをしようと努力するが、戦後の社会での生活は厳しく、家族の将来に暗い影を落としている。
第二章
かず子は山荘の庭で火事を起こしてしまう。火の後始末を怠ったことが原因で、近隣住民に迷惑をかけてしまうが、村の人々はその火事を大事にせず許してくれる。一方で、かず子の中には、自らの過失に対する責任感や村の人々への申し訳なさが残る。母との日々の暮らしの中で、次第に家族の今後についての不安が募り、二人の関係に微妙な緊張が漂い始める。
第三章
物語の舞台は雨が降り続く陰鬱な日々。かず子は縁側で淡い牡丹色の毛糸を編みながら、幼少期の思い出や母親の優しさについて思いを馳せる。しかし、同時に、母や弟・直治に対する不安や恐怖に駆られ、これから起こり得る悪い未来を予感する。
直治が南方の島から突然帰還する。彼はお母さまの病気を指摘し、マスクを勧めるなど一見家族思いの態度を見せるが、日々の生活では無気力で酒浸りになる。ある日、かず子は直治の昔のノートブックから「夕顔日誌」を発見し、そこに書かれた彼の破滅的な思考や苦悩を知る。彼の葛藤は、戦後の変化や個人としての孤独に深く根差していることが明らかになる。
第四章
かず子は、弟の師匠であり以前から自分の心の中に影響を与えてきた人物、上原二郎への手紙を書き始める。彼女は生活の苦しさを吐露し、既存の価値観に従う「女大学」を捨て、上原の愛人になることで新しい生き方を模索しようとする決意を綴る。彼女は上原との過去の関係を回想しつつ、彼に対する感情の深さを表現する。二度目の手紙では、自身の願望と苦しみをさらに詳細に説明し、上原との新しい生活を夢見ていることを伝える。かず子は、既存の道徳や社会の価値観から外れた生き方を選択しようとする中で、愛人になるという立場を受け入れる覚悟を示し、上原からの返事を切に待つ。
第五章
手紙を送ったものの返事はなく、かず子は孤独感と喪失感に苛まれる。そんな中で、母の体調が急激に悪化し、肺の病が進行していることが明らかになる。村の医師や東京から訪れる専門医による診察も手遅れであると示唆される中、かず子は母の最期を悟りながらも懸命に支えた。
母との時間が限られている中で、かず子は「母に尽くすこと」と「自分のこれからの生き方」を模索する。母の静かな死に対する受け入れや、看護婦たちとの会話を通じて、かず子は生きる意味や、時代の変化と自分の立場について深く考えるようになる。
最終的に、母は静かな秋の夕方に息を引き取る。その死は静謐で美しく、母が貴婦人としての威厳を保ったままこの世を去ったことが強調される。母の死をきっかけに、かず子は新しい道徳観を持ち、自分の人生を自ら切り開いていく決意を固める。
第六章
母の死後、かず子は新しい倫理や恋にすがって生きていこうと決意する。一方、直治は東京で、放蕩の生活を続ける。ある日、かず子は兄の行動を利用して上京し、上原の住所を訪ねる。しかし、そこには上原の妻と娘が住んでおり、上原がどこにいるかを教えられる。かず子は上原を探して、夜の街を彷徨い、ようやく酒場で再会するが、上原の姿は以前とは大きく変わっていた。
かず子は上原と二人きりの時間を過ごし、彼との恋が一時的に再燃するが、その後のやり取りを通じて、上原の破滅的な生活と自暴自棄な態度が明らかになる。最終的に、かず子は自分がこの恋において何を求めているのかを再確認し、上原との関係に複雑な感情を抱く。
物語の最後、かず子は幸福を感じる一方で、直治はその朝に自殺する。
第七章
第七章は直治の遺書で構成されている。直治は自身の生きづらさ、階級の矛盾、そして自らの存在意義を苦悩しながら綴った。彼は貴族として生まれたことの罪悪感と、それをどう受け入れるべきか葛藤している。直治は自身が生きていくには力不足であると感じ、死を決意する。
彼は「人間はみな同じだ」という言葉への嫌悪感を示し、それが民主主義やマルクス主義とは関係なく、ただの嫉妬や劣等感から生じた言葉であると述べる。また、直治の中で民衆に近づこうとする試みや、貴族的な生き方との狭間での苦悩を吐露する。
さらに遺書には、直治が秘めていた恋心が明かされる。その相手はある洋画家の妻で、彼女の清らかさや美しさに惹かれながらも、それを打ち明けることができないまま、秘めた思いとして残る。直治は自らの死が家族に悲しみを与えることを理解しつつ、それでも自身の限界を悟り、最終的に死を選ぶ心情が詳細に語られる。
第八章
直治の死から一か月後、かず子は冬の山荘で孤独に過ごしていた。彼女は上原二郎に宛てた最後の手紙を書き、自らの心境と決意を語る。
手紙の中で、かず子は自分が上原に捨てられ、忘れられつつあることを受け入れる一方で、彼の子供を宿していることへの喜びと誇りを表明する。彼女は古い道徳観を完全に拒絶し、母としての誇りと新たな道徳革命への信念を掲げる。
かず子は生まれてくる子供を希望の象徴として捉え、「古い道徳を押しのけ、新しい命とともに戦う」決意を述べる。彼女は、自らを「道徳の過渡期の犠牲者」と位置づけながらも、次世代のために生き抜く覚悟を固めている。
手紙の最後では、かず子が生まれてくる子供を上原の妻に一度抱かせたいという願望を告げる。この願いには、直治という「小さい犠牲者」の存在への思いが込められている。
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